199.公爵家からのお誘いでした
ヘンリック様を悩ませた手紙の主は、バルシュミューデ公爵家の奥様だった。さすがに公爵家からの誘いを、無下に断るのは印象が悪い。何とも言いづらそうに切り出したヘンリック様は、行ってほしいのでしょうね。
社交は最低限と契約したので、契約違反を心配しているのかしら。同じ公爵家からのお誘いとあれば、最低限の社交に該当すると思うけれど。
「構いませんわ、参加いたしましょう」
「俺が一緒に行けるといいが……調整してみる。あと、レオンの同席も希望らしい」
お呼ばれしたのはお茶会で、午後に集まる。レオンは幼いから、途中で眠ってしまうかも。それでも構わないなら、問題がないように思われた。三歳年上の男の子がいるらしく、子供同士で顔を合わせた方が……と考えているみたい。貴族家の嫡男って、こんな幼いうちから社交なのね。
うちのエルヴィンなんて、先日の王家にお呼ばれしたのが最初よ。遠い目になりそうな私は、ふるふると頭を横に振って考えを払った。
「年齢の近い子がいるなら、仲良くなれるかもしれませんね」
期待を込めた言葉に、ヘンリック様も頷いた。着ていく服は先日大量購入した中から選ぶとして、日付は十日後だ。集まる貴族のリストを手に入れる、とフランクが約束してくれた。付き合う家を選別するのだとか。
そういった柵関係なく仲良くなれるのは、子供の特権だと思うけれど。私が考えるほど、公爵家後継の地位は軽くないみたい。ヘンリック様やフランクが決めたのなら、それが正しいのでしょう。にわか公爵夫人より、知識も経験も確かだもの。
よその家のお茶会に行く、と説明されたレオンは首を傾げた。
「えるは?」
「行かないわ」
「ゆん、あにゃ、も?」
「ええ、お家でお留守番よ。じぃじも行かないの」
じっと考え込んだあと、唇を尖らせた。不満だと訴えるレオンの頬をつつき、言い聞かせる。
「言わないと伝わらないわよ」
少しでも言葉をたくさん聞かせて、話させる。それでお喋りが上達するの。レオンの気持ちは大まかに察しているけれど、先回りして叶えてばかりいたら話せなくなるわ。以心伝心もいいけれど、大人になる前は害の方が大きいのかも。
「うん……ぼく、いっちょが、いい」
かなり文章になってきたわ。考えながら絞り出した答えに「そうなのね」と相槌を打った。レオンは大きく頷き、ちらりとヘンリック様に視線を向ける。
「今回は無理だが、次は一緒に行けるよう話しておく」
レオンの気持ちを汲んだ答えに、ようやく笑顔になった。ヘンリック様がお願いしてくれたら、あの子達も社交が……ちょっと待って。エルヴィンは心配いらないと思う。ユリアーナもお淑やかなフリをして、上手に振る舞うはずだった。ユリアンだけが不安だわ。
でも、大人しく場に合わせることを教えるチャンスだわ。王妃であるマルレーネ様とピアノを弾くためにも、振る舞いを覚える必要がある。いつまでも子供のままに出来ないのだから、前向きに捉えましょう。
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腹痛のため、明日3話の更新とさせてください(o´-ω-)o)ペコッ




