66.愚者の末路②
「君は……竜王国の使者!」
開口一番そう言い放ったビビムに、少なからず驚いた顔を見せるミィル。
「……あー、そう言えば父親がバラしてるって話だっけ。親子揃って本当に馬鹿なんだねぇ」
ミィルの独り言は小声だったので誰にも聞きとられなかった。
一方、自分の考えを伝えるのに最高の相手を見つけたビビムは興奮して矢継ぎ早に主張を繰り出し始める。
「君も聞いてくれ! あの田舎者は……アイレンは不正入学者なんだ! 実力もないのに何かトリックを使って入学試験をクリアしたんだ!」
「証拠もなしにそういうことを言いふらすのはどうかと思うけどなー」
「今回もどうやったのか知らないけど何かしたに決まってる! たとえば……そう、ダンジョンの中の魔物を事前に手懐けてたりとか!」
「それができたら逆にすごくないー?」
「あんな田舎者の平民に魔法が使えるはずないんだ! みんな騙されてる! あいつの魔力だって偽物で――」
「君、自分が何言ってるのかわかってる? 神眼で視たラウナが本物だって言ってるんだから本物なんだよ。それとも君はラウナの神眼まで偽物だっていうの?」
「そ、それは……」
ラウナを引き合いに出した途端に押し黙ったビビムを見て、ミィルは弱点を見つけたとばかりにクスッと笑った。
「それにリード君がアイレンのことを認めたし、王賓クラスのみんなにも受け入れられた。学院の中で君しかいないよ、いまだにそんな馬鹿げたことを言ってるのは」
「馬鹿な……そんなはずがない! 君は僕に嘘を吐いている!」
「今度はあたしー? はー、もういいや。会話にならないし」
はぁ、とため息をついて首を振ったミィルが改めてビビムをまっすぐに見据える。
「そんなことはどうでもいいの。君に伝えておきたいことがあって」
「伝えておきたいこと?」
「君でしょ? 土塊のダンジョンをアースコントロールで塞いだの」
「……は?」
ビビムの目が点になる。
もちろんそのとおりだが、まさかあの所業を指摘されるなどとは夢にも思っていなかったのだ。
「い、いや、何のことだか……」
「トボけても無駄だよ? 雨で塞がったにしては土砂に雨水が含まれてなかったし。明らかに魔法が使われてたもん」
「そんな……僕がやったなんて証拠はあるのか!?」
「証拠はこれからいくらでも出てくるよ。学院が本気で調べれば誰が使った魔法かぐらい調べられるんじゃないかな? まあ、そんなことをしなくてもラウナの神眼で見定めれば土に残った魔力の残滓と君の魔力パターンが同じだってことがわかるだろうし」
まさかの展開に口をぱくぱくさせるビビム。
「そんなインチキあるわけ……」
「君が知らなかっただけでしょ? 授業を真面目に受けてれば絶対やらないミスだし。そうやってさ、自分の無知を棚に上げるのは人類の悪いところだと思うけど……君はとびっきりだねー。本当にいろいろいるんだなぁ。あたしもいい勉強になったよ。あっ、それとも土塊のダンジョンの入り口を潰したのは君だって学院中に言いふらしてあげようか? 証拠がなくったってアイレンの活躍を妬んでの犯行だって言えばみんな納得するよ?」
「そんなわけあるか! 僕は……僕はビビム・ノールルドなんだぞ!」
「はぁ……自分がどう見られてるか、一度も考えたことないんだね。君は」
「言いふらすだなんて……もしそんな真似をしてみろ! 父上の力でお前ら竜王族を潰してやるからな!」
その一言で、ミィルはビビムへの興味を完全に失った。
「……今後の身の振り方ぐらい考えたらって言ってあげるつもりだったけど、全部無駄みたい。せいぜいそのお父さんとやらに泣きついてみたら? じゃ、バイバイ」
去り際のミィルの捨て台詞に、ビビムはまさかの光明を見出した。
「そうだ……それは確かにそうだ! 父上に頼めば、こんなデタラメいくらでも覆せる!」
こうしてはいられない。
すぐに偉大なる父に直訴して、この間違った状態を正さねばならない!
田舎者の平民を追放して。
学院長の首も挿げ替えて。
そして今度は自分が王賓クラスに入るのだ!
そんな妄想に頭を支配されて学院を飛び出していくビビム。
それが、学院の門をくぐる最後の機会になるとは夢にも思わずに。




