33.魔法交流部結成③
案内されたのはまるまる一棟の建物だった。
「まあ、素敵!」
建物に入るやいなやラウナが感激に目を輝かせた。
こう、俺の語彙だとうまく伝えられないけど、内装がとっても豪華ですごい。
「こちらの部屋はいつでもお茶と軽食を食べられるよう魔法倉庫に備蓄がありますし警備も万全です。王族関係の部員も利用していたことがありますし不足はないかと思いますが、いかがでしょうか?」
マイザー教官殿がラウナに訊ねる体で俺に目配せしてくる。
「はい、こちらでお願いします!」
ラウナが満面の笑みで応えたので俺も頷いた。
「では、私は顧問として部室利用の手続きをしてきますので」
マイザー教官殿が退室したあと、俺たちは部室をいろいろチェックして回った。
印象としては部室というより、もはや邸宅だ。
合宿用なのか宿泊施設も併設されているし、屋上に至ってはもはや空中庭園になっている。
マイザー教官殿の話によるとリードの所属する正統魔法部はもっと豪華な場所らしいから、此処はラウナ用に確保されていたんだろうな。
ミィルもソファにダイブして「ふかふか~。おうちを思い出す……」とご満悦だ。
「おふたりとも、こちらに来てください!」
ラウナの声のしたほうにミィルといっしょに向かうと、そこは演習室になっていた。
学院内での無断の魔法使用は厳禁だけど、ここなら使ってもいいみたいだ。
「さあさ、ここなら邪魔は一切入りません! おふたりの魔法をわたくしに見せてください!」
「え、今から?」
「そうですよ! ずっと見たくてウズウズしていたんです!」
いつになく興奮した様子で目を輝かせているラウナ。
いや、文字通り右目の神眼は赤く光ってるように見えるなぁ……。
「わああ、すごいねラウナ! 右眼に集中してる魔力がものすごいことになってるよー!」
「ええ。普段は差し障りがあるので抑えておりますが、このように神眼を励起させればより正確に魔力を視ることができますので!」
「へー、そうなんだ! じゃあ、あたしもとっておきの見せてあげるねー」
乗り気になったミィルが演習場の中心で魔力を高め始める。
「えっ、これは……大気中からミィルさんに魔力が流れてますよ!?」
俺は目を見張るラウナの隣に立ってミィルを指差した。
「よく視て。流れてきてるだけ?」
「あっ……ミィルさんからも外に流れてます。これはまるで……部屋全体がミィルさんになっているかのよう!」
竜王族は自然と一体になるために体内の魔力と世界の魔力を循環させる。
今は部屋だけだけど、水竜の力を解放したミィルなら湖や海から莫大な魔力を取り出して行使できる。
その気になれば世界のルールすらも書き換えられる絶大な力だ。
ちなみに森のみんななら本能的にできる内から外、外から内への魔力変換はとても難しい。
俺も習得できたのは最近だ。
「すごい……本当に綺麗です。生きてきてよかった……」
大袈裟な気もするけどラウナの神眼にはさぞ美しい世界が視えているのだろう。
こればかりは彼女だけの特権なんだろうな。
実演を終えたミィルとラウナが語らい始めた。
「どうだったー?」
「とても素晴らしかったです! まるで、この世の真理を垣間見るかのようなひとときでした……」
「えへへー!」
楽しそうに話す女子を笑いながら見守っていると、ふたりがこちらを振り向いた。
「次はアイレンの番だねー」
「わかった。でも、その前にラウナ。俺にアースコントロールの詠唱を教えてほしいんだけど」
アースコントロールは土を操る魔法だ。
「アースコントロールですか? もちろん構いませんよ」
ラウナは笑顔で請け負ってくれた。
だけど俺が詠唱を教わる間、ミィルは小首を傾げている。
「じゃあ、実際にやってみますので聞いててくださいね」
「ありがとうラウナ。頼むよ」
ラウナがアースコントロールを実演するために演習場の中心に向かう。
するとミィルが隣に来てこそっと耳打ちしてきた。
「なんでー? 詠唱なんかしなくたって、あたしたち魔法使えるのに」
もっともな疑問だ。
アースコントロールを使うだけなら人類術式の詠唱を教えてもらう必要なんてない。
だけど――
「リードたちの作品を観て少し思うところがあって。だから今度の土属性実習は、人類術式を使ってみたいんだ」




