128.興奮収まらぬ天使
管理人夫婦に確認したところ、やはりワイン用の葡萄だった。小粒で酸っぱく、けれど発酵させると美味しいお酒になる。背丈は低く茂みにしたのは、周囲の果樹に合わせたからね。
感心しながら、今度は赤い実を口にした。こちらは……ベリー系? 甘酸っぱいけれど、先ほどの葡萄のお陰で甘さを強く感じた。この中庭の果実は、すべて食べられると聞いて安心する。加工用の実ばかりなのは、食べることより見た目を重視したのね。
いくつか味見したら、レオンは気が済んだみたい。両手をリリーに拭いてもらい、手を伸ばした。
「おとちゃま、おかぁしゃま。おてて」
ヘンリック様と顔を見合わせ、二人の間にレオンを挟む形で手を繋ぐ。ご機嫌のレオンは交互に私達を見上げ、興奮した様子で甲高い声をあげた。
「これは……平気なのか?」
「ええ、興奮するとよくあるんですよ」
レオンが……という意味ではなく、幼い子はよく奇声を発する。悲鳴に近い音域なのでドキッとするが、特に問題はなかった。興奮を上手に発散できず、体内で高まって溢れちゃう感じかしらね。
一緒に部屋へ戻り、窓際の長椅子に座った。抱き上げて座らせたレオンが、椅子を叩く。
「ここ、おとちゃま」
頷いたヘンリック様が腰掛ける。少し狭いようで、斜めだけれど。反対側を叩いたので、私も座った。
「おか、しゃま!」
ぶんぶんと両足を揺らして、レオンは何やら歌っている様子だ。聞いたことのない曲だけれど、子供らしい。自分で思いつくままに歌い、次の日には忘れちゃうの。また新しく歌を作るのよね。エルヴィンや双子もよく歌って……あら?
「お父様達、遅れているのかしら」
途中で昼食を摂ってから、別邸に入った。街で食事をした後は、馬車が並走していた気がするけれど? 首を傾げた私に、ヘンリック様が口元を緩めた。
「何やら買い物があると言っていたぞ」
「そうなのですか、ありがとうございます。夕食までには帰ってきそうですね」
教えてもらったお礼を口にして、興奮状態のレオンを抱き上げる。きゃぁ、と声を立てて笑う姿に……これはお昼寝しないわねと苦笑いした。
「レオン、お昼寝する? それとも絵本を読んだ方がいい?」
「やぁ、あっち」
中庭を指さし、まだ遊びたいと訴える。意思表示しているのだから自由にさせてあげたいけれど、夕飯前に休ませないと機嫌が悪くなりそう。到着したばかりだし、今日くらいは好きにさせようか。迷う私から、ヘンリック様がレオンを抱き上げた。
「少ししたらお昼寝だ」
「うん!」
納得したみたい。私が言っても聞かなかったのに、レオンはヘンリック様の言葉に頷くのね。ちょっとヤキモチ妬いちゃうわ。




