131.甘いものは別腹よね
お昼前に勉強を切り上げ、家族皆で街に向かう。馬車が不要な距離だったので、久しぶりに歩くことにした。管理人夫婦には驚かれたけれど、屋敷から同行した使用人達は気にしない。
公爵夫人なのに、日傘や帽子もなしで散歩する私だもの。いまさら驚かないわよね。さすがに今日は帽子を被った。ツバ部分の大きな帽子は、肩幅ほどもある。
「抱っこしづらいわ」
この帽子はやめましょう、とリリーに返そうとした。しかしヘンリック様が止める。
「レオンなら俺が抱き上げるから、君は帽子を被った方がいい」
意味はわからないけれど、訳知り顔でベルントが同意する。公爵夫人が帽子なしはマズイみたい。お父様に買ってもらったシャツに、私が以前プレゼントしたスカーフを付けたエルヴィン。ユリアーナとユリアンはお揃いの上下だった。これはセーラーカラーっぽいわ。
セーラーカラーって、元は水夫の服だと聞いたことがある。じっと見つめたレオンが「あれ、ぼくも」と強請った。すぐは無理だろうから、注文すると約束する。ここに滞在している間に仕上げられるか、交渉しなくちゃね。
海辺の別荘なら似合うセーラーだが、山際の別荘でも可愛い。キャンプに来たボーイスカウトっぽいわ。想像だけで楽しくなった。
到着した街は、人が多く賑わっている。公爵領の一部なので、他の領地より管理が行き届いていた。この辺はヘンリック様の手腕かしら。王宮での仕事の合間に、領地の書類も片付けていたと聞いて納得する。それは忙しいわけだわ。
「あれ!」
「うわぁ、綺麗だね」
子供達が目敏く見つけたのは、綺麗なケーキのお店だった。洋菓子店と表現した方がいいかも。焼き菓子もいくつか並んでいるが、一番目を引くのはケーキ類だ。色鮮やかな果物がきらきら光っている。
「美味しそう、でも先にご飯を食べてからね」
残念そうにしながらも、レオンは我慢を選んだ。ご飯を食べたらまた寄ることにして、ベルントが予約した料理屋に入る。護衛の騎士もいるため、店は貸し切りとなった。きのこたっぷりのオムレツ、栗の入った蒸しパン、具沢山のスープは肉が猪だ。
普段は食べない食材も多く、驚きと感動の連続だった。とても美味しいし、色も鮮やかで素敵。盛り付けもセンスが良かった。老夫婦のお店でお腹を満たし、歩いて移動する。
レオンは右手を私と繋ぎ、左手をヘンリック様へ伸ばした。間でぶらぶらと足を揺らしたり、数歩先へ走って止まったり。すごく楽しそう。これは手を繋いでいないと、迷子になってしまうわね。
先ほどのケーキ店へ到着し、店内で席に着く。
「一緒に行こう、レオン様」
「うん! あにゃ……あ、な」
言い直している間に、手を繋いだユリアーナが引っ張っていく。この世界でガラスのショーケースはない。窓ガラスがそのままショーケースの代わりだった。室内にガラスの小部屋がある感じだ。
うわぁ、と声を上げながらケーキを見つめる。あれもこれもと欲張る子供達に、何も言わず好きにさせた。エルヴィンや双子はいつも我慢させてきたわ。お金がないって、そういうことだもの。買える時は自由にさせてあげたい。
レオンはお祭り以来の外出に大興奮で、姉や兄と慕う三人が一緒なのも嬉しいようだ。全部欲しいと欲張っている。こちらはさすがに止めた方がよさそう。一人一つまで、と条件をつけた。食べ終えたら、もう一つ頼んでもいいわ。




