∫ 9-4.差し迫る危機 dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
4人は少しずつだが、斜面を登っていた。
レイが小林に肩を貸し、小林を引っ張るように上がっていたが、小林が地面に手を付いて、止まってしまった。
横にいた浜辺はずっと小林の右腰に手を当てていたが、小林の力が抜け、小林の重みが伝わってきた。
「小林さん、大丈夫ですか?」
浜辺が心配そうに小林を見る。
「ああ、みんな。もう先に行ってもらってもいいよ。僕はちょっともう無理そうだ。」
浜辺が泣きそうな顔で言う。
「何言ってるんですか。私がおぶってでも連れていきます。」
「いえ。浜辺さん。ぼくが背負いますよ。」
「はは。いけるかな?僕、結構重いですよ。無理しなくていいんですよ。」
金形は毛利に状況の説明を行っていた。
しばらく話している間に金形が送ったプログラムに関するAIの判断が下された。
(証拠不十分のため、棄却)
結果を見た毛利がそれを金形に伝える。
「あのプログラム、グレイのものじゃないってAIの判断だ。
結局AIも倫理観を植え付ける教師には逆らえれんのだとよ。」
「くそっ!彼らに何て言えばいいんです!?世界を救ったのは彼らなのに。」
そこに6体のアバターアンドロイドが走ってきた。
アバター隊のバイザーに金形の認証番号が表示された。
「金形警部補、何をしているんです?アバターでないと危険です。やつらは武装してるんですか?」
金形はウイルスプログラムの真相を説明した。
「だから、彼らがあの事件を起こしたわけじゃない。」
もちろんアバター隊のバイザーにも金形が真実を述べていることが表示されていた。
だが、かれらのバイザーにAIの決定が表示される。
(ウイルスプログラムの作成者がグレイ・F・ロズウェルであるかについての審議:棄却)
そして、次に新たな指示が表示された。
(警視庁捜査二課、金形警部補の拘束(生死問わず))
アバターは銃を金形に向けて、構えた。
「おい?お前たち何を!?」
「あなたを拘束します。反抗しないでください。生死問わずと出ている。
銃を捨て、手を頭の後ろに。」
金形は言われるまま、銃を捨て、手を頭に後ろに回した。
金形は無抵抗であることを示しながら話した。
「おれの話が真実だってことは分かってるだろ?なぜ?」
「それは署で再び伺うことになります。まずはAIの決定通りに拘束させてもらいます。すみませんが。」
ゆっくりアバター隊が金形に近づいていく。
その時、上空からジェット音が近づいてきた。
どんどん近づいてきて、ものの数秒でジェット音は爆音となった。
アバター隊が上空を見上げる。
上空には4つのジェット噴射が見えたが、機体は見えてなかった。
次の瞬間、突然、空間から2機の歩兵輸送機が、光学迷彩を解除し、姿を現した。
歩兵輸送機は5メートルほど上空でホバー状態となり、そこから各5体ずつのアンドロイド隊が地上に降り立った。
その後、歩兵輸送機は再び姿を消し、ジェットの噴射だけが遠ざかっていった。
アバター隊は金形から目を離し、降りたったアンドロイド隊の方に向いた。
「あなたたちは何者ですか?ここは我々の管轄で。。。」
そう言った瞬間。アンドロイド10体がさっと銃を構え、射撃を開始した。
アンドロイドそれぞれが分担し、ターゲットが重ならないように通信で調整されていた。
銃弾は的確にアバター隊のカメラが搭載されている頭を破壊した。
爆発により破片が辺りに散らばった。
アバター隊は全員視覚を失った。
「たかがメインカメラをやられただけだ!」
アバターの操縦者は、それまでの画像から相手の予測位置を計算し、反撃を開始した。
アンドロイド隊が感電弾を使用しなかったのは、アンドロイドの表面に施された避雷針用でもある高抵抗素子が付いているからであった。
弾丸に充電できるほどの容量では感電によるアンドロイド機能停止には持っていけないようになっていた。
一般アンドロイドは活動停止信号によって、機能停止が可能であるが、最近ではそれも防御するハード回路、もしくはソフトが組み込まれているケースが多く、信号による停止方法も無効化される場合が多いのである。
金形はアバター隊が目を離した隙に、咄嗟に回避動作を始めていた。
AIが下していたあのプログラムに関する判断を見た時からこうなることを薄々感じていた。
金形を狙った銃弾は金形がアバターの後ろに入ったため、アバターに当たり、金形は傷を負うに至らなかった。
アバター隊の2体が近くにあった小林の車を腕を持ち上げ、車を他のアバター隊の前に放り投げた。
放り投げた際に、放り投げたアバター2体はアンドロイド隊に危険度が高いと認識され、集中砲火を浴びた。
集中砲火されたアバター2体は軒並み脇下や腰部分を狙われていた。
そこにはアンテナ素子が付いており、それが破壊されたため、そのアバターは電源は入っているものの動作が停止してしまった。
アバター隊は視覚こそ失ったものの仮想3D空間でどのような形の物がどこにあり、相手がどこにいるのか計算していた。
その計算のために、それぞれのアバターの両肩の前面、後面に付いている聴覚デバイス、身体の周囲に付いている対物センサなどを使用していた。
それらの測定データをお互いリンクさせて計算し、仮想3D空間に概ねの相手の位置などを把握、表示していた。
集中砲火されたアバター以外のアバターは集中砲火時に相手の位置をより正確に把握し、投げられた小林の車や金形の車の後ろに移動しながら、相手の位置に射撃を行った。
もちろんアンドロイド隊もそうなることを予測しており、忍者のような、ダブステップダンス(マイケル・ジャクソンのような奇妙な重心移動を行うダンス)のような、動きで流れるように移動しながら攻撃を行った。
アンドロイド隊も1体が頭と片腕を負傷し、もう1体は腰に被弾した。
金形は運良く、アバター隊の投げた小林の車によって死角に入った。
その死角を利用して山の方に逃げた。
逃げる際に飛び散った部品をさっと拾い上げた。
アバター隊の残り4体のうち一体が車の死角からわずかな時間だけ姿を現し、反撃を試みた。
その攻撃により、さらにアンドロイド隊の数体が、一部のみであったが、損傷を受けた。が、そのアバターは逆に死角から出たところをアンドロイド隊に撃たれ、腕、肩などに被弾した。
アンドロイド隊は特殊なステップによって音を出さず動くため、隠れる場所はなかったが、アバター隊はアンドロイド隊の位置を掴むことが困難であった。
しばらくの間、膠着状態が続いたが、アンドロイド隊の1体が突然動きを止めた。そして、中腰になり、どっしりと身を低くして構えた。
次の瞬間、両足の前後に小さい鍬のような形の楔が打たれ、それと同時に肘の部分がカポッと折れ曲がった。
肘の中にはロケットが格納されており、間髪入れずロケットが発射された。
ロケットを発射したアンドロイドは反動で後ろに数十センチメートルほど下がった。
アバター隊はその楔を打つ音、肘が曲がる音によって、大きな攻撃が飛んでくることを予測し、非常回避動作に入った。それはすなわち車の影からの脱出であった。
アバター隊は避けながらもロケットを撃ったアンドロイドに集中砲火を浴びせ、頭とアンテナを破壊した。
だが、ロケットはすでに発射された後であった。
ロケットは小林の車に当たり、大爆発を起こした。
煙から破片が飛び散っているのがアンドロイドによって認識された。
さらにアバター隊も車の影から飛び出した。
爆発の煙を巻き込んで飛び出てくる大きな破片をアンドロイドは撃ち抜いていた。
飛び出す物体の中には部品ではなく、アバターもいた。
アンドロイド隊はそのアバターにも的確に射撃を加えた。
アバターは煙を巻き込んで飛び出したため、対物センサがうまく働かず、アンドロイド隊よりも敵認識スピードが若干遅れた。
対アンドロイド戦ではこれが致命的な差となって現れた。
アバター隊は全て撃ち抜かれ、着地時の姿勢もままならないため、その後も撃ち抜かれ、アバター隊は全機が活動停止となった。
アンドロイド隊はアバター隊が全て活動を止めていることを素早く確認し、次の行動に移った。
アンドロイド隊はガードレールを軽く飛び越して、山道を駆け上がり始めた。
レイは小林を背負って道なき山道を登っていた。
ミライはそれをカバーするように後ろからレイを押し、浜辺は後ろから小林を支えていた。
その時、先ほど車を降りた辺りで銃撃の音がした。爆発音や激しい銃撃が続いた。
4人は後ろを振り返った。レイが言う。
「もうアバター隊がそこまで来てるのか。。。」
レイたちは危機が迫っていることを察知し、すぐに再び山道を登り始めた。
少し前進した後、今までのものとは比べものにならないほどの大きな音で爆発するのが聞こえた。
その時、小林は悟った。
このままではみんなやられてしまう。
小林はレイに掴まっていた左手をレイから離し、レイの背中を押して、降りようとした。
「小林さん、そんなことしたら落ちますよ。」
「いいんです!もうここで降ろしてください。」
「でも。。。」
小林は無理矢理レイの背中から降りて、木の根元にヘタっと座りこんだ。
「僕はここに残る。今のままだと君達まで。。。」
小林は目に微かな涙を浮かべ、息を詰まらせながら言った。
レイとミライは小林の前に腰を屈めた。
浜辺は小林の横に座り、小林の右腰を押さえた。
「君は生きるんだ!変電所まで行って、あの世界の友人を助けて、生き延びて、この世界を変えるんだ。
柊先生が、あなたがなぜあの世界を創ったのか、この世界の意味をみんなに伝えてほしい。
こんな馬鹿げた争いをもう終わらせてください。」
小林の横に浜辺が座った。そしてレイに向かって言った。
「私もここに残ります。」
浜辺は掌を自分に向け、BCDのウインドウでなにかを行った。
レイのBCDモニタに浜辺からのメッセージが入った。
「今、柊先生に私の技術、全てを残している部屋、そのアドレスを送りました。
その技術を使ってください。世界をもっと良いものにするために。
あなた方にならそれを託せます。」
浜辺はミライを見て言った。
「すみません。柊先生とのドライブ、支援できそうにないですね。」
ミライはすぐ言葉を返す。
「何言ってんのよ?もうすぐじゃない、変電所。」
浜辺が少し笑って返す。
「ミライさんらしくないですよ。
追い付かれるの、おおよその確率、出ますよね?」
レイは決意した。
「すぐに、すぐに戻ります。
変電所にある端末でここに来ているアンドロイド、全てを止めて、また戻ってきます。
それまで何とか耐えてください。」
レイはすぐに立ち上がった。
ミライはまだ諦められずにそこにいた。
レイはミライの手を取り、叫んだ。
「行くんだよ!はやく!!」
レイは50メートルほど前方に木々の隙間から見える白い建物に向かって、ミライと一緒に駆け上がっていった。
レイのBCDにタイマーの表示が現れた。
それは向こうの世界で爆発が起きるまでのおおよその時間だった。
(残り3分)
アンドロイド隊は素早く駆け上がるが、木々が邪魔で直線道路ほどスムーズに駆け上がれなかった。
グレイはアンドロイドの視野をディスプレイに映して見ていた。
インカムを付けて指示をしていた。
「やはりうちの軍隊は自由に使えて快適だ。どこぞの警察と違ってな。」
先ほどのアンドロイドにロケットを撃たせたのはグレイだった。
それを行えば、そのアンドロイドは自分の居場所を知らせることになる。
破壊される確率が飛躍的に上昇する。
アンドロイド単体では自分自身を守る回路があるために判断できない内容であったが、回りのアンドロイドを助けるためとの動機付けで行動を取らせたのだった。
駆け上がるアンドロイドの視線に何か赤いものが映った。
「ちょっと待て。少し戻りながら地面を見せろ。」
画面に映し出されたものは血痕だった。
アンドロイドは血の付いた葉っぱを取り上げ、その葉っぱごと、口の中に放り込んだ。
グレイの確認している画面に結果が表示される。
(照合結果:小林秋雄)
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。さっきの肩を借りていたヤツだな!?血痕を追いかけろ!!」
グレイの指示に合わせて、アンドロイドのバイザーに(波長分割フィルター:赤)が加えられた。
アンドロイドが前を向くと地面に落ちている赤色だけが綺麗に浮き上がって見えるようになった。
そして、アンドロイドたちが再び動き始めた。
金形は4人を追いかけるようにして山道を上がっていた。
太い木を通りすぎたところで、その木の根元で隠れている小林と浜辺を見つけた。
「お前たちこんなところで。。。早く移動しないと追い付かれるぞ。」
「金形さん。。。」
小林は額に汗を滲ませていた。
「もう僕は動けそうにないんです。それで柊先生たちだけでもと先に行ってもらいました。」
「もうあんまりしゃべらないでください。」
金形は小林の心配をしている浜辺を見た。
そして、山の上を見て、少し先に小さく見える二人を確認した。
下からはチラッとだが、アンドロイド隊が見え始めていた。
下にいるアンドロイド隊の方を睨み、金形は手に持っていた部品を見た。
「人間をなめるなよ。」
金形は小林と浜辺のいるところから少し下り、茂みの何ヵ所かに先ほど拾い上げた部品を置いて、自分も茂みに隠れた。
レイとミライは息を切らしながら山道を登っていた。
BCDの表示が(あと1分30秒)を切った。
レイとミライは木々の中からようやく抜け出した。
5メートルほど平坦な芝生が続き、その先にフェンスが、そしてさらにその先には変電所があった。
「着いた!」
だが、2人の前方に見える変電所の影からジェットの噴射口が見えた。
噴出口もジェット音もどんどん近づいてくる。
そして、光学迷彩が解除され、その噴射口から歩兵輸送機の姿が現れた。
「そんな。。。」
<次回予告>
アンドロイドに追われる4人。
4人を守ろうと、山の下から来るアンドロイドに対して
金形がある行動に出る。
だが、上を目指す柊レイ、夏目ミライには新たにアンドロイドが
現れ、追い詰められていく。
その時、柊レイはある反撃手段を思い付くのだった。
次話サブタイトル「反撃のカウントダウン」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
とうとう変電所の手前まで来た柊レイと夏目ミライ。ですが、そこにはすでに追手が。
主人公たちはどうなってしまうのでしょうか。
次回、「反撃のカウントダウン」。乞うご期待!!




