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『もーこうなったら全力でお付き合い致しますよ、って言うか早く合流してくれたほうが安全ですね』
お手を拝借、と続けられたので両手を前に出す。
『光よ、道を照らし彼の者まで導け』
次々と水滴が落ちて波紋を作るように、足元からその先、歩きやすいところが道のように光る。
『これを辿ればコウさんの元に着きますよ、もしかすればあっちから来るかも知れません。ただ、敵にも辿られる危険性があるので気を付けてください』
(綺麗な魔法ですね、光ですか?)
今回はハッキリと詠唱が聞こえたので聞いてみたくなった。
『はい。夜間行動することが多かったもので。あと、洞窟とか便利ですね』
ガスに引火しない灯りは使い勝手が良いんですよ、と続けていた。うん? 聞いてないけど察するに、貴族とかお嬢様とかじゃないのかな? なんで夜間に行動したり洞窟に入ったりしているんだろう?
『エヘ?』
……深く突っ込まないことにしておこう。人間知らないほうが幸せなことも有ると学んでいる。
『あ、お父様がお母様達と合流なさったそうです、皆さん無事だそうですよ!』
良かった、父さんが付いて居れば安心だ。
『しかしおかしいですね、魔物と遭遇しません。思わず軽口叩ける位には会いませんよね?』
(そうですね、避けられているのでしょうか?)
『首謀者がそう指示している可能性は有りますね。首謀者の動機に心当たりがあるみたいですが、お聞きしても?』
(構いません、えーっと)
要点をかいつまんで説明した後に、コウさんに勝負で負けたから逆恨みしている可能性を伝えた。
『おおう。変なのに執着されてお互い大変ですね』
……お互いと言うことは変なのに執着されて困っているのだろうか?
『まあ、それに好かれて喜んでいる私も、変なの、なので。こちらはお互い様ですが』
さらっと惚気られた。少し緊張感が足りないんじゃないかと思う。
『それはお互い様ですし、今更取って付けた感が強い気がしますが?』
いや、私は軽口叩いている間にも警戒は緩めていない。ほら、こうやってこちらに向かって全速力で走ってくる音も捕らえて、うん?
「何か来ます!」
光の道の先、人影が見えた。
物凄い勢いでこちらに向かってくる。身構えて、両手をそちらに向けて、気が付いた。
「コウさん!?」
「マリカ!?」
元気そうで安心したのも束の間、コウさんの後ろから大量の魔物が付いてきているのも見えた。
「風よ、うねりを上げて切り裂け」
つむじ風が魔物の群れを襲うが、結構な数に逃げられてしまう。
『学習されています! ちょっとバリエーションを変えてください!』
(いきなり言われても無理です!!)
慌てている間にコウさんが手の届く範囲まで来ていた。
「マリカ、借りる!!」
何を? と言う前に手を捕まれ、魔力を持っていかれた。
「炎よ、風と共に敵を焼け!」
私の魔法に合わさる様に炎が渦を巻き、討ち逃した魔物を巻き込み仕留めていく。
「こんな事も出来るんだ」
『合わせ技ですねぇ、流石。辺りは一掃出来ていますか?』
言われて辺りを見渡す。魔物の影は見当たらない、大丈夫みたいだ。
「マリカ、なんで、魔法もだけど、ここに?」
二人して感心しているとコウさんが相当焦った様に聞いてきた。
「えっと」
あまりの剣幕に言いよどんでいると、助け船が出される。
『先に腕輪を渡してください、その方が早いかと』
それだ! とごそごそと取り出して渡そうとした瞬間だった。トンとコウさんに押され尻餅を付く。
「わっ!」
「クソっ!」
ぺたんと座り込んでしまったが、それで正解だったみたいだ。元居た場所に魔物が飛び付いてきた。
『投げて』
「コウさん!」
言われたとおり腕輪を投げた。投げてから気が付いた。
両手塞がっている!!
即座に剣を抜いていたコウさんの手に空きはない。
「んぐ!」
しかし見事に口でキャッチして、目の前の魔物に止めを刺していた。
『可能なら先ほどの防』
ぷつりと、会話が切れた。左腕、有るはずのリボンがない。油断した、と思う。一瞬の隙を突かれた。
そうだ、リボンは私自身を守れても、リボン自体が守れるわけではない。
「そこまでだ」
ヒヤリと首筋に冷たい感触がある。ぐるる、と鳴いている声の方に目を向ければ、赤いリボンを咥えた魔物がいた。
「動くなよ。なるべくズタズタにはしたくないんだ」
にやにやと笑いながら言っているのが分かる。この声はラハラの声だ。背後から聞こえる声に、気配に、体温に嫌悪を感じた。
ラハラは魔物からリボンを受け取り、私の腕を乱暴に引って立たせる。その際短剣の切っ先がわずかに皮膚に食い込み、チクッと痛みが走った。
「おおっと、お前は間抜けにそれを咥えていな、どうやら言葉を出さなければ魔法は使えないみたいだし、腕に付けなきゃ魔法は使えないんだろ?」
後ろ向きに足を進め、距離を取りながらラハラが、コウさんに対してそう言う。
良かった勘違いしている。コウさんと目が合えば、ゆっくりと瞬きをした。今は従え、と言うことだろうか?
「妙な動きはするなよ、まずは剣を置け」
コウさんは言われたとおりに、ゆっくりと剣を置いた。緩慢な動きだ、刺激しないためだろうけどもしかして、そんな思考を遮ったのは
【ゴしゅジンさマ、コれ、たぁべテいイ?】
コウさんの足元にいる魔物の方から聞こえてきた声。
魔物が、話しをしていた。




