23.神眼王女ラウナリース④
「そ、その……こんなことを言うと殿方には引かれてしまうんですが、神眼に映る魔力というものはとても美しく、筆舌に尽くしがたい輝きを持っておりまして。それにアイレンさんが魔力を効率的に美しく仕上げていく様を見てしまい、わたくしそれ以来夜も眠れず……それでこうして直接聞いてみたいと思った次第でして」
「そういうことだったんですね。いやあ、別にいいと思いますよ。俺は別に引かないですし」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、かわいいもんだと思います」
俺に魔法を教えてくれた紫の姉貴はもっとヤバいしね……。
「か、かわいいだなんて……」
ラウナリースがもじもじしながら、照れ臭そうに言う。
「でも、どうして怯えてたんですか? 普通に聞いてくれればよかったと思うんですけど」
「アイレンさんとミィルさんがあまりに規格外過ぎて、こんな人たちが学院に乗り込んでくるなんて何か企んでいるんじゃないかと思ってしまって。でも、とっても勇気を出しました……怖かったんですけど」
とんでもないですラウナリース様、正解です。
それでだいたい合ってます。
「それでもし何か悪いことをしようとしているなら、気づいたわたくしが止めなくてはいけないと思いまして。他の生徒の皆さんを巻き込むわけにもいきませんし、いざとなったら刺し違える覚悟で屋上に」
ただならぬ決意を秘めているように見えたのは、そういうことだったのか。
「それで俺たちのこと、ずっと見てたんですね」
「気づいてらっしゃったの!?」
「ええ、だってラウナリース様だけ他のみんなと全然俺たちの見方が違いましたもん。まあ、神眼のことを聞いたら納得ですけど」
敵意はなかったからミィルとも放っておこうと話してたのはラウナリースの視線だった。
特にラウナリースは王賓クラスの中でもトップクラスに評判のいい生徒だったし、関わると余計な恨みを買いそうだったというのもある。
「とにかく俺はみんなを害しようとなんて思ってません。平和に学院生活を送りたいと思ってます。だから安心してください」
竜王族が学院の生徒も含めた全人類を害するかどうか決める権利を持ってるけど、俺自身は今のところ人類に対して悪意を持っているわけではないので嘘は言ってない、多分だけど。
「よ、よかった。わたくし、もう、死ぬ覚悟もしておりました……万にひとつの勝ち目も見えておりませんでしたので、なんとか説得できないかとずっとずっと考えて……」
そうか。この人はこの人なりに、勇気を振り絞ってみんなのためにすごく頑張ってたんだな。
人類裁定、文句なく大加点です。
「ミィルさんにも謝らないといけませんね」
「あー、うん、そうですね」
ミィルにあとで口裏を合わせてもらわないと。
さすがに竜王族だってことは口止めされてるはずだけど、ミィルだからなぁ。
いや、俺もそろそろボロが出そうだし……もう退散したほうがよさそう。
「あ、そろそろ昼休みも終わっちゃいそうですね。それじゃ俺はこの辺で――」
「お待ちになって!」
ラウナリースが去ろうとする俺を引き止めてきた。
「どうしました?」
「もしよろしければ、なのですけど……」
ラウナリースが赤碧の瞳をまっすぐ向けてくる。
意を決した表情で、その言葉を口にした。
「わたくしと部活を作りませんか?」




