26.水属性魔法実習③
「えっ、でもラウナリース様はこちらの班ですし。あまりにこちらに有利になってしまうのでは?」
「その心配はない。彼女の神眼は嘘を吐かないからな」
なるほど、リードはラウナの神眼のことも知ってるわけか。
「そして、もしこの勝負に私の班が勝った場合……お前は二度とラウナリースに近づくな」
「そんな!?」
リードの冷酷な一言にラウナが悲鳴をあげた。
「ラウナリース。君も王家の人間ならば、私の言わんとしていることはわかるな?」
「……っ!」
リードの高圧的な言い方にラウナは俯き、黙り込んでしまう。
「……もし俺の班が勝ったら?」
俺の問いかけに、教室内の空気が一気に凍り付いた。
「なんだと! 貴様、平民の分際で!」
「リード様率いる我らに勝てると思っているのか!」
「そうよ! 不正入学した平民のくせに! なんて恥知らずなのかしら!」
間を置いてから一斉に罵倒が飛んでくる。
リード班の生徒だけじゃない。ほとんどのクラスメイトがリードの味方についていた。
今までため込んできた不満を爆発させてるみたいだ。
「ねえねえアイレン」
ミィルが耳打ちしてきた。
「この流れでアイレンが断罪されたらリリねーさまがすっ飛んでこない?」
「あっ、言われてみれば……!」
一時の怒りと流れに任せて間違いを犯すことは竜王族にだってある。
今回はある程度こちらから仕向けた形だし、彼らが俺に怒りをぶつけてくるからといって悪いとは思わない。
でも、リードがみんなの怒りを扇動するなら、リリスルが黙っていない。
自らの欲望を満たさんとする者に率いられた怒れる人類は、いずれ感情に任せて世界を破壊するでしょうとかリリスルは言ってたし。
それは竜王族としても絶対に看過できない未来のはず。
これは、ヤバいか……?
だけどリードはこちらを憎々しげに睨みつけてはいるものの、俺に痛罵を浴びせてくることはしなかった。
無言のまま手を掲げ、クラスメイトの全員に鎮まれと暗に伝える。
生徒たちが従って教室が静かになって自分に注目が集まったのを確認してから、はっきりと告げた。
「私が負けたら二度とラウナリースのことに口出しはしないし、他の者にもさせない。これではどうだ?」
「はい! それでしたら不足はありません」
それであれば極めて公平な勝負だ。
文句なんてあるはずがない。裁定は継続できる!
「あはは。よかったねー」
ミィルが笑う。
本当によかったぁ~、あぶねー!
「勝つのは我々だ」
「こっちも負けませんよ!」
俺とリードの視線の狭間で火花が散る。
「生徒同士の切磋琢磨は王都学院の良しとするところです。この勝負……不肖、マイザーが見届けます」
成り行きを見守っていた実習担当のマイザー教官殿が正式に承認する。
こうして、班対抗の勝負が始まった。




