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 良く寝た。


 ぐっと手足を伸ばして、朝の空気を吸い込む。あんなことがあったのにこれだけ熟睡出来るなんて、自分の神経が意外と太かったことに驚く。


 そうそう、あんなことがあったのに……!?


「えぇ!?」


 よくよく見れば天井は家とは違う天井で慌てて飛び起きた。


「集会所?」


 大姉ちゃん達が寝かされていた部屋で間違いないようだ。ただ寝ているのは私一人で、とりあえずそれなりに身なりを整えていると部屋のドアが控えめにノックされる。


「はい」

「あ、起きていたか」


 そう言いながら顔を出したのはコウさんだった。


「えっと、昨晩ぶり、のおはようございます、で合っていますか?」

「合ってる。おはようマリカ、昨日はお疲れさまでした。まだ休んでいていいぞ、マリカのお母さん公認だ」

「コウさんが起きているのに寝ているわけにはいかないですよ」


 一番疲れているの、コウさんではないだろうか?


「おかげさまで体調はバッチリだ、俺も眠らせてもらったし、ちなみに俺もサボり公認」


 にやっと笑って隣へ座ったコウさんに、私が気絶してからのことを聴く。


 腕輪を通して父さんと集落の人達に来てもらいラハラを拘束してもらった後、私を姉ちゃん達に預け、魔物の残党狩りをしてくれたらしい。


「しかしあのリボンにあんな機能付いているなんて知らなかった」

「本人が伝え忘れてたって言ってましたよ」

「いや、おかげで助かったけど、なんか素直に助かったって言いたくない……」


 言いたいことはなんか、うん、分かります。


 あのリボンには、常にごくわずかな魔力が持ち主から自動的に供給されていて、その魔力が変わったり途切れたりすると、対になるリボンが光る仕組みになっていたそうだ。


 今回は光ったのが二回目だったのであの人が呼ばれたそうだ。ちなみに一回目はコウさんが行き倒れていたときと一致したらしい。


「リボンでなくとも似たような機能があるのはなかったんですか?」

「……この機能一般に出回ってないし、なんなら初めて知った。多分、リボンが世界初」


 ……なんかとんでもないことを聞いた気がする。


「そう言えばリボンはどうなったんですか?」

「ちゃんと回収してる」


 なにもないところからコウさんの手にするすると落ちてきた。これが収納魔法だろうか?


「お礼が言いたいのですが貸してもらっても構わないですか?」

「あー、それが元の持ち主に返したみたいでな、今繋いでも俺の兄弟に繋がる」

「あ、そうなんですか」


 少し残念だ。あの人には沢山助けてもらったから、お礼を言いたかった。それに楽しい人だったし。

 はた、と気がついた。姉妹以外で多分同世代の同性とこんなに話したのは初めてだった、と。


「あ、名前聴いてないし、教えてませんでした」

「あー、『お会い出来るのを楽しみにしております、自己紹介はその時にでも』って言ってた」

「……草原にいらっしゃる予定があるのでしょうか?」


 コウさんが少々バツの悪そうな顔をしている。


「いや、簡単に来れるような立場の人じゃないんだ」

「じゃあ、私が西の大国へ行きますね」

「へ?」


 鳩が豆鉄砲食らった様な、のお手本みたいな顔をしていた。


 昨日感じたことがある。コウさんとの関係性はいとも簡単にあっけなく、消えてしまうものなのだ、と。だから。


「コウさん、もう一度言ってくれませんか? 昨日の言葉」


 コウさんはこちらを見て、真意を探ろうとしているみたいだ。


「昨日思ったんです、コウさんは私の家族じゃない、だから片方が拒否してしまえばこの関係は終ります」


 ぎゅっと片手を包むようにして握る。


「私は終らせたくないんです、コウさんがどんな立場の人でも構いません。気が変わってなかったらまた」


 言ってほしい、と言う前に、握っていた手を上から包み込むようにコウさんの手が重ねられた。


「……草原から出て生きる気はあるか? 俺と一緒に、俺の故郷の国で」

「はい、連れていってください、あなたと一緒に生きたいです」


 コウさんの両腕が私を包み込む。耳元でささやくように問いかけられた。


「家族と離れても?」

「家族と離れるのは怖いです、でも大好きのままでいてくれることを知っているので大丈夫です」

「怖い思いするかもしれない」

「コウさんがいれば大丈夫です」

「隠していること結構ある」

「後で出来る範囲で教えてください、出来れば本名も」

「後は」


 なんとか私に断られようと絞り出しているように思えたので、コウさんの両頬を押さえる。


「コウさん、私にはもう一つ付いていきたい理由があるんです、だから後ろめたいと思わないでください」

「理由?」

「はい、私は魔法の勉強もしたいです。また昨日みたいなことがあったとき、無力なままでいたくない。今回助けてもらったように、離れたとしても出来ることを探せたらと思っています。それでも一緒に連れていってくれますか? こんな利用するような理由ですが」


 回された手に力がこもる。暖かくて優しい体温、私はこの温もりと、コウさんと離れたくない。でもこんなこと聴かされたコウさんはどうだろうか?


「構わない、むしろ協力する。だから俺と一緒に西の国へ来てほしい」

「はい。喜んで」


 手を頬から外して首に回す。コウさんの顔が近くなり鼻と鼻が触れた、そのまま、目を閉じて――


 バタン


「あ、ごめん邪魔した」


 小姉ちゃんドアを開けてそう言った。またバタンと、音を立ててドアが閉められる。


 プライバシー? 本の中で物語に登場するお話である。


「うあぁぁぁ誤解! いや、誤解もおかしい……いやでもごかぃぃぃ!!」


 慌てて離れるが後の祭りである。


「あーマリカのお父さんに殺されそう。結婚前は手を出すなって言われてたんだよな……いやこれは未遂だけど」

「いつの間にそんな話をしていたんですか!?」


 本人が答える前にそんな話しをしていると言うことは、家族にも駄々漏れだったわけで、いや隠してたつもりもなかったけど……今のもきっとバレる。


「あああ、色々恥ずかしすぎる!!」


 それなりに人がいた集会場に私の悲鳴が鳴り響く。部屋から出た時点で、冷やかされることは確定していた。


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