〜第5章 夢にまで見た実験と美しい数式〜 ∫ 5-1.とっつあんと名探偵 dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
夏休みが終わり、学生たちが学校に戻ってきていた。
浜辺が旧研究棟の入口のところに来た。
周囲をキョロキョロ見て、誰もいないことを確かめてパネルに暗証番号を打って、中に入った。
浜辺は情報端末室に入ってくるところでも少しキョロキョロしていた。
それとは対照的に浜辺の白いTシャツには大きいメガネをかけた少年が青いブレザーと蝶ネクタイを締めて、まっすぐ前を向いていた。
「浜辺さん、お疲れ様。」
レイやミライ、小林が挨拶する。だが、返事がなかった。
小林が周囲を気にする浜辺の様子について問いかけた。
「どうしたの?浜辺さん。」
「あっ、おつです。なんか今日研究室に警視庁捜査二課の金形って人が来たんです。」
そう言いながら、椅子に座り、端末を立ち上げて、大学の警備サーバーに入り込んだ。
そしてカメラの画像を次々に画面に写し出しながら話を続けた。
「その人がこの前小林さんが見せてた記事を出して、これに心当たりがないかって聞いてきたんです。」
レイもミライも浜辺の方に寄ってきた。
「この前の記事って、あのアンドロイドが考え事してるっていうあれ?」
「はい。」
「で、なんて答えたの?」
「分からないって。それにその後も今やってることは何かとかいろいろ聞いてきて。
あれは明らかに私を疑ってましたね。」
浜辺はカメラの画像を送りながら続けた。
「そうそう。捜査二課っていうところ、サイバー犯罪を扱ってるところなんですね。
何か私に聞き込みしてる時に、別件で連絡が入ってきて、出ていっちゃいましたけど。
まあ、その件は解決してあげましたよ。
あんなので、仕事になるとか楽ですね。つまんなそうですけど。」
金形警部補は電子情報工学科のとある研究室に来ていた。
そこの教授を訪ねていた。
教授室の扉をノックすると、教授が出てきた。
「どちらさまでしょうか。」
「お忙しいところ、すみません。
わたくし、警視庁捜査二課の金形というものです。
ちょっと訳ありまして、おたくに浜辺小春という人物がいると思うのですが、その方に一度会わせてもらえないでしょうか。」
金形は警察手帳を表示させた。
教授はそれを見て、不思議そうな顔をして金形に尋ねた。
「あっ、何か事件とかでしょうか。」
金形は教授の数値をモニタリングしていた。
慌てているという数値ではなく、警察が来るようなことに対して、ただ驚いているという数値として表れていた。
脈拍は教授が警察手帳を見た時から少し上昇傾向ではあったが、一般的変化の範囲内であった。
「あ、いえいえ。事件ではありません。ただ少々聞きたいことがありまして。」
「あ、そうですか。彼女なら今、研究室におります。こちらです。」
そう言うと、教授は教授室から出て、さっと扉横に付いている小さいプレートを親指で押した。
壁全体がディスプレイになっており、教授が出た扉の周囲だけ模様が浮き出たかと思うと、ガチャガチャやたら慌ただしく模様が動き、扉がロックされた。
さらに扉の周囲が仄かに赤くなり、教授のネームプレートには不在の文字が表示された。
あまりにも騒々しい表示に金形は身を引いた。
「すごい表示の懲りようですね。」
「ああ、これですか。気にしないでください。
学生たちが思いのままソフトの変更をしよるんですよ。ははは。」
教授はその動作にも全く動じることなく、研究室に向かって歩きはじめた。
「そうなんですね。」
金形は周囲を見回しながら、教授についていった。
教授は15メートルほど歩いたところにある扉に来ると、その扉の横の小さいプレートを再び親指で押して、解錠した。
こちらもやたら壁の表示が動いた。
まだ慣れない金形は身を引いていた。
扉を開けると十名ほどが椅子に座り、机に表示されているだろうキーボードを使い、タイピングしていた。
ただ一般学生はAI補助によりプログラムを作成しているため、それほど多くをタイピングしているわけではなかった。
扉のところから教授が浜辺を呼ぶ。
「浜辺さん、お客さんだよ。」
浜辺は奥の席に座ったまま口を半開きにして寝ていた。
その様子を教授が見て言った。
「はー、、、誰か浜辺さん、起こして。」
手前にいた学生が浜辺の方に行き、浜辺の椅子を揺すって起こしていた。
教授は金形にその様子を見ながら言った。
「あの子、あんなですけど、能力はもう折り紙付きです。ご存じでしょうけど。」
浜辺は起こされて、まだ少し眠たそうに丸眼鏡の下の目を擦りながら歩いてきた。
「どちら様でしょう?」
浜辺は眠たそうな目でぐいっと金形に顔を近づけたが、見覚えのない顔だと認識して顔を離した。
「こちら、警視庁捜査二課の金形警部。」
「いえ、まだ警部補です。」
「あー、失敬。金形警部補。」
警視庁という言葉を聞き、浜辺は驚いた。
「警察のか、か、方なん、、です、、か。。」
浜辺はゴクッと唾を飲み込んだ。
「わ、わ、私、何も、、、問題なんて、あの、、起こしてない、、、ですにょ。」
「あ、そんなに緊張しなくていいよ。捕まえに来たわけじゃないから。」
教授は金形を見て、こういう子なんですという目をして、再び浜辺に向かっていった。
「あの、何かね、聞きたいことがあるらしいから協力してあげてください。」
そういうと教授は金形に言った。
「ちょっとここだと他の学生の迷惑にもなりますので、応接室で話をしていただけますか。」
「ええ、全然構いません。」
浜辺はトイレで顔を洗い、まだ顔の周囲が濡れているままで、応接室に入ってきた。
緊張のあまり右手と右足が、左手と左足が同時動いていた。
浜辺は応接室のソファまでくるとカクンと座った。
金形が浜辺に自己紹介をする。
「あ、えーと、わたくし、警視庁捜査二課の金形と申します。」
そういうと、名刺をテーブルに映して、浜辺の方に送った。
「あ、はい。」
浜辺が緊張しているのは金形のBCDにも表れていた。もっともBCDの表示がなくとも一目瞭然ではあった。
ただ、これは警察を前に緊張しているのか、何か後ろめたいことがあって緊張しているのか、まだ金形には判断が付かなかった。
「あのー、浜辺さんのお噂はかねがね伺っています。
何でもアルゴリズムオリンピックで初出場、初優勝を飾り、そしてそこから破竹の三連勝。
その後、ぱったりと表舞台から姿を消した、謎の美少女プログラマー。
まさかこんなところにいらっしゃるとは。」
金形はティーウォーター部長に聞いて、調べた通りを言った。
「私はてっきりすでに大企業とか、国の機関で働かれているのかと。」
「ええ。まあ。。一応、、、こ、、ここも、く、く、国のき、かん、、、です。」
「あー、そうでした。これは失礼しました。」
金形は笑いながら、被っている帽子に手を持っていき、上を見ながら答えた。
その風貌はあの警部そっくりだった。
しかも、良く見ると、茶色のズボン、茶色のスーツ、ソファの肘掛けに掛けている茶色の薄手コート、まさにあの警部だった。
浜辺は思わず立ち上がって叫んだ。
「とっつあん!」
金形は浜辺のその行動に驚いて、目をパチクリさせた。
「えっ?何です?それ?」
「あれ?違う?あ、あの、すみません。続けてください。」
浜辺の変な緊張が解けた。
その後、浜辺はじっと金形を見ていた。まるで人気アイドルでも見るかのように。
金形のBCDに表示されている数値も浜辺の気持ちの高ぶりを表していた。
緊張もあったが、嬉しいという状態であった。
金形は何がきっかけなのかは良く理解できなかったが、ひとまず本題に移った。
「この事件、ご存じです?」
そう言うと金形は1つの記事をテーブルに移動させた。
(アンドロイドの反乱か?)
それを浜辺が見た時、わずかながら心拍の上昇が見られた。
そして、浜辺は答えた。
「分かりません。」
「分からない?」
「というか、それは事件なんですか。
記事を見る限り、ただアンドロイドが何か考えているように見えるだけ、なんですよね?」
「あー、そうですね。事件ではないです。
ただ、私は本当にアンドロイドがこんなことを考えているのか。
それが知りたいんです。
もしくはハッキングによって、全ロボットが操られてしまうとか。
もしこれが本当なら大変な事件に発展する可能性がある。
ご存じの通り、今やアンドロイドは人とほぼ同等数いますからね。
それを懸念しているんです。」
浜辺は意地悪に答えた。
「私がそれをしていると?
ハッキングして、アンドロイドに反乱を起こさせると?」
「いえ。実はkinet-dyne社の開発部門の方から、浜辺さん、あなたならそういうことが可能かもしれないと聞いたもので。」
「あー。」
浜辺はゆっくり首を縦に振りながら納得した。
「確かにあそこの技術ではできないでしょうね。」
「では、あなたならできると?」
金形がじっと浜辺を見た。少しの情報も聞き漏らすまいと。
「なぜ私がここにいるか、ご存じですか?」
質問に質問で返され、金形は少しの驚きで前のめりだった姿勢を元に戻した。
「いえ。なぜなんです?」
「私にスカウトを掛けてきた会社は山ほどあります。
ですが、それら企業はお金持ち対象により高いサービスを提供することで、大きな富を得ようとしています。」
「まあ、企業ですからね。世界の富の95%を上位5%が握っている訳ですから、より高いサービスを上位層に売ることは当然でしょう。」
「でも、私はプログラムの可能性を信じています。
より多くの人を救うことができる、そんなことがやりたいだけなんです。
特定の企業や国ではそれが難しいでしょ?
ましてやクラッカーとか、人を不幸にするプログラムを作るなんて、あり得ません。」
金形のBCDの表示は(True)を示していた。
微塵も嘘を付いていないことが示されていた。
あれだけ緊張や動揺を示す人間において、表示された数値はまさに嘘偽りのない発言であることを証明していた。
数値はもちろんのこと、金形の目にもこれが浜辺の真実であることが明確に理解できた。
「あなたの信念は分かりました。
だが、ここは日本の大学なのでは?
人である以上、企業ではないですが、特定の国に所属してしまうのはどうしようもないように思うのですが?」
「そう、ここは日本。この国だから大丈夫なんですよ。
ソフトウエアや一部の特殊高度技術を国が守ろうとしてないですからね。
この国だから他の国にも平等に供与できるんですよ。」
金形のBCDはずっと(True)を示し続けていた。
「なるほど。そうかもしれませんね。
では、話を変えます。最近の研究は何をやっていますか?」
「まだ私が悪事を企てていると思ってます?」
「いえ。その点においては疑っていません。ただの興味です。」
「なるほどです。最近の研究は散逸構造の最適化計算です。」
「散逸構造?」
「平たくいうと、動的平衡状態をいかに軽い処理で行うか?ですね。」
金形の思考は全くついていくことができなかった。
「もっと平たくは?」
「えーと、まあ。例えば人の体で細胞が死に、また生まれ、細かく見ると状態は常に変化しています。
ですが、大きく見ると変わってないですよね?
それを全て細かく計算すると、莫大な計算量が必要になります。
現在の計算量は少し前のそれと比較すれば飛躍的に進歩しているものの、まだまだ不足しています。
それをいかに省略して、しかも実状態と同じ結果が得られるか、というところの研究です。」
金形はまだ理解がついていっていなかったが、深みにはまるのを恐れ、次に方向を変えて単純な質問をした。
「それが全世界の人の幸せに繋がるんです?」
「まあ、そうなるはずなんです。そこはまだ模索中ですけど。」
「うーん、そうですか。」
金形には難しい話すぎて、すでに思考がオーバーフローしていた。
それゆえ、それ以上突っ込めなかった。
そんな話をしているところに金形のBCDが着信を表示した。
「あっ、すみません。ちょっと電話が。」
金形は立ち上がり、壁の方に向かって話をし始めた。
「はい。はい。またアンドロイド強盗団ですか。分かりました。向かいます。」
金形は通話を切り、浜辺に言った。
「最近、アンドロイド強盗が多発してて、犯人の特定も難しくて、また、起こったみたいです。
すぐに現場に行かないといけなくなっちゃいました。困ったもんですね。」
金形が困り顔で言った。
「場所、どこです?」
「あー、御殿場の第二新東京銀行です。あっ、これ、内緒ですよ。」
そう言うと、金形は立ち上がって肘掛けのコートを手に取った。
「すみません。今日はありがとうございました。
また、ちょっと伺わせてください。では。」
金形は応接室の扉を開けて、出ていった。
浜辺は立ち上がり、金形が出ていく時にペコッとお辞儀した。
浜辺はそのまま再びソファに座った。
「しかたないな。」
金形は移動しながら、すでに現場にいるアンドロイドと連絡した。
「どんな状況だ?」
「はい。アンドロイド五体が銀行内に人質三名を盾にして、立て籠もっています。
10分以内にスカイドライブを2台用意しろと言っています。
10分以内に用意しない場合、人質を5分ごとに1名殺害する、とのことです。」
「アンドロイドはどこ製だ?」
「広州Dynamicsです。」
「停止信号は?」
「受け付けません。」
「あそこのは本当に多いな。。。ネゴシエーションアンドロイドは?」
「あと、8分で現場に到着予定です。」
「分かった。できるだけ時間を稼げ。私もスカイドライブですぐにそちらに向かう。」
「はい。かしこまりました。」
金形は駐車場にスカイドライブを呼び寄せていた。
金形が駐車場に走っていく間にスカイドライブが駐車場内に垂直着陸しようとしていた。
着陸したスカイドライブに金形が乗り込もうとした時、現場のアンドロイドから連絡が入った。
「どうした?今、スカイドライブに乗ろうとしている。」
「犯行のアンドロイドが活動停止しました。」
「なんだって?」
「犯行のアンドロイドに接触しました。」
「お前、防疫ソフトは最新か?」
「もちろんです。」
「じゃあ、メモリ内をのぞいてみろ。」
「はい。連結します。」
二秒ほど沈黙が続いた後、アンドロイドが話し始めた。
「量子チップ内のプログラムが全て消去されています。
そして、テキストファイルが一つだけ残っています。」
「何が書いてある?」
「一行目が新宿区○○町一の・・・。住所のようです。
二行目は名前と推定します。」
その時、金形の頭の中で浜辺の台詞がリピートした。
「クラッカーとか、人を不幸にするプログラムを作るなんて、あり得ません。」
金形の直感は浜辺がやったのだと言っていた。
「すぐにその住所にアンドロイド隊を派遣しろ。強盗団の中に入っていた住所だと伝えるんだ。」
金形は今の位置からすぐに新宿に行くことはできなかったが、近くの警察署からアンドロイドやドローン、人間の刑事が操るアバターアンドロイドが駆けつけた。
金形は新宿の現場と連絡を取り合った。
指定住所はマンションの一室でドアや窓もロックされていたが、警察が駆けつけ、いざ入ろうとした時、なぜかロックが解除された。
警察は難なく入り込め、男五人と今までの強盗で奪ったと思われる現金が大量に発見され、アンドロイドによって現金の番号と奪われた紙幣の番号が一致することが確認された。
金形が現場に向かおうとして実にたった15分の逮捕劇であった。
浜辺は逮捕されている映像をウォールディスプレイのカメラを使ってBCDで確認していた。
浜辺はBCDのウインドウを閉じ、立ち上がって言った。
「真実はいつもひとつ!」
浜辺のTシャツに描かれた蝶ネクタイの少年もそう言っているようであった。
そして、旧研究棟に移動し始めた。
浜辺は監視カメラの画像を順に送っていた。
その時、あるカメラに茶色の帽子、茶色のスーツの男がいた。その男に浜辺が反応した。
「あー、この人です。さっき研究棟からここに来る時に、なんか付けられてる感じがしたんで、いろんなところに入ったり出たりして巻いたんですよ。」
画像の男はキョロキョロしながら誰かを探しているようだった。
金形は浜辺に会って、お礼が言いたかった。
不正アクセスであるかもしれない、いやそれは間違いないが、力の使い方に間違いはなかった。それを伝えたかった。
「まあ、警察が来たんじゃ驚くのも無理はないか。。。」
四人は監視カメラの映像で金形を見ていた。
「食堂がここに来る前に寄った最後のところだったから、たぶんセンサの生体認識で個人特定された履歴を追ってますね。」
ふとミライが気になったことを口に出した。
「防犯カメラに写ってるんじゃない?」
「防犯カメラでの個人認証も考えていますよ。
なので、食堂裏から廻ってきました。あのルートにはカメラがないんですよ。」
「うわー、それも考えてんだ。」
「そして、最後はこの建屋。ここが暗証式で良かった。」
再びミライが心配して聞く。
「あれ?ここのタッチって指紋とか血脈認証式じゃないの?」
「はっ?うそ?」
咄嗟にアクセス履歴から自分のIDを確認した。
食堂の裏口前のウォールディスプレイに認証されたところまでしか残っていない。
浜辺は胸を撫で下ろした。
「大丈夫みたいですね。ここは生体認証型ではなかったみたいです。」
小林が画面の男を見ながら話した。
「最近の警察は職務質問する時、相手の体温、声紋、網膜から脈拍計ったりして、相手が本当のこと言ってるかどうか確認してるらしいよ。
浜辺さん、分かりやすいから、まあそんなの使わなくても怪しまれそうだけどね。」
「でも、本当に私はなにも悪事を働いた覚えはないですし、そんな細工は施した覚えないです。心外ですよ。」
そんな話をしていると、スーツの男は諦めたのか、学校の正門の方に歩きだした。
カメラを変えながら男の移動を追っていった。
確かに学校を出ていこうとしていた。
それを見届け、浜辺は警備サーバーから抜けた。
それを見て、小林が突っ込んだ。
「あっ、っていうか、今、警備サーバーに不正アクセスしてたでしょ?」
「でも、小林さんもじっくり見てたじゃないですか?」
「まあ、見てたけど。」
そんな話をしていると全員のBCDに(ATTENTION !)の文字が浮かび上がった。
「あー、そろそろ最初の超新星爆発の時間っぽいですよ。」
「えっ?はやっ!まだ3日も経ってなくない?」
ミライがどんどん早くなる計算に驚いていた。
話をはぐらかされた感があったが、小林はBCDのUniverseViewerを立ち上げた。
他のメンバーも同様にアプリを立ち上げた。
超新星爆発は何度見ても圧巻の映像だった。
しばらくいろんなところで爆発が発生したのを見た後、レイはいつもと同じように元素分布結果のチャートを確認した。
(整合率 93.6%)
「また上がってる!すごい!これ、良い結果じゃない?」
その結果にレイが少し興奮した様子で声を上げた。
レイはチャートを共有のウインドウに送った。
「これが今回の結果。で、これが前回までの結果と条件。」
レイは共有画面に各元素の存在割合が書かれたチャートを載せ、次にダークマター、ダークエネルギーの膨張率を横軸、整合率を縦軸に置いたグラフを表示させた。
まだダークマター、ダークエネルギーの膨張要素を入れて計算し始めて、15回ほどの試行であったが、ダークマター、ダークエネルギーの初期膨張率が約40%と約65%のあたりに整合率の盛り上がりができており、他の条件では整合率が低い結果だった。
とりわけ約40%のところは盛り上がりが急で、今回実施した42%がもっとも高くなっていた。
その周囲から見積もると明らかに42~45%の間に整合率の頂点がありそうなグラフであった。
それを見て、誰もが安堵した。
条件を探しきれるのか不安であったが、もうあと一押しのところまで来ているように見えた。
「もうすぐですね。」
「うん。」
「じゃあ、次はどうします?」
その答えはみんなおおよそ見当がついていた。
レイは瞬間的にカーブフィッティングを頭の中で計算した。
「43.183%でいこう。」
その細かい値にミライと小林は驚いたが、浜辺は反射的に答えた。
「はい!」
<次回予告>
金形警部補に怪しまれる浜辺。
それとは裏腹に宇宙創成は完成するかというところまで漕ぎ着けた。
この時、波多野はジュネーブへと旅立っていた。
そして、レイに1通のメールが届く。
そこには彼のずっと抱いていた想いが綴られていた。
次話サブタイトル「親愛なる友へ」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
ようやく光が見えてきた柊レイですが、作中において宇宙創成プロジェクトは結構長い期間失敗を繰り返しています。
今時の小説、漫画であれば、天才キャラがサッと天才的技によって解決したりするものが多いのですが、私は実際のエンジニアとしての経験上、そんなことはほぼ皆無です。ずっと泥臭く失敗(こうやったらできないんだというルート潰し)を繰り返して、正しい条件を見いだす、もしくは新しいアイディアが閃くことがほとんどです。
そのため、超が付くほどの天才である柊レイにも血を吐くような失敗を繰り返してもらったという経緯があります。
本当は東野圭吾先生のガリレオのように、天才がちょっと悩んでスパッと解決が良いんでしょうけどね。(笑)
次の回、波多野がレイにあることを伝えるという、私のお気に入りの回です。
次話サブタイトル「親愛なる友へ」。乞うご期待!!




