40.光&闇属性魔法実習②
「わかりました」
うなずいて、ラウナの方を見る。
みんなと違って赤碧の瞳は期待に潤んでいた。
ありがとう、ラウナ。
君のおかげで俺は少し歩み寄れたかもしれない。
それは竜王族と人類の隔たりを思えば、あまりに小さい一歩かもしれないけど。
きっと俺はラウナに会わず魔法交流部に入っていなかったら、同じ『失敗』を繰り返していただろう。
いつものように無詠唱で魔法を随時構築してみせ、忌避されていたはずだ。
今回その轍は踏まない。
「では、いきます」
そう言い添えてから、俺は詠唱を開始した。
「貴様……その詠唱は!?」
リードが目を見開く。
それは誰も聞いたことのない一節から始まる俺オリジナルの人類術式。
リードのものに十三節を付け足して五節を削った完全版。
「ライト!」
俺の手の平から光の玉が生まれた。
リードのものと同じサイズのそれは消えることなく辺りを照らし続ける。
皆が皆、一様に絶句していた。
この間の風属性実習で嵐を起こしたコントロールウェザーは、人類が既に考案した術式に基づいて詠唱した。
土属性実習で城のミニチュアを組み立てたときも人類ではごくごくありふれた既存の魔法を用いただけ。
だけど、この光属性魔法は違う。
人類にとって未知で、しかしいずれは辿り着くであろう終着地点。
ただ発見されていないだけ。つまり、この魔法は訓練すればここにいる誰もが使える可能性のある魔法なのだ。
「……アイレン。お前は闇属性魔法も使えるのか?」
いち早く気を取り戻したリードがやや期待に満ちた目で訊ねてくる。
「いいえ。今のところ俺が『詠唱して』使えるのはこのライトだけです」
「フッ……そういうことか」
わずかに驚いてから何かを悟ったように笑うリード。
「マイザー教官。これは学院始まって以来の大発見というやつではないか?」
「ええ。間違いなくそうだと思います。フルドレクスの魔法学会が知ったら黙ってはいないでしょうね」
マイザー教官の答えを聞いたリードはククク、と愉快そうに肩を震わせてから生徒たちに振り返り、大仰に手を広げた。
「見ての通りだ諸君。とっくの昔に気づいている者がほとんどだろうが、敢えて言う。アイレンが我らより進んだ魔法知識を持っているのはもはや明白だ。それを認めず旧態依然とした特権意識にしがみつき遅々として進まぬのは先祖の望むところではあるまい。早速だが私は今のアイレンの詠唱を真似し、実践したいと思う! 必ずや我らの発展に繋がると信じてな!」
リードの演説を聞いて唖然とする生徒たち。
正直、俺も少し驚いている。
前はあんなに敵愾心を剥き出しにしていたというのに。
やがて演説を終えたリードが俺の前にやってきた。
「前から知りたいと思っていた。この際だから訊くが、お前はいったい何者なんだ?」
「……田舎からやってきたしがない平民です、リード様」
「ハッ、わかった。そういうことにしておいてやる」
リードは踵を返して離れていく。
そして宣言どおり俺の詠唱を真似し始めた。
「では、各々始めてください」
マイザー教官が改めて実習の開始を宣言すると。
「そ、その……」
さらに驚くべきことが起きた。
今まで話しかけてこなかった生徒たちから俺に話しかけてきたのだ。
「さっきの詠唱、もう一度聞かせてくれないか?」
「頼む、全部聞き取れなかったんだ! 俺にも教えてくれ!」
「わたくしにもお願い!」
次々とやってくる生徒たちにあたふたしてしまう。
「わ、わかりました。やりますから!」
慌てる俺の様子を見て、ラウナとミィルが嬉しそうに笑っていた。




