人類裁定終了のお知らせ
それからというもの、俺たちは神滅魔法の習得に明け暮れた。
人類に広めるためには、まず自分たちが覚えなくっちゃいけない。
とはいえ、習得自体そこまで難しい話でもなかった。
リードなんかはいち早く神滅魔法を習得して、姉貴にどっかのバカよりよっぽど優秀だとほめられてたし。
ラウナも神眼を生かして神滅魔法の仕組みを理解しようとしてた。
ミィルはすぐにサボって街に俺たちと観光に出かけたがったけど、前のめりになりがちな二人をフォローしてのことだと思う。
俺はというと姉貴にしごかれたり、姉貴に叩かれたり、姉貴にドヤされたりした。
そんな光景を見ていたリードがニヤニヤしてたのが忘れられない。
とにかく楽しい毎日だった。
全員が全員、神滅魔法をどうにか発動できるまでに漕ぎつけて。
本番はここから。人類術式に落とし込んでいくために頑張ろうという矢先のこと。
その日は本当に唐突にやってきたんだ……。
「えっ? 人類裁定が終わり……?」
姉貴……もといコーカサイアの報告を聞いて思わず聞き返してしまう。
俺だけじゃない。四人全員がボーゼンとしていた。
「オレもさっき聞いた。リリの奴から意味不明でクッソたわけな内容の連絡が来てな……詳細を確認するのに少し時間がかかったが、こいつは決まりだ。さすがのオレでも反論できない」
姉貴の顔色が悪かったから妙な予感はしていた。
だけど、まさか俺の判断を待たずに人類裁定が終わってしまうなんて。
「わたし達、何か間違いを犯してしまったんでしょうか……?」
ラウナが消え入りそうな声でつぶやく。今にも泣きそうだ……。
「もちろん、お前らのせいじゃない。だけど、そーだな。人類全体としてみれば致命的なミスをどっかのバカがやらかしたってこった」
「お聞かせ願えますか? そのバカの、人類のやらかしとやらを……」
リードの声が怒りに震えている。
自分たちの努力を無意味にした愚か者がいったい何者で、何をやらかしたのか。
是が非でも知り合いという目つきだった。
「これがリリからの報告をオレがまとめたやつだ。今から読むぞ」
姉貴が冊子を取り出して、ページをめくり始めた。
その日、リリスルはシビュラ神教国の神都を訪れていた。
天神信仰の聖地であり、神教にとっての心臓部。
言うまでもなく敵地である。
しかし、リリスルは大神殿に我が物顔で堂々と踏み入っていた。
「――そういうわけで、次はこのシビュラ神教国が人類裁定の舞台となります。これは決定事項ですので諦めてくださいね?」
そう。これまでの二王国と同じく人類裁定の開始を予告するためである。
「なんと無礼な。神に対する敬意はないのか……!?」
司教たちの非難を聞いたリリスルは、せせら笑うように口角を上げた。
「ハッ、あるわけがないでしょう? 竜王族と天神は不倶戴天の敵同士なんですから。問答無用で滅ぼされないだけありがたく思ってもらいたいものですね」
まあ、天魔戦争の頃はわたくし生まれてなかったんですけど。
そんなセリフをなんとか飲み込んで威厳を維持するリリスル。
「馬鹿な! 竜王族が戦ったのは魔神ではないか! どうして天神を敵視する!?」
「ああ。そういえば、そういうことになっているんでしたっけ。面倒くさいですね……」
何も知らない無知蒙昧の輩に反論するほどリリスルは暇ではない。
こんなやりとりはストレスでしかなく、ブレスの一吹きですべてを焼き払ってしまいたくなる衝動に駆られる。
帰ったらアイレンを枕にして寝られるからこそ涎が垂れ――もとい、辛抱できるのである。
「まあ、いいです。言うべきことは言いましたので、わたくしはこれにて失礼します」
果たすべき役割を果たした以上、司教たちが馬鹿なことをする前に退散するようサンサルーナに言い含まれている。
早く母さんの焼いた蜜パイを食べたいわとか考えながら、それでも雰囲気だけは厳かに踵を返すリリスルだったが――
「え?」
眼前に迫る光の玉に反応できず、リリスルが呆けた声をあげた。
直後に爆発。
リリスルが煙の中から何事もなかったかのように現れた。
ボーッとした顔のまま、リリスルは首をかしげる。
「……今のは? もしかしてわたくし、攻撃されました?」




