139.きらきらする宝物発見
午後は予定通り街におり、皆で様々な店舗に立ち寄った。物を購入しなくても、見て回るだけでも楽しい。お昼に合わせて、ケーキが納品された。そのため帽子も戻ってきている。同じ帽子を被り、ケーキ屋に足を運ぶ。
届けられたケーキと帽子のお礼を伝え、ケーキにアドバイスを一つ。お皿に直接ケーキを置かず、紙の敷物を使ってはどうか。その紙を飾り切りにしたり、色をつけることで豪華さを演出できると教えた。
前世の記憶だけれど、このくらいはいいわよね。帽子の形が崩れないよう、箱に入れて返してくれたお礼だもの。
「手紙はよろしいのですか?」
心配するお父様に、ヘンリック様は肩を竦めた。
「構わない。俺は療養中だ。妻子と出かけて、まだ開封もできないくらい忙しい」
以前は、仕事で忙しくさせられたんだもの。このくらいのお返しはしても構わないと思うわ。私が微笑んで頷けば、ヘンリック様も満足そうだった。
「すっかり娘に毒されてしまって……」
やれやれと口にしながらも、お父様だって笑ってるじゃない。これは不敬でも何でもないのよ。療養のための休暇中で、手紙を読むのが遅れただけなの。緊急である赤ラインがないから、後回しにしてしまった。よくあることよ、きっと。
「おかしゃま、これ」
手を繋ぐレオンに引っ張られ、足を止めて視線を向ける。お店に並ぶのは、きらきらと光を弾くガラスの粒だった。それ自体は珍しくないけれど……滅多に見かけない形をしていた。球体ではなく、おはじきのように平べったくて丸い。
「何に使うのかしら」
「俺も知らないな。見てみよう」
ヘンリック様はレオンと手を繋ぎ、私も連れて入店する。ユリアンは一つ手に取り、外から差し込む光に翳した。金属が入っているみたいに、濁った銀色をしている。隣のガラスは赤、こちらは透き通っていた。
「ボタンみたい!」
ユリアーナは穴の空いたガラスを手に取り、自分の服に当てる。大きいビーズ、いいえ、ボタンの方が近いわね。親指の爪ほどもあるガラスに、誰もが興味津々だった。店頭にあるのだから、売り物だろう。
奥で船を漕ぐ老女に尋ねると、娘の作品だと教えてくれた。裏にいると聞いて、騎士が呼びに行く。エルヴィンはさらに小さなガラスを見つけ、手のひらで転がした。
「この小さいのは見事ですね」
「ほお、これは凄いな」
お父様も感嘆の声をあげる。レオンはつんつんと指先で触れ、首を傾げた。
「どうしたの?」
「あか、あたかくない」
お高くない? 違うわね、温かくない……だわ。
「そうね、赤い色は温かいの?」
「うん」
子供らしい感性ね。色と温度、重さなどを絡めて独自の世界を作る。大人になると失われることが多いから、否定したくない。
「こっちは?」
「ちゅめたいの」
黄色は冷たい。他の色も尋ねようとしたところに、製作者である娘さんが入ってきた。明らかに貴族の御一行様に固まるが、事情を説明して何に使うものか教えてもらう。
「服につける装飾品にしたくて、試しに作ったものです」
装飾用のボタンやビーズの試作品ね。素敵だわ。特産品になりそう。




