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馬三頭と人間三人で集落からは見えない位置まで来た。
そう三人だ。
「僕は境の町まで送って行く」
という設定だ。父さんも西の大国へ一緒に行き、実家に私の事をお願いしてくれるとの事。聞けば、二十五年前の政変の時から行方不明扱いになっているはずで、先方への連絡はコウさんに頼んだものの一応顔を出しておかなきゃな……と言っていた。
父さんそれ、ものすごく心配されてるはず、と伝えれば明後日の方向を見ていた。
……さてはまだなんか隠してるなこの中年。
「じゃあ始めますよ」
この魔方陣は両方で魔法を使える人がいなければ使えないので、先に私達三人を送ってくれる人をこちらに呼び、その人には父さんが帰るまでこちらにいてもらう。父さんが戻り次第その人を送り返す、と言うことにしたらしい。
始めるのは、まずこちらへの呼び出しだ。
コウさんが家に書いた小さな魔方陣へと送られてきた二枚の紙のうち小さいほう、とは言っても人一人位は余裕な広さの紙を広げ、魔力を流す。
ポンという音と共に現れたのは父さんと同じ明るい茶色の髪色をした男の人だった。
「うわっ! すげぇ、本当に移動出来てる!! ゴホン、お久しぶりでございます殿下」
キッチリとした服に身を包み、快活そうに話す男の人だった。帯剣しているし格好といい、多分騎士だろう、なんかこうキリっとして凛々しい感じだし。
「久しいなアーベル・アエネウス」
家名を聞いた瞬間、父さんの肩が分かりやすく跳ねた。もしや。
「始めまして伯父上と従妹殿?」
「マリカと申します」
やっぱりか! と疑問が確信に変わった。父さんはああ、とか、うんとか言っている。
「どうしよう殿下、うちの従妹めっちゃ可愛い」
「俺のだからな」
いきなり気楽に話し始めたので多分コウさんと仲がいい人なんだろう。
「いやこっちの台詞ですって、この子俺の義妹になるんでしょ? うちの義妹はやらん!!」
「よし、他の家に打診しようか」
「ああ、御免なさい、頼むから家にしてぇぇ」
アーベルさんはコウさんに、一人っ子だから妹欲しいのぉぉと半泣きで抱きつきながら頼み込んでいた。キリっとした凛々しさは一瞬で飛んでった。西の国にはちょっとこう、残念な人が多いのかもしれない。
「あの、アーベルさん?」
「出来ればアーベルお義兄様と呼んでくれ」
いまさらキリっとを復活させても、もう遅いと思う。どうしようとコウさんを見れば無言で頷いていた。呼んでやれ、ということか。
「あ、アーベルお義兄様?」
「やったあ! 嬉しい、楽しい!」
「やかましい!! さっさと送ってくれ」
コウさんの一言でやっとアーベルさ……お義兄様の話が進む。
「悪いその前に、伯父上、母からの伝言が有ります」
「はい」
父さんが覚悟を決めたような面持ちで背筋を伸ばした。
「生きているなら一言で良いから連絡しなさいよ、バカ兄貴! 父さんも母さんも健在だからしっかり叱ってもらいますからね!! だそうです」
「……変わらないものだね」
ホッと息をついて肩の力が抜けたようだ。過去に何が有ったのか知らないけれど父さんが思っていたより先方は温かく出迎えてくれそうだった。
「両親、祖父母共にお会いできるのを心待にしております、私も楽しみにして参りました」
「ありがとう、僕の家族にも会って行ってもらえるかい?」
「もちろんそのつもりです」
父さんが集落の場所を教えている間にコウさんに聞いてみる。
「コウさんとアーベルお義兄様は親しいんですか?」
「友人だと思っている、っていうかアッチは双子の俺らの見分けがついてないけど、両方と親しい」
「……つまり不思議な人ですね」
個人を特定できていないのに親しく出来るのは多分そう言うことだろう。深く考えないことにした。
「コウさんとお兄さんそんなに似ているんですか?」
「性格以外、気持ち悪いほどそっくり」
コウさんの顔が二つ、さぞかし見映えが良さそうだ。
「それは……私に見分けがつくでしょうか?」
「長いこと一緒に居てくれれば分かると思う。いや分かってほしい、かな」
「頑張りますね、隣に居られる時間は長いみたいですから」
触れる位置に有ったコウさんの小指を軽く握った。以前言っていたコウさんの悩み、私が少しでも解消してあげたいと思う。コウさんが私の悩みを晴らしてくれたように。
「……やっぱりマリカは人たらしだ」
「たらすのはコウさん限定です」
「ああ、もう。婚約期間なんて無くなってしまえばいい……」
「ハイハイハイハイ、イチャイチャ禁止、送りますから準備お願いしますね」
アーベルお義兄様が不機嫌そうにパンパンと手を叩いて割り込んできた。コウさんが不服そうに舌打ちしながら魔方陣を広げる。意外と子どもっぽいところが有るんだよなあ、とその姿を眺める。
そんな所も……まあ、好きなのだけれど。
「ハイ、じゃああちらでは王太子殿下とその婚約者様がお待ちですので」
三人と三頭が魔方陣に乗ったところで、アーベルお義兄様がせーのっと声を出して魔方陣に魔力を込める。目の前の景色、生まれ育った草原の景色が歪む。なんだか気持ち悪い感じがしたので目をつぶると、泥か何かの中に押し込められる様な感覚の後、何かに引き上げられる感覚がしたので目を開けた。
そこには立派な宮殿と――
倒れている銀髪の女の人が居た。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
ブックマーク&評価してくださった皆様、とても励みになりました、ありがとうございます!
また、誤字のご指摘助かります。何回も同じ単語で間違えてしまう学習しない阿呆は自分です……
皆様ありがとうございました!!
第一章『草原編』はここで完結です。
切りがいいところまで書き上がりましたら、
第二章 『西の国編』を始めたいと思っておりますので良ければ再びお付き合いしていただければ嬉しいです!




