19.炎属性魔法実習⑥
「……さっきのはいったい何をしたんだ」
「えっ? リード……様。どうしました?」
いつもミィルを見ていたリードの視線は、俺の顔に固定されていた。
険しい顔つきのまま問い質してくる。
「土の弾体に圧縮した炎の魔力を注ぎ込み、風で威力を上げる……ここまではわかる。三属性混合そのものは私も見たことがあるからな。だがお前のやったのは明らかに違う。理論上は可能とされているものの現実的ではない四属性混合だ」
あー……そっか、わかった。
確かに今までの授業でやってた応用術式だと四つ属性を入れる容量はないもんな。
マイザー教官殿が「お手本にならない」って言ったのはそういうことか。
素直に二属性混合でファイアーバレット撃っておけばよかったんだなー。
それにしても、リードは何をそんなに気にしているんだろう?
「いや、この際どうやってやったかは聞かん。私が一番気になったのは、お前があの魔法を発射する直前、最後に組み入れた属性だ。あれはなんだったのだ?」
ああ、なんだ、そんなことか。
まあ別に秘密ってわけでもないし教えても問題ないだろう。
「水属性ですよ」
「馬鹿な! 水属性だと!? 炎は水を加えれば打ち消されてしまう!」
「確かにその通りですね。炎にとって水は反属性。炎は水で消えますから」
「ならば!」
「ですが、消える際に発生するエネルギーはゼロってわけじゃないんですよ。普通の火も水をかけたときにジュッとなるでしょ。魔法も水で消した火の強さが大きくなればなるほど、その爆発力はケタ違いになりますから」
まあ、その爆発力をきちんと処理できないとただの自爆魔法になってしまうんだけど。
そこがバスターキャノンの難しいところだ。
俺が自力で開発したときも魔法の師匠に自殺したいのかってめっちゃ叱られたしなー。
「そん……な……」
なんだかリードはものすごいショックを受けてるように見える。
そのままトボトボとどこかへ行ってしまった。
「あの人、どうしちゃったんだろうねー?」
「なんだろう。トイレじゃないかな」
なんてミィルと話していたが。
結局リードが授業に戻ってくることはなかった。
◇ ◇ ◇
「ぬおおおおっ!」
学院の校舎裏。
リードは壁に向かって杖を振るい、魔法を放っていた。
ファイアーボルト。
ファイアーバレット。
ヒートフレイム。
いずれも完璧な詠唱、完璧な属性配合で放たれている。
これまでのリードであれば、その出来栄えを自画自賛していただろう。
しかし、今は……これからは違う。
リードの魔法は対魔壁の校舎には傷ひとつつけられていない。
対魔壁は魔法に対して、教練場の対魔標的と同じ硬度を持っている。
つまり、アイレンにできたことが今のリードにはできないとはっきりしたのだ。
皮肉にも誰より優秀だったリードだけが、生徒の中で唯一その事実に気づいていた。
「クッ……」
最後に魔法の名前すらわからない炎属性と水属性の混合に挑戦するリード。
しかし、彼自身が生徒たちに説いていたように……魔力は打ち消し合うだけで何も起きなかった。
それまでは当たり前だと思ってきた現象に、リードはがくりと項垂れる。
「奴の力も……知識も……すべて本物だというのか……」
リードにとって、セレブラント王家に生まれたことは誇りだった。
魔法の天才と呼ばれ、当たり前のように王賓クラスに属し、首席で卒業するところまでが約束された道だとばかり思っていた。
だが、予想だにしない障害が現れた。
リードの中で嘱望されてきた将来が、みるみるうちに色あせていく。
「いや、私は認めんぞ……セレブラントの名にかけて、あんなどことも知れぬ男に負けるわけにはいかん!」
この日、リードは生涯を賭けて誓う。
いつの日か必ずアイレンに勝つと。
負け知らずの王太子にとって生まれて初めて負けたくないと思う相手、すなわち好敵手ができた瞬間だった。
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