17.炎属性魔法実習④
なんだかややこしいことになったけど、要するに炎属性の応用を見せればいいのかな。
「アイレン君。あちらの線の上に立って正面に見える標的をどれでもいいので撃ってください。では、発動体の杖を」
マイザー教官殿が教練用の杖を渡そうとしてくれる。
「あ、いえ。大丈夫です」
「え? ですが、杖なしでの魔法使用は……」
「発動体なしでできるよう訓練してますので」
マイザー教官殿が一瞬唖然としたが「アイレン君がそう言うのであれば……」と大人しく引き下がった。
「なんだ、杖なしか?」
「やっぱりできないんじゃなくって?」
囃し立ててくる生徒たちに見送られながら、俺はマイザー教官殿に言われたとおりに線が引かれた地面に立つ。
正面には魔法教練用の対魔標的が生徒全員分、きっちり横一列に並んでいる。
標的の後ろは分厚い対魔壁になっているので、魔法を外しても学院の外に被害が出ることはない……とのことだったけど。
「うーん……強度が心配だな。あの対魔標的と対魔壁」
俺が実演しようと思ってる魔法は貫通力が高い。
あの的はおろか、学院を囲う外壁も簡単に貫いてしまうだろう。
どうしたものかと首をかしげていると。
「フン……やはり馬脚を現したな、アイレン」
すぐ近くまでリードが来ていた。
それ見たことかと言わんばかりの顔をしている。
「実技テストでの不正を認め、この学院を出ていくがいい。そうすれば――」
「はいはーい! ミィルがお手伝いしちゃうよー!」
得意げに語るリードの台詞を元気のいい声が遮った。
「ミィルさん!?」
リードが驚きの声をあげる。
「おっ、助かる! じゃあ、あの的を加護で覆って支えててくれ。たぶんあのままじゃ壊れちゃうから」
「まっかせてー!」
勢いよく挙手したミィルが風みたいな速さで的に向かい、しっかりと支えた。
なるほど、このときのために教練用の服に着替えてたのか。
そこまで直感で読み切っていたとは、さすがは竜王族きっての感覚派天然。
「ん、ミィルがしっかり加護を張ってくれれば平気だな」
ミィルが支えた対魔標的の防御力がしっかり強化されている。
これなら何も心配はないだろう。
しかし、今度はミィルの乱入に唖然としていたリードが掴みかかってきた。
「何のつもりだアイレン!」
「え? 何って炎魔法を――」
「嘘を吐くな! 何か得体の知れないトリックにミィルさんを付き合わせるつもりだろう!」
「えーっと……?」
リードは俺に実演させたかったんでは……?
わけがわからないな。
「リード様」
見かねた様子のマイザー教官殿がリードに声をかける。
「マイザー教官! 君も止めないか!」
「ご無礼を承知で申し上げますが、それ以上はセレブラント王家に泥を塗ることになります。どうか堪えてください」
「クッ……!」
歯噛みしつつもリードが引き下がった。
悔しそうというよりは、どうもミィルを心配しているように見える。
案外いい人なんだなぁ。
っと、俺もしっかりやらないと。
ちゃんとみんなにお手本を見せなくっちゃいけないわけだし!
ここは手加減とか言わず、ちゃんとしたのを見せないとな。




