∫ 6-8.SETI+フェルミのパラドックス=罪悪感 dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
次の日、また四人は集まって、この星の行方を見ていた。
星を見る前にレイはミライの身体を気遣っていた。
ミライは大丈夫だと言って、照れながら言った。
「ありがと。」
レイはその言葉がなんだか嬉しかった。
時間の設定をゆっくりにしていたため、戦争が終わってすぐの状態から、四人は再び観察を続けた。
そして、少し世界の時間の流れを速めた。
両同盟国のほとんどが壊滅状態だった。
だが、そこからあっという間に街は復興し、あっという間に人類はロケットで衛星を打ち上げるまでになった。
レイたちの世界の時間では瞬く間であったが、実際には人々が大変な痛みを伴いながら進んできたのだということは容易に想像できた。
そして、再び時間を自分達の世界と同じ速度にして、ViewerやVRモードでそれぞれが思い思いの場所を観察した。
レイはある山奥に巨大なパラボラアンテナを発見した。
そのアンテナの横には三階建ての建物があった。
その建物の横の駐車場に一台の車が停まっていた。
その車のボンネットの上に一人の人間が座っていて、何かヘッドホンのようなもので音を聞いているようであった。
その人は誰かと話をしているようで、話をしてはアンテナが角度を変え、しばらく音を聞き、また、話をしてはアンテナが角度を変え、音を聞き、その連続で、十回ほど繰り返した後、その人は建物に入っていった。
レイは気になって、VRで世界に入り込み、何か音を聞いていた人と同じように建物に入っていった。
壁には星図が貼ってあり、その多くにピンが立てられていた。
同僚と思われる三人の人と会話をして、壁の星図の方に梯子を立てて登り、いくつかの星にピンを立て、その横に何かを書き込んでいた。
(観察が終わったってことか?)
レイは四人の会話を聞いてみたが、全く言語が違うため、それらを理解することができなかった。
レイは部屋を見回した。
壁に、ます目とそのます目の中に文字が書かれている紙が貼ってあった。
そして、先ほどピンが立てられた星図の星の横にも同じ文字が書かれていた。
レイはそれらを見て、ふと気がついた。
ます目に文字が書かれているもの、これはカレンダーではないかと、そこの文字と星の横に書かれている文字が同じであったことを考えるとこれは数字なのだということにも気がついた。
さらに彼らが会話時に行っていたジェスチャーで気が付いた。
彼らは指が片手に六本あり、使っている手から四人全てが左利きであった。
再びカレンダーを見た。
レイの思った通り、文字は右上から左に流れ、一段下に行き、十二個目で数字が一つ増えていた。
つまりこの文字が数字の1〜11であり、彼らは指の本数から十二進法を採用しているのだと。
そして、テーブルの上の資料を見ると、その資料の中に先ほど見た数字の羅列が見えた。
その数字は二つおきにアポストロフィーのようなマークが入っていた。
途中でそのアポストロフィーは下に移動し、次からは再び上に打たれていた。
つまり、12の2乗である144が彼らの1つの括りであり、我々人類のキロやメガ、ギガに当たるものと推定した。
星の左には数字と思われる文字が並んでおり、さらにその左には全ての星に共通して同じ文字が書かれていた。
レイは1〜11のマークとは異なるそれを単位だと仮定した。
レイの観察は続いた。
良く見ると奥の部屋の壁に数字と思われる文字が表示されている機器が掛かっていた。
一番左端の文字が、ある一定の時間間隔で変化していた。
レイはこれを時計だと考えた。その時間間隔はレイの世界で考えると約1.5秒だった。
それらから、レイは星の左に書かれている内容が何であるかを悟った。
レイはそれまでの情報を元に星の横に書かれている文字を計算してみた。
それぞれがおおよそレイの住んでいる世界で言うところの2.142GHz、674.657MHz、945.321MHz、、、。
どうやら検出した星の周波数を残しているようだった。
(パルサーやクエイサーの研究か?)
だが、いろんな方角、いろんな場所の星を観察していることからレイはこの人たちが探しているものに気が付いた。
それと同時に強い罪悪感を抱いた。
レイはこの建物から出て、指で四角を作り、BCDのウインドウを立ち上げ、浜辺に連絡した。
(今からぼくが接近する人のプログラムを吸い上げて欲しいんです。お願いします。)
浜辺はメッセージを見て、Viewerをログアウトした。
そして、レイが近づく人を特定し、プログラムを確認した。
プログラムを吸い上げた後、レイに声をかけた。
「もう大丈夫ですよ。データ取れました。」
レイはその声を聞き、VRをログアウトした。
「すぐ見れますか?」
「はい。じゃあ、柊先生のブレコンに送りますね。」
レイは送られてきたプログラムを見ていた。
それは無数の細かい関数で構成されており、あまりに複雑で、すぐに解析できるものではなかった。
レイがプログラムを見ている間にミライもViewerからログアウトしてきた。
そして、最後に小林もVRからログアウトしてきた。
ミライも小林もレイがViewerに入っているでもなく、何かをじっと見ているのに気が付き、レイが何を見ているのか気になった。
「どうしたの?」
話しかけたミライを一瞬見て、再びプログラムに目をやりながら答えた。
「さっき、ログインした時にSETIをやっている人を見つけたんだ。
今、その人のプログラムを見ているところ。
なんだけど、すごくものすっごく複雑で、そう簡単には解析できそうにないね。」
「柊先生でも難しいんです?」
「ええ。かなりです。これは解析プログラムを作らないとダメかもしれません。」
「ところで、SETIってあれでしょ?えーと、Search for Extra Terrestrial Intelligence。
地球外知的生命体探索だよね?でも、それって。。。」
ミライが言葉を濁した。が、浜辺がそこに直球を投げ込んだ。
「あれ?この星の外の生命探査って言っても、詳細計算ってこの恒星系だけしかやってないですよね。」
レイが少し下を見つつ答えた。
「そうなんです。だから、この人たちは絶対に見つけることができない。。。」
しばらく沈黙が続いたが、レイが一つの提案をした。
「そこでなんですが、この処理を全世界に拡げたいんです。
そうすれば、この銀河全体くらいは計算できるのではないかと思うんです。
どうでしょうか。」
即座にミライが賛成した。
「あたしは全然良いと思うけど。」
「私も賛成です。さすがにちょっと可哀想ですよね。この人たち。」
浜辺の賛成にミライが付け加えた。
「そう。まさにフェルミのパラドックスじゃない、こんなの。可哀想すぎるよね。」
そこに小林が反対した。
「でも、ですよ。仮にもし何か問題が起きた場合、世界全体だと大変なことになりませんか。
今はまだ日本の首都圏近郊だけだし、もちろんそれでも問題が起きれば大変なことになりますが、まだ世界中よりはましです。
速度を落としてでも、この近傍だけで計算すればよいのでは?」
その意見に浜辺が膨れっ面をした。
「今、まさにこの地域使ってやってますけど、問題なんて起きてないじゃないですか。
それにこの地域だけで計算したらどうなると思います?
今の宇宙の年齢まで計算しようとすると百億年分計算しないといけないんですよ。
今の一万分の一のスピードだと一万年かかります。
そんなもの許容できるわけがないじゃないですか。」
浜辺はどちらかというと時間の問題というよりも小林が自分の技術を信用してないことに憤りを感じていた。
小林はこれを感じ取って、浜辺に言った。
「いや。あの。浜辺さんのことを信用してないわけじゃないんだ。
でも、万が一外乱などで何か起こった場合に…」
「今だってウイルスによる外乱は対応済みです。
一部が食い潰されたところで、このシステムは安定して動くんです。」
二人の言い争いが収まりそうになかったため、レイが仲裁に入った。
「えーと、それぞれ今日はこの議題を持ち帰って、一晩考えてみましょう。
それでも、もし小林さんがNoなら、もしくはこの中の誰か一人でも考えが変わってNoなら止めておきましょう。
ちょっと落ち着いて考えてみて、どう思うか。。。
なので、時間の経過速度はこちらの世界と同じままにしておきましょう。」
二人はレイに返事をした。
「分かりました。」
レイは寄宿舎でプログラムを作っていた。
手を休めた瞬間、先日見た戦争の映像がフラッシュバックして、心が重くなった。
それを振り払うかのようにプログラムを作っていた。
今日見たSETIの調査を行っていた人のプログラムを解析するプログラムを作りながら、そのSETIをしていた人のことをふと思い出した。
自分達と同じように誰かがこの宇宙のどこかにいるはずだという想い。
レイもずっと考えていることだった。
レイは自分のSETIの画面を立ち上げた。
解析が進んでいたが、人工的に作られたデータは発見されていなかった。
今のSETIシステムではレイの父親と同じ場所で信号が検出されないようになっていた。
これは誰かが勝手にデータを解析したり、返答のデータを送ってしまわないようにするためであった。
レイはSETIの解析画面を見ながら、思わずくしゃみをした。
<次回予告>
惑星外生命を探索する知的生命。
それを自分に重ね合わせる柊レイ。
だが、彼らに友人はいないことは明白だった。
知的生命のプログラムを解析するとそこにはあるものが浮かび上がる。
それはまさに自分に重ね合わせることのできる何かだった。
そして、それを見て、柊レイはあることを決意するのだった。
次話サブタイトル「宇宙のカタチ:人のカタチ=重力:孤独」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
今話では、柊レイたちが創った宇宙の中で発生した文明の一部を解読するシーンが登場します。このシーン、私の中では結構お気に入りのシーンです。
柊レイの天才ブリを表現したかったのですが、伝わったでしょうか。(笑)
フェルミのパラドックスですが、どこかで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。「宇宙はこんなに広いのに、きっと宇宙人は結構いるはずなのに、我々の目の前には現れてくれない」という矛盾をフェルミのパラドックスと言います。
本編ではそもそもこの恒星系しか生物が発生しないようにしているため、このパラドックスが起きているわけですが、我々の世界も実はそうだったりして、ということを表現してます。まあ、そんなことはないと信じたいですね。
さて、本編ですが、柊レイは知的生命体の知能プログラムを解析するソフトを作っています。解析の結果、何かが分かるのでしょうか。
次話サブタイトル「宇宙のカタチ:人のカタチ=重力:孤独」。乞うご期待!!




