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十八歳・ふたりの限りなく透明な季節  作者: 香月よう子
第三章・透明な二学期
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転校生は風の如く(1) 転校生来たる!

「ねえねえ! みんな、ニュース! ニュース!!」


 昼休み、咲良が教室に飛び込んでくるなり、勇んでそう言った。


「転校生が来るわよ、うちのクラス」

「えー、うそぉ! この時期に?」

 皆が驚く。

 確かに、受験の三年それも二学期に()()に転入してくるなんて、にわかには信じ難い。

「今、職員室で先生方と話しているのを見てきたんだから、間違いないわ。しかもね」

 咲良は、そこで言葉を切った。


「すっごいイケメン! その上、あの星章(せいしょう)高校の秀才らしいわ」

「えー! 星章て、超エリート有名進学校じゃない!」

 星章高校は日本でも有数の名門進学校で、同じ進学校と言っても済陵とは格が違う。

「しかもイケメンて、本当?」

 好奇心丸出しで、優果が身を乗り出す。

「マジ! この私が保証するわ」

 咲良がトンと胸を叩いた。


 とにもかくにもどんな転校生なんだろう。

 皆、昼休みの後のショートホームルームの時間が来るのを期待して待った。



 *** 


   

三城(みき)彰人(あきと)君だ。彼は、あの星章高校から非常に優秀な成績で我が校に転入してきた。皆も彼に負けないよう、頑張ること」

 担任の本多(ほんだ)先生は、転校生の彼のことをそう紹介した。


 教室内が少なからずざわついている。というか、女子が明らかに色めき立っている。

 咲良の情報通り、いや、その期待値以上のルックスをその転校生……三城君は備えていた。 

 背が高く、がっちりとした体躯は筋肉質(マッチョ)過ぎることもなく、頼もしく男らしい。そしてそのフェイスは、いわゆるメンズモデル風の甘い端正な顔立ちで、髪型もさりげなく流行りのスタイルにアレンジされている。まだ着慣れていないはずの制服の着こなしも絶妙だった。


吉岡(よしおか)。準備室に行って机と椅子を持ってきなさい。教室後方のあの位置に席替えだ。三城君。君はその空いた席に座るように。右隣の女生徒はこのクラスの委員長、神崎だ。わからないことは彼女に聞くように」


 え? 私……?!


 突然の先生の言葉に動揺していると、三城君はすっと私の席の方に近づいてきた。

 教室中の熱い視線にも、それは堂々と臆することがない。教室中央の私の席の左側の空いた席に座ると、

「神崎さん? 三城です。よろしく」

 と、笑んだ。

 その笑顔は、まるでテレビや雑誌で見るアイドルか俳優のように華やかで、しかし、知的に落ち着いた笑みだった。

「よ、よろしく」

 私はそう答えるのがやっとだった。


 転校生の彼……三城君は。

 そうして突然、鮮やかに風の如くやって来たのだ。



***



「三城君。次、私は化学なんだけど。三城君の選択科目は?」

「僕も化学だよ」

「だったら、化学室まで案内するわ」


 その日の最終六時限目は理科で選択科目の移動教室だったから、私は彼にそう声をかけた。


「案内してくれるの?」

 彼は屈託なく爽やかな笑顔で私を見た。私は内心、ドキリとする。

「一応……。先生にもああ言われてるし」

「君、このクラスの委員長なの? 可愛いのに頭いいんだね」

「そ、そんなことないわ」

 真っ赤になって横を向いた。

「やっぱり可愛いね」

 彼は笑いを噛み殺している。

 調子が狂う。完全に彼にペースを掴まれている。

「行きましょう。こっちよ」

 それでも、平静を装いながら彼と並んで廊下を歩き始めた。


「三城君。どうして今頃、転校してきたの?」

 私は一番素朴なその疑問を口にした。

「ん……? それは。向こうで問題起こしたからに決まってるじゃん」

「え? 問題……?」

「なんてね。冗談だよ」

 彼が笑う。


 ほんと調子が狂う……。

 でも、この感じ。なんだか守屋君に似てる。

 そんな思いが一瞬、胸をよぎった。



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