83.フルドレクス国立魔法学校⑥
「私のブラストフレアを……?」
俺の提案を聞いて怪訝な顔をするリード。
「うん。火と水を合わせるのは人類だと反属性同士って扱いらしいし研究派閥もないと思うんだけど」
「確かにいい考えです!」
「賛成ー。あたしも怒られないし!」
女子ふたりが笑顔で手を挙げてくれる。
「確かに披露するだけならできるだろうがな……」
意外にも難色を示したのはブラストフレアの使い手であるリード本人だった。
「ブラストフレアはお前が手伝ってくれたからできたんであって、未だに自力では危険過ぎて使えん。威力を抑えたブラストショットがせいぜいだ」
「そっか。精霊の加護について、まだリードには教えてないんだっけ」
「精霊の加護? そういえば、水の薔薇を視たときにもラウナリースがそんなことを言ってたな」
リード、よく覚えてるなあ。
ラウナも頷いてる。
「そうですね。わたくしの神眼は精霊の力を視られるのですが、あのときの薔薇には水の精霊の力が働いていました。あれはミィルさんが?」
「そうだよっ! ……て言いたいところだけど、あたし、精霊の加護をずっと働かせるのは得意じゃないんだよね。アイレンのバスターキャノンを受け止めたときみたいに一瞬だけ凄い力を出すとかはできるんだけど」
「そういえば水の薔薇を『加護った』のはアイレンさんだって言ってましたもんね」
思い出話にキャッキャと盛り上がる女子ふたり。
リードが辟易したように挙手する。
「わかる者同士だけで盛り上がらないでくれ。それでアイレン……結局、精霊の加護とはなんなのだ?」
「早い話が精霊による守りの力だよ。水とか炎に精霊が宿るのはわかるでしょ? その精霊に頼んで守ってもらうんだ」
「ふむ……そういうことか。つまり、私のブラストショットやお前のバスターキャノンの反 動を精霊に防いでもらっていたんだな?」
「正解。さすがにリードはものわかりがいいなぁ」
「お前にそう言われると何故か馬鹿にされてる気分になるな……」
「なんで? 素直に褒めたのに」
「ああ、とっくにわかってるさ。お前が皮肉を理解しないことは」
リードが仕方ないといわんばかりに肩をすくめた。
「でも、そんな一朝一夕で身につけられるものなんですか? 精霊と交信して力を借りるなんて」
ラウナがもっともな疑問を口にした。
だけど俺は首を横に振る。
「交信する必要はないよ。俺にも精霊の考えてることはよくわかんないし」
「え? だったらどうやって……」
「大切なのは、水とか炎とか、そこにある力にしっかり日々感謝すること。それだけだよ」
「なんだそれは……」
ラウナとリードがふたりして顔を見合わせる。
そっか、やっぱり人類はそういう感覚に疎いんだ。
「竜王族には自然……というより、この世界に寄り添って生きるって考え方があるんだ。自然に宿る精霊に日々感謝を捧げて生きてるから、普通に暮らしているだけで精霊の加護を授かれるんだよ」
「そうそう。ただ、あたしは自分が水に近すぎて、逆にその感覚がよくわかんないんだよね。自分に感謝を捧げるみたいでヘンな気分になるし」
「ミィルは特別だからね。とにかく慣れれば自分が必要と思う形で精霊が力を貸してくれるようになるよ。それが精霊の加護」
俺とミィルの説明を受けたふたりは、同時に首をかしげた。
「難しそうです……」
「難しそうだな……」
コツさえ掴めばそうでもないんだけどなぁ。
個人的には魔力を操るほうがよっぽど難しいと思う。
「じゃあ、せっかくだから精霊の加護をちゃんと研究してみようか。他の人にも使えるようにならないと、どっちみち発表しても認めてもらえないだろうしね」
こうしてフルドレクス国立魔法学校での初日を終えた俺たちは、精霊の加護を織り込んだ人類術式を開発することになるのだった。




