12.竜少女ミィル①
あれから、さらに数日。
授業も最初のうちは学院での過ごし方とかオリエンテーションみたいなのが中心なので、これといってトラブルもなかった。
予想通り、授業と授業の合間に俺のところにやってくるのはミィルだけ。
今のところミィルに声をかけようとする男子は現れていない。
王太子リードみたいに相手をされず恥をかくのを恐れているんじゃないかってミィルが言ってた。
「あの子はいったい何者なんだろう」
「美しい……俺の国に嫁いでくれないかなぁ……」
すっかり男子の視線をミィルが独占している。
「それにしてもなんであんな奴があの子と……」
「フン、実技が始まったら身の程を思い知ることになるさ」
陰口をたたかれるのは相変わらずだけど、俺とミィルの仲を妬む内容がほとんどになった。
「ああ、ミィル嬢……おのれアイレン……」
その中でもとりわけ凄まじいのがリード王太子だ。
そこまでミィルが好きになったなら素直に話しかければいいのに……。
「なんなのよ、あのミィルとかいう女……」
「平民のくせに……」
案の定、ミィルは女子のやっかみを受けたのだが。
ヒソヒソと囁く令嬢たちのところにミィルはトコトコと歩いて行って。
「なーに? あたしに言いたいことがあるなら、なんでも直接言ってねー!」
などと、笑顔でのたまったのだ。
それからというもの、教室内でミィルを悪く言う生徒はいなくなった。
「なあなあミィル。王族にはこっちから話しかけちゃいけないんだぞ」
と、俺が注意してはみたものの。
「それって宮廷とか公の場での話でしょ? 学院の生徒は平等ってことになってるんだからいいの。ましてやクラスメイトだよ。アイレン気にしすぎー」
そういえば教官もそんなこと言ってたけどさ。
まあ、ミィルは建前とか気にしないか。
「うーん、礼儀作法の習得は仇だったのかな?」
「そんなことはないと思うよ! どんな場でも軽んじられたら不快に思う人はいるだろうし。時と場合によるよー」
楽しそうに喋りながら机の上に乗って足をぷらぷらさせているミィル。
王賓クラスでそんなことをしている女子は彼女だけだ。
それでも誰にも咎められないのは、この子の気質によるところが大きい。
いわずもがな、ミィルは竜王族だ。
俺の姉のひとりだけど、その中では一番若くて、俺と同様みんなに可愛がられている。
底抜けに明るくて甘え上手で話し相手の感情をくすぐるのが得意な、太陽みたいな女の子だ。
「んー、あたしの場合は相手が女子だからさっきみたいな対応でいいけど、男だとプライドとか面倒くさいしね。まあ、実技授業が始まったらいろいろ変わると思うよー」
「だといいけどなあ……」
嫌でも入学試験の実技テストを思い出してしまう。
また不正だ不正だと騒がれないといいけど。




