159.天使と猫の戯れ
猫の飼い主は意外にも身近にいた。まさかの管理人夫婦よ。別邸の一角に住んでいるのだけれど、門の前で鳴く子猫を拾って育てたみたい。居間に移動したレオンは、猫に何か話しかけている。
「普段はこちらには入れておりません! その……」
「この子は爪研ぎもほぼしませんし、毛もきちんとブラシで手入れしていますので……」
二人揃って顔色が青い。語尾を濁して、ちらちらと猫を見た。レオンが抱っこしようとして、びろんと伸びた腹を晒す猫は、じっと大人しい。レオンの肩に両手を置いて立ち、一人と一匹でダンスを始めそうだった。微笑ましくて、頬が緩んでしまう。
「安心して、猫はこのまま飼っていいわ。そうですね? ヘンリック様」
「ああ、大人しいし問題ない」
大人の話はそっちのけ、どうやったら猫を抱き上げられるか悩むレオンが、ついに助けを求めた。
「おかぁしゃま、ねこ……もたがんない」
一般的な種類より大きい猫は、のしかかるようにレオンの頭に顎を載せる。さすがに潰されちゃうと思ったら、ヘンリック様がレオンと猫を一緒に抱き上げた。車椅子だとこういう時に不便ね。
「ふふっ、猫は液体ですもの。仕方ないわ」
うっかり前世の豆知識が口をつき、細かく説明することになった。丸いガラスの器にすっきり収まる猫鍋を見て、ヘンリック様達も納得した様子だ。ほっとしたわ。私だってあまり詳しくはないのよ。
ガラス瓶の中にぴっちり隙間なく入り込んだ子猫の映像、可愛かった。あれを思い出して、つい口から出てしまったの。
レオンは不思議そうにしたあと、猫と瓶の間に手を入れようと頑張っている。可愛いけれど、猫を怒らせる前にやめた方がいいわ。
「猫が嫌がるわよ」
「……うん」
渋々といった様子で、レオンは手を引いた。猫はちらりと見たけれど、よほど居心地がいいのね。また眠ってしまった。
「レオン、もし気持ちよく寝ているときに起こされたら嫌でしょう? 猫も同じなのよ」
「うん」
今度は理解してくれたみたい。きちんと説明する私を、ヘンリック様は驚いた顔で見ていた。頭ごなしに叱り、無理やりやめさせると、納得できない。そういう育て方はしたくないの。ヘンリック様にも説明して理解したのか、満足そうだった。
「猫のお名前は?」
壁際で黙る管理人夫婦に問いかける。
「ミア、です」
「あら、女の子なのね」
女性名だし、さきほどレオンが抱えた時に見た感じは雌だった。レオンはガラスの器越しに見える、ミアの肉球に夢中だ。そっとガラスの上から触れて、嬉しそうに笑う。
愛玩動物を飼うと情操教育にいいと聞くけれど、確かにそうね。こうやって触れ合いを覚えて、愛情の与え方を知る。うちでも飼ってみる? でも面倒を見るのは侍女になるのよね。迷いながらも、可愛い猫と天使の戯れに目を細めた。
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