195.予想の斜め上の昼食
カウチソファーでのんびり過ごし、お昼は温室で頂くことにした。午前中は暖かいのだけれど、お昼を過ぎると風が冷たいんですって。その点、温室なら気温に左右されにくいわ。
お心遣いに感謝して移動する。小さな紳士は、私の手を引いて歩いた。先程までルイーゼ様と夢中になって遊んでいたのに、すぐに飛んできてくれたのよ。抱きついてたくさんの感謝を示したわ。嬉しそうに頬を赤く染めて、レオンは得意げに歩く。
レオンの様子に感化されたのか、ルイーゼ様もマルレーネ様と手を繋ぎたがる。頷いてしっかり指を絡めたマルレーネ様は、穏やかな表情でとても嬉しそうだった。二組の親子が並んで温室に到着すると、すでに先客がいた。
ヘンリック様は立ち上がって一礼し、私達に駆け寄った。得意げに胸を張るレオンを褒め、私の疲れや痛みを気遣う。一緒に並んで椅子に座った。こちらでは見かけないタイプの椅子ね。背もたれがなくて、スツールのような。でも四角い箱には装飾が施され、美しい刺繍入りのクッションが敷かれていた。
「綺麗ですね」
座りやすいわ。背もたれがあっても、貴族は食事の際に寄りかからないのがマナーだった。背もたれは不要なのよね。すでにきちっと座っているのは、王子様二人。向かい側で王妃マルレーネ様と並んだ。ルイーゼ様は澄ました顔で、クッションを重ねて座る。
「レオンはお膝でいいかしら?」
「ううん、ぼくも、しゅわる」
私とヘンリック様の間にクッションを重ね、レオンを乗せた。本人は楽しそうだけれど、崩れそうで怖いわ。
「こちらをお使いください」
王宮の侍女が用意したのは、別の椅子だった。上にクッションを重ねるのではなく、下に下駄を履かせた感じ。ああ、この表現は伝わらないかしら。足を継ぎ足してあるの。お陰で、見た目は同じデザインの椅子に見えるのよ。高さが違うだけ。
レオンは素直に座り直した。向かいで不満を表明していたルイーゼ様だけれど、レオンが受け入れたと知るや大人しくなる。高くなった分、視線が近づいて嬉しいわ。
王家の四人とケンプフェルト公爵家の三人。丸いテーブルに用意されたのは、大きなお皿に盛った料理だった。骨付き肉……また汚しそうなお料理ね。
「手で持って食べてみたかったのよ」
マルレーネ様はふふっと笑い、用意された紙ナプキンで骨を掴んだ。前の世界で言う、チューリップに近い状態の鶏肉だ。同じように私達も手に持った。初めての作法に困惑気味なのは、カールハインツ様だ。
こういうものと受け入れたのはローレンツ様やルイーゼ様。レオンは皆がしているから問題ないと思ったのか、両手で肉を掴んで齧り付く。口の周りが汚れるけれど、これは楽しい。前世のバーベキューとか、流行るかもしれないわ。
ただ、お客様を呼んでの昼食会には向かない。家族や親族だけなら……いけるかも。ドレスの袖が七分くらいで助かったわ。フリル部分に付かないように気をつけなくちゃ。そんな私の心配をよそに、マルレーネ様はドレスを平然と汚した。
これが王侯貴族……私もこれに慣れないといけないのよね。無理そうだわ。まず洗濯の手間とドレスの金額が脳裏に浮かぶもの。貧乏性は仕方ない。でも今日は気にしないのがマナーだわ。勢いよく齧り付いた。




