∫ 9-5.反撃のカウントダウン dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
レイは芝生を走り、フェンスをよじ登ろうとした。
ミライはレイを追って、フェンスのところでレイを止めた。
「ダメ!行ったら撃たれるよ!!」
「でも今行かないと!みんなを助けられない!!」
歩兵輸送機からアンドロイドが5体降り立った。
レイとミライはその姿を見て、絶望感を感じた。
「逃げないと!はやく!」
ミライはぐいっとレイの腕を引っ張った。
レイとミライは再び木々の方に走った。
レイとミライには芝生が敷かれている平坦な5メートルがとても長く感じた。
アンドロイドは逃げる2人を追った。
アンドロイドのバイザーには2人の名前がターゲットとして表示された。
アンドロイドは何の躊躇もなく、射撃を開始した。
まだ2人を照準の中央に捉えられていなかったため、威嚇でしかなかったが、2人に恐怖を与えるには十分であった。
2人は身をすくめながら走った。
徐々に射撃の位置がレイ達に迫ってくる。
2人がようやく平坦な芝生を終え、坂道に入った。
そのため、アンドロイドは直線で2人をとらえることができなくなった。
アンドロイドの射撃が一時止んだが、すぐにアンドロイドは別の行動に移った。
フェンスの上部の鉄柱が斜めに折り返しているところを狙って射撃した。
弾丸は斜めの部分に跳ね返り、跳弾となって、2人を襲った。
フェンス斜めの部分が撃たれることによって変形したが、弾丸2発は綺麗に2人の方に飛んできた。
1発はレイの顔の真横をかすめた。耳が少し切れた。
そして、他の1発はミライの腕を捉えた。
「きゃあーーー!!」
ミライが倒れこんだ。
レイは慌ててミライを起き上がらせて木に隠れた。
「大丈夫?どこか怪我した?」
ミライが押さえる腕から血が出ていた。
「このくらい、大丈夫よ。」
そう強がるミライの額から汗が滲み、痛みが表情に出ていた。
レイにもなぜか腕に痛みが走っていた。
その時、下の方で大きな爆発が見えた。
そして爆音が木々を揺らした。
レイもミライも絶望の表情で下の爆発した方向を見た。
2人とも小林と浜辺の名前を叫びそうになったが、位置を悟られないように圧し殺した。
レイとミライは小林と浜辺の身に何か起きたのではないかと思った。
が、次の瞬間、レイとミライにはまだ小林と浜辺が生きていることがなぜか分かった。
「まだ無事だ。」
「あたしもそれ、感じる。」
2人は、以前から何度も体験しているその感覚を、不思議だと感じなくなってきている自分達がいることに気がついた。
レイのBCDの表示が(あと30秒)を切ったことを知らせた。
レイは決断した。
「やばい。何とかしないと。」
レイはBCDのウインドウに一つの実行ファイルを表示させた。
ファイル名はレイが名前を変えていた。
(gfr_virus.exe)
グレイのウイルス、レイ達の宇宙に『時空の暴走』を発生させ、実世界にも大災害を引き起こしたウイルスだった。
金形は茂みに身を隠していた。
金形は拾った部品の中にあった起動ボタン付きの部品を手に持っていた。
ボタンは赤色だったが、金形は自分の上着の中に隠し持っていた。
アンドロイド隊は赤色の波長解析をしていたため、茶色系の服を着ていた金形は見つけにくかった。
アンドロイド隊が通りすぎようとした時、金形はその起動ボタンを押した。
大きな爆発音が森の中に木霊した。そして、爆風が木々を揺らした。
その爆発と共に何かキラキラしたものが宙を舞った。
グレイの見ていた画面が一瞬で荒れた画像になり、すぐに画像が停止してしまった。
「何だ?これは。。。何がどうなっている!?」
金形は爆発と同時に飛び出し、アンドロイド隊の手に持たれていた銃を奪い取った。
そして、何発かアンドロイドに撃ち込んだ。
アンドロイド達は金形が爆発させたチャフグレネードのせいで動けなくなっていた。
撃ち込まれたアンドロイドは右半身が破壊され、部品が飛び散った。
金形は周囲を見回しながら、できるだけアンドロイドの持つ武器を狙って銃撃した。
アンドロイドが手に持つ全ての武器がものの数秒で破壊された。
だが、チャフグレネードの効果は長続きしなかった。
アンドロイドは僅かずつ機能を回復させていった。
グレイの画面に画像が再び映し出され始めた。
画面には破壊されたアンドロイドが映っていた。
グレイが叫ぶ。
「攻撃されたのか?反撃しろ!反撃するんだ!」
まもなくアンドロイド隊の機能が回復した。
金形はアンドロイド隊のちょうど中間位置に立っていたため、金形の後ろに立っていたアンドロイドによって、体当たりをくらってしまった。
金形は体当たりの勢いで茂みに吹き飛ばされ、木に衝突した。
そして、その衝撃で気を失った。
「あっ!!」
声のした方に1体のアンドロイドが振り向いた。
様子を木の影から顔を出して見ていた浜辺にアンドロイドが気づいた。
そして、アンドロイドは、その木の方に血痕が続いていることも発見した。
アンドロイド2体がボディの内部から小型銃を取り出し、小林と浜辺の方に向かって発砲した。
二人は木の後ろに隠れていたが、二人の周囲を弾丸の射線が何本も何本も走る。
そして、アンドロイドが徐々に近づいてきていた。
レイとミライの隠れる木の向こう側から銃弾の射線が繰り返し走っていた。
レイは実行を押そうとした。
ミライが心配そうな顔でレイを見ていた。
(これを実行すれば、あのアンドロイド達は止まる。そして、きっとあの世界の時間も止められる!)
16箇所の時間パラメータがピッタリ一致することは確率からして通常あり得ない。
だから時間は止められる。
波多野を助けることができる。
レイはそう思った。
だが、レイの目の前にある光景がフラッシュバックした。
先ほどの大惨事の光景。
そして、最後に父親と母親が亡くなった日。
あの日のミライの悲しそうな表情。
これを実行すると、それと同じ想いをする人をまた増やしてしまう。
自分がどんなにつらい想いをしたか、それを他の人に与えて良いのか。
そう思うと実行のボタンがとても重かった。
レイのBCDに表示されているカウントダウンが(あと10秒)を切った。
<次回予告>
アンドロイドにすぐそこまで追い詰められてしまった柊レイ。
自分達を守るためにはあのプログラムをもう一度起動するほかない。
だが、それは自分達の世界、そして自分達の作った世界をも破壊してしまう。
その責任が柊レイに重くのしかかる。
そして、白く光る世界。
柊レイが最後に見たものとは。
物語最終話サブタイトル「ガロワのソラの下で」。
最後までサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
もし皆さんが柊レイや夏目ミライの状況になったなら、ボタンを押しますか?
大勢の人が犠牲になってしまう。少なくとも死者1000万人程度、被害者1億人以上は犠牲になる。
ただ、自分は生き残る。
私はたぶん押しちゃうと思います。1000万人がタヒぬなんて、そんな想像がつかないので、押しちゃうんでしょう。
ただ、柊レイは天才がゆえに見たものをほぼ全て記憶しています。
宇宙で起こった悲劇も、自分の世界で起こった悲劇も、自ら経験した悲しみも。
精神が成熟したがゆえに自分を攻撃した人たちの悲しみも理解できてしまいます。想像できてしまいます。
その上で押すのか、押さないのか?どのように行動するのでしょうか。
次回、物語最終話「ガロワのソラの下で」。乞うご期待!!




