200.気の利く人達の仕事
バルシュミューデ公爵夫人から、追加の手紙が届いた。私宛だったので開封したところ、招待状が出てくる。フォン・シュミット伯爵家の皆様もご一緒にどうぞ、と記されたお手紙と一緒に。
首を傾げる私に、フランクが説明してくれた。レオンがあまりにしょげていたため、ヘンリック様経由で頼んでくれたらしい。シュミット伯爵家が同行できれば、レオンも心強いわ。私は気苦労が増えそうだけれど……レオンのためなら問題なし。
問題……あっ! 大変だわ!!
「お茶会の衣装を手配しなくちゃ」
「ご安心ください、奥様。こういった問題を解決するのが、家令や執事です」
穏やかに諭され、それもそうねと深呼吸した。どうしても癖が出ちゃうのよ。この家に嫁いで、まだ半年経たない。目まぐるしく環境が変わったせいで、もっと長く感じるけれど。以前は何でも私が手配していたから、咄嗟に動こうとしてしまうの。
「王宮にお呼ばれした際に採寸は済んでおりましたので、注文だけで済みました」
話している間に、リリーがカタログを持ってきてくれた。デザイン画を綴じた本で、便宜上カタログと呼ぶ。実際は紙ファイルの書類が近いかも。フランクが示したのは、上品なリボンタイの子供服とフリルが可愛いワンピースだった。
「お色はこちらで調整いたしました」
にっこりと笑顔で報告され、私は安堵の息をつく。これなら大丈夫そうね。派手すぎず、けれど侮られるほど地味でもない。公爵家を引き立てる意味で選んでくれたなら、それでいいわ。
「ありがとう、さすがね。フランク」
「お役に立てて何よりにございます」
執事であるベルントは、ヘンリック様の仕事に同行するのも役目だ。そのため、家のことはすべてフランクの管轄だった。イルゼは細々とした部分を担当するが、全体を見回して調整するのは家令の仕事らしい。気が利いて当たり前の仕事だから、大変だと思うわ。
リリーが用意したお茶を楽しみながら、明日から皆も同席させようと決めた。お茶会で最低限のマナーができていなければ、将来に響く。ユリアンがマナー違反をしても、隣にいたユリアーナの嫁ぎ先に影響したりするの。
「お父様はどうなさるのかしら」
「今回はエルヴィン様にお任せするそうです」
頷いて、まだお昼寝中のレオンを見つめる。嫌な夢をみると聞いてから、できるだけ見守るようにした。魘されたら、すぐに起こしてあげられるように。怖がる前に、私が抱きしめてあげられるように。
「さあ、奥様。歩く練習をいたしましょう」
マーサに促され、部屋の中を歩き回る。檻の中の熊のように、ぐるぐるとただ歩いた。万歩計があったら、結構歩数を稼げるんじゃないかしら。足が疲れてきた頃、待っていたようにリリーがソファーへ誘導する。
一時期お金がない時に、どこかの貴族家へ侍女として入ろうか迷ったけれど、私には無理だわ。諦めてよかった。まあ、弟妹の面倒を見る人を雇うより、私が手仕事しながら育てる方がお金が掛からなかったのよね。ふふっと笑い、穏やかな午後の日差しに目を閉じた。




