41.ビビム・ノールルドのやらかし④
「ハハッ! なんだあいつ! みんなに取り囲まれてるぞ!」
ビビム・ノールルドはもはや日課となった王賓クラスの覗きをしていた。
最近では実習室を遠くから見られる木の枝の上が定位置となっている。
おかげでビビムは木登りだけは上手になった。
ビビムには実習室の会話の内容までは聞こえない。
だから授業の内容すら知らない。
ただ、アイレンが責め立てられているように見えたので御満悦だった。
「ビビム様! こんなところで何をされているのですか!?」
樹上のビビムに気づいたキグニスが驚いた様子で声をかけてくる。
「うん? ああ、ちょっとした見学だ」
「あれは……王賓クラスの実習を? いえ、しかし授業はどうされたのです」
「あんなもの受けたところで役には立たん。こう、初歩的過ぎてな」
「さすがでございます。しかし、ビビム様……大変言いにくいのですが出席日数が足りないと夏期講習への参加が義務になってしまいますが」
「僕の父上はノールルド伯だぞ? お前まさか、わかっているだろうな?」
「も、もちろんでございますが……」
「出席日数などお前がどうにかしろ。そんなことはいいんだ。僕には使命があるからな」
「使命ですか? いったい……」
「フッ、お前が知らなくていいことだ」
「さすがでございます……?」
キグニス教官はビビムの意図が図り切れず、首を捻った。
「それよりお前こそ今まで何をしていたんだ。奴の……アイレンの不正を暴けないのは何故だ?」
「も、申し訳ありません。私は王賓クラスの受け持ちはしておりませんので……」
「まったく役立たずめ」
同じくアイレンの不正を暴けていない自分を棚に上げるビビム。
「それにしてもイカサマとトリックだけで春期を乗り切るとは、運のいい奴だ……」
結局、授業を覗き続けてもアイレンの不正の瞬間を見ることができなかった。
夏期休暇はビビムも実家に帰るので授業が再開するまではお預けになる。
「まあいい、夏期にはダンジョン講習がある。そこで馬脚を現すさ」
ビビムが意気込んだそのとき、実習教室から強烈な閃光が放たれた。
ミィルが生徒たちに請われて披露してみせた人類術式フラッシュだ。
王賓クラスの生徒たちには対閃光防御がアイレンによって密かに施されていたが――
「わっ、まぶし!」
当然、実習教室を覗いていたビビムの目はまともに閃光を受けることになる。
「わ、わ、わ!」
一時的とはいえ盲目状態になったビビムはパニックを起こして、枝からずり落ちた。
「ぐべっ!?」
「ビビム様ーっ!」
尻から落下したビビムはそのまま回復室に運ばれてクラスの終期式にも参加できず、有耶無耶のうちに夏季休暇に入ってしまうのだった。




