27.水属性魔法実習④
「ひょっとしてあの人、ラウナのことが好きなのかなー?」
ミィルがあっけらかんと言った。
リードが好きなのはミィルだと思うけど。
だけど、ラウナは首を横に振った。
「いえ。実を言うと、リード王太子はお姉様の許嫁なのです」
「へー、そうなんだ!? おもしろーい!」
ミィルがきゃっきゃと喜んでる。
許嫁いたんだ。
そりゃいるか。
王太子なんだし。
「じゃ、あたし先に戻って下準備してるねー。ふたりはごゆっくりー」
ミィルが班テーブルに戻っていく。
何がごゆっくりなんだ……?
「アイレンさん……」
ラウナが不安そうにこちらを見つめてくる。
なんか気まずい。
「えっと、お姉さんってフルドレクス魔法国の第一王女なんだよね」
俺が訊ねるとラウナは悲しそうに笑った。
「はい。とはいえ、フルドレクスにも王太子はいますから。わたくしたちはあくまで政治の道具です」
ここでラウナが何故か頭を下げてきた。
仮にも人類の王族が、平民ということになっているとはいえ、この俺に。
前にも同じことはあったけど、なんだかあのときとは様子が違う。
「申し訳ありません。せっかく部活を作れそうだったのに……」
「え、どういうこと?」
「リード王太子は芸術審美に関して特に才能をお持ちなのです。班に集まった皆さんの顔ぶれを見る限り、学院始まって以来の傑作が出来上がるのは間違いないかと思います。つまり――」
「ああ、そっか。俺たちの負けは決まってる……って言いたいんだね」
「残念ながら。それにわたくしはこの目に誓って忖度することはできません。作品づくりに参加することも……」
辛そうに目を伏せるラウナ。
「気にしないでいいよ、見えたままを評価してくれれば」
「えっ、でも……」
「心配しないで、頑張るからさ」
俺が班テーブルに戻ろうとすると、ラウナが俺の袖を掴んだ。
「ラウナ?」
「その……私はアイレンさんを応援しておりますので!」
まっすぐに赤碧の瞳を向けてくるラウナ。
その無垢な信頼に応えるべく、笑顔で誓う。
「ああ、絶対に勝つよ!」




