43.黄龍師範ディーロン①
「それで、師匠は今どこに?」
「たぶんだけど深姫ちゃんのところじゃないかしら」
「えっ!? グラ姉が起きてんの!?」
信じられない!
寝ることしか考えてないどころか、考えながら寝るグラ姉が起きてるとか……。
「まあ、あんなことがあったばかりだしねぇ~」
「ああ……そっか。そうだったな」
サンサルーナの言うあんなこと、というのは竜王族の赤ん坊が連れ去られそうになった事件のことだ。
そりゃ、グラ姉もおちおち寝てられないか。
「師範ちゃんもだけど深姫ちゃんにも挨拶しておいたら~? パイが焼けるにはまだ時間がかかるし」
「そうだよなぁ……そうするよ」
グラ姉はともかくとして、師匠への挨拶をすっぽかしたら半殺しにされる。
ここはサンサルーナの忠告に素直に従おう。
「ミィルも行くか?」
「絶対やだー」
「だよなー」
仕方ないので師匠のところには一人で行くことにした。
とほほ。
◇ ◇ ◇
俺が向かったのは『竜の寝床』あるいは単に『寝所』と呼ばれる石造りの建物だ。
さっきの樹の家と同じく中の空間が驚くほど広くなっている。
いわゆるダンジョン迷宮だ。
ここの地下の最奥では多くの竜王族が眠りについているらしい。
殺されない限り永遠の命を持つ竜王族は自然死の代わりにここで永遠の眠りにつくという。
もっとも俺が向かうのはもっと浅い階層。
まだ名前も決まっていない竜王族の赤ん坊が眠りについている『揺り籠』のある部屋だ。
俺の脚で最短ルートを通っていけば五分もかからない。
はたして部屋の前には黄色い道着の男が立っていた。
彼こそ俺の竜技の師匠こと――
「……って!」
その姿がゆらりと掻き消えたと思った瞬間、目の前に凄まじい闘気を纏った師匠がいた。
鬼速にて繰り出される拳をかろうじて闘気で覆った腕で受け流す。
お互いに弾けるように間合いをとった後、俺は反射的に構えをとっていた。
「ふむ。鍛錬は怠っておらんようだな。好好」
先に構えを解いたのは師匠のほうだった。
闘気も瞬時に引っ込めている。
「師匠! いきなり弟子に殴りかかるのはどうかと思いますが!」
こちらも戦闘態勢を解いて抗議する。
「呵呵々。お前の体が技を覚えているか試しただけだ。現に何の問題もなかったであろう?」
「確かに頭で考えるより先に動きましたけど! けど!」
まあ、師匠に正論を説いたところで無駄だから言うだけだけど!
「宜しい。常在戦場の精神、努々忘れるな」
……ええと、改めて。
彼こそが俺の竜技の師匠こと七支竜がひとり“黄龍師範”ディーロン。
まあ、一言で言ってこういう人である。
黄龍は「こうりゅう」とも「おうりゅう」とも読めます。
今回は「おうりゅう」を採用しました。




