132.分けたら消える赤
ユリアーナは食事の時から調整していたから、二つ食べる気ね。昼食に肉を食べ過ぎたか、悔しそうな顔をするユリアン。エルヴィンは優雅に一つ選んでいる。余裕はありそうだけど、一つでいいのかしら。
全部欲しいレオンは、食べ終えたら次のを選んでもいいと言われ、真剣な顔でケーキを睨んだ。じっくり悩んだ結果、赤い苺が飾られたケーキを選ぶ。お店の人に指さして伝え、全員が席に戻ってきた。
「あのね……ぼく、あおも……たべる」
「なら、赤いケーキの半分はお母様が食べるわ。だから青いのも分けて頂戴ね」
両方とって、半分ずつ食べましょう。そう伝えたら、目に見えて表情が明るくなった。レオンは食いしん坊ね。くすくす笑う私の横から、ヘンリック様も口を挟んだ。
「俺のケーキも食べたらいい」
「……んと?」
本当かと確認し、頷くヘンリック様の手を引っ張るレオン。大喜びでガラスの前に移動し、チーズケーキを指さした。あれがいい、そう伝えて店の人に運んでもらう。
苺、ブルーベリー、チーズ。三種類のケーキに、レオンは興奮してフォークを振り回した。その腕を掴み、やってはいけないと教える。嬉しいのはわかるけれど、他の人が危険でしょう? レオンは素直に聞きわけた。
この素直さがあるから、レオンは伸びる。ヘンリック様によく似ているわ。新しいことを吸収し、自分の経験として蓄積した。だから間違ったことを教えられても、素直に受け入れてしまうの。仕事のしすぎなんて、完全にその類よね。
「どれから食べる?」
「あか!」
発音できず「あきゃ」と口にしていたレオンは、綺麗に言えたと笑う。褒めて撫で、レオンの前にケーキを置く。向かいでは双子がきゃあきゃあ騒ぎながら、互いのケーキを啄んでいた。レオンが交換する話を聞いて、エルヴィンも含めて分けて食べるみたいね。
「あーん」
自分でケーキの苺を刺して、口へ運ぶ……と思いきや、私の方へ。驚いたが口を開いた。ぱくりと食べて、噛み締めてから「美味しいわ、ありがとう」と伝える。嬉しそうに笑ったレオンは、また苺を刺す。それをヘンリック様へ向けた。
「あーん」
「俺も、か? ありがとう、レオン」
以前に注意したことを覚えていたのかしら。きちんとお礼の後に名前を付け足した。食べたヘンリック様に笑いかけ、レオンはケーキに首を傾げた。上に載っていた苺は二つとも私達の口に入った。つまり、残っていないの。
中には挟まっているけれど……泣くかも? ヘンリック様はさっと手をあげ、こそっと何かを注文した。固まっているレオンは、苺の数を認識していなかったのね。そろそろ数え方を教えた方が良さそう。
「おかぁしゃま、あかいの……」
消えちゃったと思ってそう。食べたらなくなるんだけれど、自分の分を確保し忘れたのね。これは兄弟姉妹と育てば、自然と覚える。取られたり、譲られたり。そういった経験がなかったレオンは、泣き出しそうな顔で唇を尖らせた。




