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【書籍化】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します【コミカライズ進行中】  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!
第二章

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198/700

198.小さくて大切な約束

 ヘンリック様は大人だし、社交は慣れているでしょう。自分で解決できると思う。後回しにすると決め、レオンの顔を覗き込んだ。もぞもぞ動きながら、こちらを窺う。視線が合うとすぐに俯いた。


「レオン、何があったの? 私が何かしたかしら」


 声は聞こえないが、ぶんぶんと大きく首が横に振られた。隙間から覗くようにしたら、唇が尖っている。ご機嫌斜めなの? その尖った唇を指で押し戻してあげたいわ。


「お母様に教えて頂戴」


 お願いと付け加え、レオンが動き出すまで待つ。無理やり聞き出すのは最後の手段よ。じっと待つ私の目を見て、姿勢を変えたレオンが小さな声をあげた。


「あの……ね、うっと……」


 言いづらそうね。顔を見ていると恥ずかしいのかも。視線を逸らしたら、慌てた様子で抱きついた。


「ちが、の! ねりゅと、へん、なの……みる」


「寝ると変な夢を見るのね。どんな夢なの?」


「いや、なの」


 嫌な夢らしい。話す気はあるみたいで、でも説明する内容に困っている感じ。抱っこしてゆっくり体を揺らした。視線を向けた先で、ヘンリック様はまだ手紙を見つめている。こういうところ、親子でそっくりね。


「おか、しゃま……いな、い……く、なるっ、やっ」


 レオンがぽつぽつと口にして、わっと泣き出した。驚いたヘンリック様が手紙を放り出し、慌てて近づく。父親らしい振る舞いは、こんな場面なのに嬉しくなった。


「私がいなくなる夢をみたの? それは怖かったわね」


 ぽんぽんと背中をリズムカルに叩き、体を密着させた。じわりと涙が沁みる感覚があって、本当に怖かった幼子の気持ちを知る。小さな頃は、親の存在が絶対よ。世界の中心は母親で、何があっても一緒にいたい存在だった。


 そんなのは夢よ、といきなり否定したら次は言葉を呑み込んでしまう。だからまずは、怖かったのねと寄り添った。先日のお昼寝から起きて泣き出したのも、最近べったり張り付いていたのも、全部夢のせいだったのね。怖くて、不安で、苦しかったと思う。


「私と約束をしましょう、レオン」


「ん……?」


 ずずっと鼻を啜るレオンの顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。受け取ったハンカチで顔を拭いた。ほら、可愛い天使のお出ましだわ。笑顔を向ければ、へにゃりと笑う。つられちゃうわよね。


「ゃく、しょく?」


「ええ、約束。覚えている? 約束は破ったらダメなの」


 こくんと縦に動いた頭で、黒髪が揺れる。その向こう側で、ヘンリック様の眉尻が垂れていた。不安なのはあなたも同じ? 困った親子だこと。ふふっと笑みが漏れた。


「ヘンリック様もこちらへ」


 レオンの手を私が握り、上からヘンリック様の手を重ねた。互いの温もりを感じながら、小さくて大切な約束をする。


「私達は家族よ。仲良く一緒にいる約束をするの。守れるかしら」


「うん」


「ああ、もちろんだ」


 いずれレオンは愛する人を見つける。その頃には、この約束も時効でしょう。ヘンリック様は契約で離婚はなしとなっているから、ずっとお付き合いただくわ。だから守れる約束を一つだけ。手をしっかり重ねて、互いの顔を見ながら交わした。

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― 新着の感想 ―
好きな人が出来たら、無効……………… マザコンに育って、いつまでも無効にならなかったりしてww
否定から入らない。おかしゃま素敵
天使の不安!ヘンリックさんの困りごとと関係はあるのでしょうか?無いと良いな…。天使…レオン君、嫌な夢を見ちゃいましたね。でも!アマーリアさんはずっと一緒! ヘンリックさん、いい加減、お茶会の前にでもさ…
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