10.王賓クラス①
「ふぅ……ついにこの日を迎えたぞ」
それから一ヵ月後。
一度故郷に帰った俺は、再びセレブラント王都学院の廊下を歩いている。
先日、白い目で見られながらも入学式を無事に済ませた。
今日から実際の授業が始まるのだ。
ちなみにリリスルは「他にやることがありますから」と名残惜しそうに見送ってくれた。
入学してからは王都で生活するから、しばらくみんなと会えないけど……。
「いや……俺はこの学院で、今度こそ新しい人類の友達を作るんだ!」
この日のために俺は貴族の礼儀作法全般を頭に叩き込んで、どこに行っても恥ずかしくないマナーを身に着けた!
さらにセレブラント王国の歴史も学び直して、建国から今に至るまでの歴代の王様とか偉人とかをそらで言えるようになった!
このアイレンに入学試験のときの穴は最早ないと思っていただきたい!
◇ ◇ ◇
そんなふうに思っていた時期が、俺にもありました。
俺の友達百人計画は、早くも頓挫してしまったのである。
俺が在籍することになったのは『王賓クラス』。
このクラスは王族、その血縁である公爵家、他国の王子……そしてその関連令嬢たちなどで構成されている。
つまりここは未来の国政を担うであろうトップエリートたちが集まる最上流教室。
普通の貴族の生徒ぐらいでは在籍すら許されない。
そこにぽっと出の俺なんかが入ったら……。
「なんだ、今年はネズミが混ざったか」
「おいおい……勘弁してくれよ」
当然、誰一人として俺に近づこうとはしない。
学習した礼儀作法によると、公式の場以外で王族に話しかけるのはご法度とされている。
竜王国の使者であることが生徒たちに秘密にされている以上、俺の扱いはあくまで平民。
つまり、俺から声をかけたりするのは許されない。
誰かに話しかけてもらえるまで待つしかないのだ。
彼らは俺の実技テストを見ていない。
王族であれば試験に合格できるだけの教育や訓練は必ず受けているから入学試験が免除される。
だから何も知らない彼らが平民と同列扱いされたように感じるのは仕方ないと思う。
王賓クラスに俺を入れたのは学院長なんだろうし、気を遣ってくれたのかもしれないけど……。
「まさかとは思うけど、このままずっとみんなに無視され続けるんじゃ……」
そんな不安が胸をよぎったときのこと。
「ちょっと君、いいかね?」




