転校生は風の如く(1) 転校生来たる!
「ねえねえ! みんな、ニュース! ニュース!!」
昼休み、咲良が教室に飛び込んでくるなり、勇んでそう言った。
「転校生が来るわよ、うちのクラス」
「えー、うそぉ! この時期に?」
皆が驚く。
確かに、受験の三年それも二学期に済陵に転入してくるなんて、にわかには信じ難い。
「今、職員室で先生方と話しているのを見てきたんだから、間違いないわ。しかもね」
咲良は、そこで言葉を切った。
「すっごいイケメン! その上、あの星章高校の秀才らしいわ」
「えー! 星章て、超エリート有名進学校じゃない!」
星章高校は日本でも有数の名門進学校で、同じ進学校と言っても済陵とは格が違う。
「しかもイケメンて、本当?」
好奇心丸出しで、優果が身を乗り出す。
「マジ! この私が保証するわ」
咲良がトンと胸を叩いた。
とにもかくにもどんな転校生なんだろう。
皆、昼休みの後のショートホームルームの時間が来るのを期待して待った。
***
「三城彰人君だ。彼は、あの星章高校から非常に優秀な成績で我が校に転入してきた。皆も彼に負けないよう、頑張ること」
担任の本多先生は、転校生の彼のことをそう紹介した。
教室内が少なからずざわついている。というか、女子が明らかに色めき立っている。
咲良の情報通り、いや、その期待値以上のルックスをその転校生……三城君は備えていた。
背が高く、がっちりとした体躯は筋肉質過ぎることもなく、頼もしく男らしい。そしてそのフェイスは、いわゆるメンズモデル風の甘い端正な顔立ちで、髪型もさりげなく流行りのスタイルにアレンジされている。まだ着慣れていないはずの制服の着こなしも絶妙だった。
「吉岡。準備室に行って机と椅子を持ってきなさい。教室後方のあの位置に席替えだ。三城君。君はその空いた席に座るように。右隣の女生徒はこのクラスの委員長、神崎だ。わからないことは彼女に聞くように」
え? 私……?!
突然の先生の言葉に動揺していると、三城君はすっと私の席の方に近づいてきた。
教室中の熱い視線にも、それは堂々と臆することがない。教室中央の私の席の左側の空いた席に座ると、
「神崎さん? 三城です。よろしく」
と、笑んだ。
その笑顔は、まるでテレビや雑誌で見るアイドルか俳優のように華やかで、しかし、知的に落ち着いた笑みだった。
「よ、よろしく」
私はそう答えるのがやっとだった。
転校生の彼……三城君は。
そうして突然、鮮やかに風の如くやって来たのだ。
***
「三城君。次、私は化学なんだけど。三城君の選択科目は?」
「僕も化学だよ」
「だったら、化学室まで案内するわ」
その日の最終六時限目は理科で選択科目の移動教室だったから、私は彼にそう声をかけた。
「案内してくれるの?」
彼は屈託なく爽やかな笑顔で私を見た。私は内心、ドキリとする。
「一応……。先生にもああ言われてるし」
「君、このクラスの委員長なの? 可愛いのに頭いいんだね」
「そ、そんなことないわ」
真っ赤になって横を向いた。
「やっぱり可愛いね」
彼は笑いを噛み殺している。
調子が狂う。完全に彼にペースを掴まれている。
「行きましょう。こっちよ」
それでも、平静を装いながら彼と並んで廊下を歩き始めた。
「三城君。どうして今頃、転校してきたの?」
私は一番素朴なその疑問を口にした。
「ん……? それは。向こうで問題起こしたからに決まってるじゃん」
「え? 問題……?」
「なんてね。冗談だよ」
彼が笑う。
ほんと調子が狂う……。
でも、この感じ。なんだか守屋君に似てる。
そんな思いが一瞬、胸をよぎった。




