197.招待状がずらり
王家のお茶会に何回か呼ばれた。その噂が貴族の間に流れる。王族とのお茶会は格式が高い。そこに複数回呼ばれたなら、ぜひ我が家の茶会や晩餐会にも……となるのも当然だった。私やレオンに自覚はないけれど、ケンプフェルトはフォンの称号を持つ唯一の公爵家だもの。
この国でフォンの称号を持つ家は、片手で足りる。ケンプフェルト公爵家、ティルビッツ侯爵家、シュミット伯爵家よ。王妃マルレーネ様のご実家フェアリーガー侯爵家でさえ、称号は手にしていない。名誉なことであるけれど、顔も知らないご先祖様の功績だった。私達の手柄ではない。
由緒正しく、連綿と続く旧家の証明程度に考えていた。実際、現王家より古い家ばかりだ。貧乏伯爵家でも我が家が潰れなかったのは、それとなく手助けする家があったから。
フォーゲル子爵家は、息子と私を結婚させてフォンの称号を手に入れたいと考えていた。ブラームス伯爵家も同様よ。ところが二つの家門が争っている隙に、さっと油揚げを攫ったトンビがいる。ケンプフェルト公爵家のヘンリック様だった。
お陰で、我が家は称号も家も手放さずに済んだの。シュミット伯爵家の借金は、ケンプフェルト公爵家の夫人予算より少額で……。情けないというか、有難いと感謝するべきか。あっさりと返済してしまった。契約で嫁いだ家から貰ったお小遣いで返せるなんて……複雑な心境だわ。
屋敷と小さな領地は現在、公爵家から派遣された管理人に任せている。妻の実家が差し押さえられたら、かなりイメージダウンするもの。ヘンリック様にしたら当然の処置ね。正確には、手配してくれたフランクに感謝だわ。
「お茶会……」
唸りながら、大量の手紙を眺めるヘンリック様は不機嫌だ。この国でケンプフェルト公爵家より上は王家のみ。自らも王族の血を受け継ぎ、王位継承権も持っている人だから気に入らないのかしら。こてりと首を傾げ、膝に座って抱き着くレオンの黒髪を撫でた。
「何か問題がありましたの?」
「……アマーリアを見せたくない」
あらまあ。やっぱりまだ貧乏くささが抜けないのね。先日もマルレーネ様と昼食を頂いた際、袖を気にしてしまったし。格下の侯爵家や伯爵家にお呼ばれして、そんな面を見せたら嘲笑されてしまう。確かにまだ社交は早いわ。それに、最低限に抑えていいという契約でしたし。
「お断りなさってはいかが?」
「そうしよう」
封筒に記された紋章を確認して、次々に隣の銀トレイへ放り投げる。そんなヘンリック様の手が止まった。眉間に皺を寄せて、唸るような声を漏らす。
「これは……」
簡単に処理できない家門? レオンは向かい合わせの抱っこが好きで、しっかり足と腕を回してしがみ付いている。絨毯の部屋に座った途端、すぐによじ登るほど、この姿勢が好きだった。ぐりぐりと頭を押し付け、距離を減らそうとする。
レオンの柔らかな黒髪を指に絡めながら、優しく後頭部を撫でた。少し機嫌が悪そうね。お昼寝が短すぎたのかもしれない。マルレーネ様のお茶会から数日が過ぎ、レオンは甘え癖が強くなった。少し離れて過ごす時間が増えていたのに、べったりと触れ合うことを優先する。
気になるわ。ヘンリック様の呻きも、レオンの甘えん坊な所作も。何か理由があると思うけれど、どちらから片付けるべきかしらね。




