22.神眼王女ラウナリース③
「ええっとぉ……俺は、その、ただの平民っていいますかあ。おっしゃってる意味がわからないと言いますかあ!」
「アイレンさん、嘘がすごく下手なのね……」
ラウナリースからジト目が向けられる。
確かにみんなにもよく言われるけどさ!
「それはともかく!」
ラウナリースがコホンと咳払いをする。
「皆さんはあなたの力に気づかないどころか、不正だトリックだと現実に目を向けられずにいます。ですが他の方ならいざしらず、『神眼』を持つわたくしを誤魔化すことはできません」
「神眼?」
ラウナリースが手の平で碧眼を隠し、右の赤眼だけで俺を見据えた。
「わたくしは生まれつき魔力や生命力を見られる眼を持っておりまして。あなたが先日の実習で見せた魔法が、私達人間が使う術式とは異なることぐらい見通せるのです」
「な、なんだって……!?」
そんなすごい眼を生まれつき持っているだなんて。
さすがは麗しき才媛……俺なんて魔力を感じ取るのですら死ぬほど訓練してようやくって感じだったのに。
「わたくしたち人間の用いる術式には詠唱が必要です。何故なら詠唱とはご先祖様が代々伝えてきてくれた研鑽、歴史に他なりません。あなたはそれを用いず全く異なる術式で魔法を使いました! つまりあなたは……人間ではないのですね!」
とんでもないことを言い出したラウナリースに、俺は思わず叫んだ。
「ええっ!? 俺は人間だよ!!」
「ええっ!? そうなのですか!?」
何故かラウナリースまで叫んだ。
「どうしましょう、あなたの嘘が下手過ぎて逆に本当のことを言ってるってわかってしまったわ。わたくし、学友になんて失礼なことを……」
ラウナリースがぺこりと頭を下げた。
「申し訳ありません。どうやらわたくしの思い違いだったようで」
「ああ、いや。それは別にいいんだけど……」
いいのかな?
ラウナリースは王族なのに、俺なんかに頭下げちゃって……。
「でも、だとしたら先日の魔法はいったいなんなのですか? 詠唱なしの術式なんて、見たことも聞いたこともないですよ。とても人間業とは思えません」
ラウナリースのいわんとしていることはわかる。
詠唱はいわば魔術の公式。詠唱がないなら術式とは言えない。
だけど俺は現に詠唱なしで術を構築してみせた。
「詠唱ですかぁ……あれって逆に難しいと思うんですけどね」
「どういうことですか?」
「だって、詠唱で術構築が自動化されてる部分って変えられないじゃないですか」
ラウナリースの目が点になった。
「ええっと、おっしゃる意味がちょっとわからないのですが」
「いえ、だから今の魔法授業でやってる術式って全部が全部決まりきった形じゃないですか。あれだと細かいアレンジができないですし、できたとしても詠唱部分は下手に弄れないから付け加えることになって無駄に容量食いますし」
「そんな。詠唱はご先祖さまから代々伝えられてきた研鑽の歴史なのですよ。詠唱を使わないということは術式を全部一から作らねばならないわけで……」
あー……なるほど、人類ではそういう認識だったのか。
道理でみんな何の疑問もなく授業を受けていたわけだ。
「いや、きっとその術式をそのまま使うだけでいいなら詠唱でもいいと思うんですけどね。こう、俺の場合は基礎部分を頭の中で随時構築する方法を体に叩き込まれたんで、どうしても詠唱を使う術式に粗が見えちゃうんですよね」
「随時構築ですか……!? 信じられませんが、この眼で見ていますしね……すごいです。本当にすごい……」
頬を染めてうっとりするラウナリース。
「……ひょっとして好きなんですか? 魔法」
「大好きです!!」
俺の問いかけに赤碧の瞳をキラキラさせながら、まるで愛の告白のように力強くラウナリースは宣言した。




