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十八歳・ふたりの限りなく透明な季節  作者: 香月よう子
第三章・透明な二学期
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乙女たちのクリスマス(前編)

「MERRY・CHRISTMAS!」


 そのかけ声と同時に、勢いよく幾つものクラッカー音が鳴り響いた。

 アハハ…と皆、顔を寄せ合い、笑いあう。

「かんぱーい!」

 という声と、シャンメリーのグラスが触れ合うカチリという小気味の良い音もその場に響いた。


「あー、今日くらい息抜きしたいわよねー」

「まったくよ。受験まで後たった一ヶ月なんて、信じらんないわ」

 ゆうと私が口々に言い合う。

「まあまあ、高校最後のクリスマスなんだもの。女同士楽しくやりましょう。ほら、食べて食べて!」

 お杏が手際よく、小皿にサーモンマリネやマカロニサラダのオードブルを取り分ける。


 ここは、お杏のマンションのリビングダイニング。

 今日は十二月二十五日。言わずと知れたクリスマス。

 今日ばかりは受験の息抜きと称して高校二年の時の気のおけない女友達で、『クリスマス・パジャマ・パーティー』なのだ。


「この海老マヨネーズ、美味しい~! 誰が作ってきたの?」

「はーい、舞でーす」

「舞、料理得意だったのねー。まっくんのいいお嫁さんになれるわ」

「えー、それほどでも」

 なんて言いながら、舞がにやける。

「あーあ、みんないいわねえ。両想いばっかり!」

「ゆうは徳郎とどうなったの?」

 私が尋ねた。

「私? 見事玉砕!よ」

 ゆうは大きく両手でバツ印を作って、頭の上にかざして見せた。


「でも、純が守屋君とくっつくなんてねえ。去年のクリスマスには思いもしなかったわよ」

「そうそう。浩太郎君にベスト編んで」

「もー、人の古傷えぐらないの!」

「やっぱり、純って浩太朗君が好きだったの?」

 美結妃が尋ねてきた。

「そうなのよ! 純、彼に手編みのベストをプレゼントして……」

「あ、その話題はもう却下ね!」

 慌てて私が言葉を遮る。


「で、純。守屋君と最近、どうなのよ?」

「勿論、熱々よ。昨日のイヴも一緒だったんだから」

「もう、お杏!」


 まったく、女同士の会話はオソロシイ……。


カレがいないのは、私と美結妃だけってことね。美結妃! 逞しく生きていこうね!」

「あ、私ぃ、彼氏カレシできました」

 その時、美結妃がいつもの調子でにこにこと言った。


「「「「えーーー!!!」」」」

「だ、誰?!」

「あの美結妃が!?!」

 みんな泡を食っている。

「幼なじみのきゅうがくボーイよ。一年いっこ下だけどね」

「でかした! 美結妃! 男子校生ね~エライ!」

「美結妃は包容力があるから、年下の方がいいかもね」

「おめでとう、美結妃!」

「あー、もう独り身は私だけえ? このクリスマスの寒空に冷たいわあ!」

 ゆうが大袈裟に泣き伏すジェスチャーをした。


「まあまあ。ゆうの良さをわかってくれる人が、絶対その内、現れるわよ」

「そうよ。ゆうちゃん、いい人だもん」

「それ、褒め言葉じゃないわよ、舞。しょせん私は、()()()止まりなのよ……」

 ゆうが、ドツボにはまってきた。

 ゆうの気持ちはよくわかる。私だって今、たまたま守屋君とうまくやってるけれど、そうでなかったら今頃まだ『年齢=恋人なし』の淋しい独り者。


「まあまあ、とにかく今夜は食べましょう! ほら、ケンタのチキンもビスケットもあるし、スナック菓子だって一杯あるじゃない」

 お杏が場をもてなす。

 広いテーブルの上には、フライドポテトやナゲット、きのこのポットパイに、ポテチにクッキー、ハッピーターン、ポッキー・オン・ザ・ロック、きのこの山にたけのこの里……。ケーキだって、7号の苺のショートケーキに、生チョコアイスデコレーションがある。

 とにかく、女の子の大好きなモノが一杯だ。飲み物も、お杏特製の珈琲にアイスティー、コーラにポカリにオレンジジュースが並んでいる。


「パパのワインセラーからてきとーなの一本拝借してきたし、酔わない程度に乾杯しましょう!」

「あー、未成年!」

()()酔っ払いの純に言われたくないわねえ」

「そうよ!そうよ!」


 どっとみんなが笑った。



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