209.順番が逆ですわ
「ヘンリック様、それなら順番が逆ですわ」
私が切り出したことで、ユリアンから話を聞くと勘違いしたらしい。眉を寄せるから、この人の政での公平さを改めて認識する。こういう正しさは、とても好ましいわ。
「まず、ユリアンが危害を加えた三人のうち、一番爵位が低い者から話を聞くべきです。なぜなら上位者が先に話せば、下位の者はそれに合わせた話しか出来ませんから」
忖度というやつよ。前世で一時期流行った言葉だった。阿るも近いわ。伯爵家の三男が言えば、子爵家や男爵家の子は合わせるしかないの。笑顔できっちり逃げ道を絶った。先に男爵家から、その意見にユーリア様が賛成する。
「私はアマーリア様の方法を支持するわ」
穏やかに微笑みながら、ユーリア様が追い詰める。異論は認めないと厳しく伝えた。表面上は平和なのに……これが貴族夫人の社交なのかしら。ちょっと怖いわ。いえ、ユーリア様は優しさと私の味方だから、驚いたくらいの表現がいいかも。
「では、シラー男爵家から聞こうか」
ヘンリック様はあっさりと方針転換した。人の意見を撥ね除けないところが好きよ。
シラー男爵家の少年は、次男だという。寄親である上位貴族の側近として、ティール侯爵家の次男に仕えた。頷くユーリア様が補足する。
「さきほど無礼を働いてお帰りになった方々ね」
なるほどと頷いた。あの侯爵家の次男が騒動を起こし、この子達は巻き込まれたのかもしれないわ。側近なら諌めるのも仕事だけれど、自分より立場が上の人間に意見するのは勇気がいる。まだ子供だし……。
「オイゲン様は……その……坊ちゃんが公爵家の人だと知らなかったと思う。だって見下した発言をしたんだ」
そこまで話して、うわっと怯える様子を見せた。睨んでいたヘルダー伯爵の三男を遠ざける。
「まだ立場が理解できていないようね。誰の屋敷で、私の邪魔をしているのか……」
ユーリア様は意味ありげに言葉を止め、扇を広げた。顔の下半分を隠し、目をすぅと細める。お美しいだけに、怖さも倍増だわ。そういえば、ケンプフェルト家は筆頭公爵でも夫人がいなかった。社交界を牛耳る公爵夫人の噂って、ユーリア様のこと?
王妃マルレーネ様との会話を思い出しながら、私はシラー男爵令息に下がってもいいと伝えた。壁際へ張り付く形で震える息子を、同行した父親が引き寄せる。きちんと証言した息子を誇らしげに、強く抱きしめた。その姿に、あの親子は大丈夫と安心する。
次は子爵家ね。こちらは何を話すのか。ある意味、楽しみになってきたわ。




