92.浜辺の大魔法①
次の日の朝。
リードとラウナが必死に研究にいそしんでいると。
「海に行こー!」
ミィルが唐突にそんなことを言い出した。
「た、確かにフルドレクスの王都は港町ですので海に面していますけど……」
「我々は遊んでいる場合では……」
当たり前だけど、ふたりは難色を示す……というよりびっくりしていた。
研究を頑張っているところに、それまで眺めているだけだったミィルがいきなり遊びに行きたいと言い出したのだから無理もないだろう。
しかしミィルはいきなり真面目な顔になったかと思うと、かわいらしく人差し指を立てた。
「研究ばっかりじゃ煮詰まっちゃうでしょ! たまには息抜きしないとだよ。何よりふたりとも無理してるし、そろそろ休まないと。潰れちゃったら元も子もないんだから!」
実際、これはミィルの指摘通りだった。
リードは研究室に篭もりっきりで、ろくに食事も摂っていない。
ラウナだって生真面目な性格が災いしているのか、前のめりに取り組みすぎだ。
ふたりとも疲労の色が濃い。ミィルが言わなかったら俺が休むよう言うつもりだった。
「そ、そうですか? ミィルさんがそこまで言うなら……」
「リード様がいいのでしたら……」
結局ふたりがミィルに折れる形で急遽、海に遊びに行くことになったみたいだ。
「アイレンも行くよね? ね?」
「もちろん行くよ」
俺は基本暇だし。
……それにみんなで海で遊ぶのって、なんか楽しそうだしね!!
◇ ◇ ◇
青い空。
白い雲。
そして、目の前に広がる大海原!
「やったー!! 海だーっ!!!」
ミィルが砂浜で跳び上がって喜んでいる。
うんうん。フルドレクスに海があるって話をサンサルーナに聞いたときから行きたがってたもんなー。
「そんなに海が好きだったですか、ミィルさん」
「うん! だーい好き!」
笑いかけるリードに元気よく応えるミィル。
答えを聞いたリードは何故か赤面していた。
「ひゃっほーう!」
「あっ、ミィルさん! 泳ぐ前には準備体操をしないと!」
ミィルがすごい勢いでジャンプして海に飛び込むのを、リードが慌てて追いかけていく。
やっぱりミィルが海に行きたかったっていうのがリードにとっての理由の大部分なんだろうなぁ。
それにしても……。
「いやぁ、やっぱり海っていいな」
水面がキラキラしてるし、全部が全部宝石みたいだ。
打ち寄せてくる波の音も心が落ち着いてくるし。
こうしているとディーロン師匠に海を割れるようになるまで鍛えられた記憶が蘇ってくる……いやはや懐かしい。
「それにしてもすごいね。この砂浜が全部ラウナのだなんて」
「いえいえ、わたくしは何も。あくまで父がくれたプライベートビーチなんです。楽しんでくださいね!」
俺の賞賛を受けたラウナが謙遜しながら笑った。
「と、ところでアイレンさん……この水着、どうでしょうか? 一応、由緒ある職人の方が作ってくれたものなんですが……」
ラウナがもじもじしながら顔を赤らめてる。
「水着かぁ……」
ラウナの水着は、なんていうんだろう。
彼女にしては大胆に肌を晒している気がする。
特に胸元がばーんと開けていて、ちょっとドキドキしてしまうな。
うーん、褒めるところがあるとすれば……。
「最低限の面積だけを覆って、水の抵抗もほとんど受けない……これを作った人類は確かにすごいと思うよ!」
今回はミィルも含めて全員がラウナから提供された水着をつけている。
ミィルもスカートのようなフリルのついた可愛らしいのを着ているし、俺とリードも海パンとかいう水着だ。
「えっと。どこか変じゃないかなって聞いたつもりだったんですけど……」
「ん? そんなことないよ。とっても似合ってる!」
「そ、そうですか! 勇気を出してみて良かったです!」
ラウナがとっても嬉しそうにはにかんだ。
よかったよかった。
「勇気を出した」ってくだりは意味がさっぱりわからないけど!




