11.王賓クラス②
「あっ、俺ですか!?」
銀髪のすらっとした体型の美男子が、いきなり俺に話しかけてきた。
「フン……君以外に誰がいるというのだね?」
不愉快そうに鼻を鳴らしているところをみると、この人も友好的ではないらしい。
ていうか俺、知ってるな。この人のこと。
「そうですよね。お初にお目にかかります、王太子」
「む? 自己紹介はしていなかったと思うが……そうか、私を知っていたか」
銀髪の青年が意外そうに眉をひそめる。
よーし、しっかり予習しておいてよかった!
「左様、セレブラント王国の王太子リードだ。君だけは顔も名前もわからなかったものでね」
王太子の称号はセレブラント王国において第一王位継承者という意味で使われる。
つまり、リード王太子は次期国王に一番近い立場にある人だ。
「名はなんというのだ?」
「アイレンと申します! どうかよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む。アイレン」
リードは手の甲を差し出してくる。
その口端はニヤリと吊り上がっていた。
ひょっとすると、こちらに恥をかかせる気だったのかもしれない。
俺は跪いてから両手で下からリードの手を受け、うやうやしく一礼した。
手の重みがなくなったのを確認してから立ち上がり、頭を上げる。
するとリードがかなり驚いた様子で俺のことを見ていた。
「馬鹿な。どうして宮廷の作法を……いや、なんでもない。王賓クラスに入る最低限の条件は満たしているようだな」
「もったいなきお言葉です、王太子」
「……いいか、ここでは身分を弁えろ。何も問題を起こすな」
そのままリードは俺への興味を失ったかのように視線を切り、去っていく。
どうやらこのやりとりは周りから注目を集めていたみたいで、ほんの少しだけど俺を見る目が柔らかくなった。
ひょっとしてこの流れなら他のクラスメイトも俺に話しかけてくるのでは……!?
などと思っていると。
「おー。よかったぁ、間に合ったよー!」
教室の扉が勢いよく開いて、ばたーんとすごい音がした。
紳士淑女の揃う王賓クラスではまず有り得ない事態に、クラスメイトの非難の視線が扉へと集中する。
しかし、それはすぐ驚きに変わった。
教室に現れたのは青みがかった水色のツインテールを揺らした小柄な美少女。
くりっとした大きな目を輝かせながら快活そうな笑顔を浮かべている。
各国の王子が宝石の如き美貌に息を呑み、令嬢は嫉妬すら忘れて言葉を失っていた。
しかしその中でただひとり、リードだけは雷に打たれたんじゃないかって思うぐらいにすぐ動いた。
素早く優雅な動作で少女の前に立って一礼する。
「し、失礼! どちらのご令嬢かは存じ上げぬが、私は――」
「あっ、アイレンだーっ! やほーっ!」
しかし無情にもその少女はリードの横をすり抜けて、俺のもとへと駆け込んでくる。
そう、少女は俺のよく知っている顔をしていた。
「ミィル!? なんで――」
ここにいるはずのない小さな姉の姿に戸惑っていると、ミィルが照れ臭そうに笑った。
「えっへへー。あたしもこの学院に入学したの。あたしも行きたいって言ったら、ねーさまがいいよって! ねーねーアイレンびっくりした?」
「そりゃそうだよ! でもなんで……?」
「うん、驚かせようと思って秘密にしてたの! そういうわけで今日からよろしくねー!」
まさかの『家族』の登場に、俺の独り立ちはいよいよ怪しくなってきた。
リリスルが登場した時点でもう駄目だったのかもしれないけど。
「チッ……平民風情が、調子に乗るなよ」
しかもリードが憎々しげにこちらを睨んでいた。
なんだかいらぬところで恨みを買った予感がするんだけど……。
こうして俺の学院生活は混沌の様相を呈しながらも、慌ただしく始まったのだった。
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