16.炎属性魔法実習③
「不壊の大岩を……平民のネズミ如きが?」
「嘘っ……リード様、いったいなにをおっしゃているの!?」
生徒たちが騒ぎ始めるが、リードが手を挙げるとすぐに静まった。
「事実だ。そうであろう、マイザー教官」
「……ええ、そうですね」
マイザー教官殿も渋々といった様子で認める。
「平民が王賓クラスに配属されたのは、何故か? 気になって調べてみたのだよ。緘口令が敷かれているわけでもなかったので、すぐにわかった。不壊の大岩を破壊したのは、このアイレンだ」
リードが俺に人差し指をビシッと突き付けた。
ざわめきつつも生徒たちは異論を差し挟まない。
へぇ……リードの言う事だとみんな信じるんだなー。
「何故隠そうとしていたかは知らないが……」
「いえ、どうせみんな信じないかなって思ったからでして」
「フン……どうせ何か後ろ暗いところでもあるのだろう。学院長の目は誤魔化せても、私には通じない」
ほらー、リードも信じてくれてないじゃん!
「待ってください、リード様。手本であれば私が――」
「不壊の大岩を破壊したのが真にアイレンの力であるというのなら!」
マイザー教官殿が焦りの混じった表情で割り込もうとするが、リードが突然大声で叫んだ。
「……炎の属性混合など造作もないことのはず。諸君、そうは思わないかね?」
リードがみんなを焚きつけるように問いかけると、生徒たちが一斉に声をあげ始めた。
「そうだそうだ!」
「リード様の言うとおり!」
「もし本当なら、できて当然よ!」
生徒たちの声援を受けたリードがしてやったりとばかりに笑みを浮かべ、俺を挑発するように両手を広げてみせた。
「さあ、やってみせてもらおうかアイレン! まさかできないとは言うまいな!」
◇ ◇ ◇
「できますか? アイレン君。無理にとは言いませんが」
マイザー教官が嘆息し、アイレンに確認を取る。
「ええ、別にいいですけど……」
(フン……はったりだ。できるはずがない)
困ったように頭を掻くアイレンを睨みつけながら、リードは内心で独りごちた。
(情報には続きがある。貴様が不壊の大岩を破壊した手段は素手による物理攻撃だったという。言うまでもなく何らかのトリック……いったいどのような手を使ったかは知らないが、魔法に関する知識は皆無と見た)
この数日、アイレンを観察したリードはそのように結論づけていた。
アイレンは魔法の授業についていけていない。
リードにはそのように見えたのだ。
(今回の実演は突発的なもの。仕込みをする暇は与えない……なにかあれば私は必ず見破る! せいぜいミィルさんの前で無様を晒すがいい、アイレン!)




