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草原の民1

 

 気を失ったマリカをコウさんが連れてきて、ラハラを捕らえたことを聴いた。私は長である母の元へ足を運ぶ。


 そこでは集落の重役達が集まってラハラへの対処を相談しているはずだ。


「お前は、自分が何をしたか分かっていんのか!?」


 広場に近付いて聞こえてきたのは、ラハラの父親の声だ。

 近くの物陰に隠れて様子を伺っていると父と目が合った。軽く縦に首を降っていたので、お目こぼしいただいたものと勝手に理解した。


 相変わらず人の気配には敏感な父である。元職は多分一般人では無かっただろう。

 ……草原では気にしないテーブルマナーとかやたらと厳しかったし。今回も普通に無傷でケロっとしていたし。


「俺は何もしてねぇよ! 魔物が勝手にやったんだ」


 広場の真ん中に座らされたラハラを、その父親が殴った。

 通用するかよ、そんな言い訳。


 全く反省してないその姿に殺意が沸く。こんなやつにマリカが良い様に操られていた。いや、マリカだけじゃない、操られていたのは私もだ。




 可愛い二つ下の妹。マリカの事は両親や姉達を取られた気がして、物心ついたころは嫌いだった。


 忙しい時期には小さな子どもはまとめて一つの家で面倒を見てもらう。コレはどこの家でもそうだったが当然のように二人セットで預けられ当時の私は不服だった。後ろをよちよち付いてきても、少しだけ話せる様になっても、姉達が可愛がるたびに私はマリカを嫌いになっていた。


 幼いマリカを転ばせたり、つねったりして泣かせ、それが見付かって両親や姉達に怒られて、腹が立ってさらにいじめ叱られる。


 そんな日々を過ごしていた頃だった。


「別に嫌いなままでいいさ、そんな思いをさせている私らが悪いんだから。でも手は出すんじゃない。マリカはまだ仕返し出来ないから、変わりに私達があんたを叱るんだよ」


 母にそう諭された。


「嫌いでいいの?」

「ああ、その代わりマリカがあんたを嫌いになっても文句は聴かないからね」


 別に嫌われてもいい。そう思って過ごしていたのに、それでもマリカは引っ付いてきた。走って振り切ろうとしても泣きながら付いて来られたし、無視してもにこにこしながら付いてくる。


 ついにイライラが爆発してマリカに当たった。


「来るな! マリカなんか嫌いだ!」

「マリカはちいねえちゃんすきだもん!!」


 即答だった。いや、何で?


「嫌いだって言っているだろ!」

「ずぎだもん」


 何度も嫌いだと好きだの押収を繰り返し、泣きながら引っ付かれて困り果て、家に帰っても離れず、ご飯の時もお風呂の時も寝る時まで離れなかった。さらに寝て起きてもくっ付いていた。


「もう、マリカ、そろそろ離してあげなさい」

「やだ! マリカちいねえちゃんすきだもん」


 長姉ちゃんに諭されても離さなかった。


「嘘も方便って言葉知っている?」


 見かねてそう言ってきたのは次姉ちゃんだった。つまり好きだといえばこの地獄は終るらしい。


「マリカ」


 好きだと言えば終る、好きだと言えば……


「お前なんか大っ嫌いだバーカ」

「バカはお前だ」


 言い切ったら次姉ちゃんに頭を叩かれた。


 マリカはギャンギャン泣くし、長姉ちゃんに助けを求めたが、泣かせた奴が責任取りなと言われ、途方に暮れた。


 それから三日張り付かれた。根性座り過ぎて怖い。


「そんなに嫌いじゃない」


 根負けしてそう言えば不服だったようで結局、好きだと言わされた。


「マリカもちいねえちゃんがすき!」


 言いながらにこにこ笑って抱きついてきた妹を、その時初めて可愛いと思った。


「なんでそんなに私の事好きなの?」

「んー? ちいねえちゃんいないとさみしいから」


 ……妹はうさぎかなんかか? 寂しいと死んじゃうやつなのか? 取り敢えずうさぎだと思って撫でてみた。


 アレは美味しいのだ、見てしまうと可愛いから食べられなくなるのが難点だが。

 そんな事を考えながら撫でていると、にへっと笑って頭を擦り付けてきた。このうさぎみたいなのが私の妹。


 悪くないとその日から思った。


 思っていたのに、そんな日々が変わってしまったのはいつからだっただろう?


 最初は本が読みたいと、私に付いてこなくなった。多少強引に遊びに誘ったら足手まといになるからと断るようになった。


 誘っても来ないマリカを、回りの女の子達はマリカを避けるようになっていた。


「あのね、マリカちゃん男の子とは話すんだよ」


 そう教えられてこっそりとマリカの後を付けた、家の手伝いをして、本を読んで、馬に乗り始めた次姉ちゃん達を見に行ったりと、うろうろしていたりするとアイツに声をかけられていた。


「お前は嫌われているから一人ボッチなんだよ」

「ちがうもん」

「じゃあ何で今一人なんだ?」

「一人じゃないもん」

「そうだな俺は嫌わないで居てやる」

「……ありがとう」


 そんな会話だった気がする、でもそれだけで妹がヤバイのに絡まれているのが分かった。


 マリカが立ち去ったときを見計らってラハラを捕まえ、妹に変なこと吹き込むなと説教をしようとするが。


「アイツは俺と、散々嫌いだって言ってた姉の言うこと、どっちを聴くんだ? 試してみるか?」

「あんたなわけ……」


 無い、とは言いきれなかった。だって最近避けられている。考えてみたら最近マリカは私に付いてこなくなった。


 その時になって、散々嫌っていた頃のツケを払わされた気がした。


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