14.炎属性魔法実習①
セレブラント王国において、魔法は平民の憧れであると同時に貴族の力の象徴だ。
特に同盟を結んでいるフルドレクス魔法国とは頻繁に政略結婚を繰り返して、サラブレットを輩出している。
もちろん王宮でも魔法の腕前が重要視されている。
平民でも魔法の腕さえあれば高い地位に就くことができるから、爵位を狙ってやってくる冒険者も多いんだとか。
そんなセレブラント王国で特に羨望の目で見られているのがセレブラント王都学院。
ここでは一般教養やマナーも学べるけど、メインの授業は魔法だ。
特に王賓クラスの生徒は家で家庭教師を雇っているのが当たり前なので、必然的に魔法の授業ばかりになる。
だから魔法の最先端を学べるってことだったんで、俺も少なからず楽しみにしていたんだけど……。
「うーん……なんていうか基礎は今更って内容だし……応用になると途端に粗が多いなぁ」
座学はほとんど知ってる知識ばかりだった。
それがせめて復習になったら良かったんだけど、そもそも術式の効率の悪さとか逆に魔法の効果を下げてしまってる詠唱とかが目に入ってしまうと「それでいいのかな?」って疑問符が先に浮かんでしまう。
「どうやら授業についていけないようだな」
「思ったより早くボロが出たわね」
俺が浮かない顔をしているのを見た貴族たちが嗤っている。
正直、彼らがこの授業内容で満足しているのが不思議でならない。
「くー……すぴー……」
ちなみにミィルは寝てた。
寝顔に見惚れてる男子生徒の中にはリード王太子も含まれていて、この国は本当に大丈夫なのかと思う。
まあ、大丈夫じゃないから俺がここにいるんだけど。
◇ ◇ ◇
いよいよ最初の魔法実習の授業だ。
俺が大岩を壊した校庭に王賓クラスの生徒たちが集まっている。
「そういえば不壊の大岩がなくなってるわね」
「なんでも破壊されたから撤去されたらしいぞ」
「本当か? そんなこと、いったい誰が……」
俺です。
と言ったところで誰も信じてくれないのはわかっているので、何も言わない。
「おいっちにー、さんしー! にーにー、さんしー!」
何故か戦闘実習用の体操服に着替え済みのミィルが準備体操をしていた。
俺も含めてみんなは王都学院の制服のままなのに。
「なんでそんな恰好してるんだ?」
「ん-、こっちのほうが動きやすいしねー!」
晴れやかな笑みを浮かべるミィル。
なんか授業内容を勘違いしてそうだけど、大丈夫かな?
準備体操が終わると顔を近づけて耳打ちしてきた。
「ところでアイレン、気づいてる?」
「ん? ああ、まあ一応」
俺とミィルはいろんな意味で注目の的だ。
そのほとんどは嫉妬や嘲笑だけど、ひとりだけそうじゃない女子生徒がいる。
話したことはまだないけど、どこの誰なのかはもう知っていた。
「まあ、別に害があるわけじゃないし」
「アイレンがそういうならいっかー」
その子から向けられている感情に一番近そうなのは疑念、あるいは警戒って感じ。
敵意とかではないから正直放置でいいかなーと思ってる。




