〜第3章 死の谷〜 ∫ 3-1.ノーベル賞か、浪費か dt
まえがきは割愛させていただきます。
毎日0~1時の間に次話投稿いたします。
レイは月曜の朝一番から研究室に足を運んだ。
研究テーマについて、糸魚川教授に相談しようとしていた。
「失礼します。」
レイを秘書が出迎えた。
「糸魚川教授は教授室にいらっしゃいます。」
「分かりました。ありがとうございます。」
レイは教授室のドアをノックした。
「はい、どうぞ。」
中から糸魚川教授の声が聞こえ、レイはドアを開けた。
「ああ、柊くん、先週はご苦労様だったね。
こんな朝早くから来てくれるなんて有り難いかぎりだよ。
じゃあ、早速だがこないだの学会の質疑応答作りをお願いできるかな。」
何か打ち込みながらもチラチラとレイの方を見て言った。
その言葉にレイが答える。
「先生、今日は相談があって来ました。」
レイの真剣な目を見て、教授は打ち込んでいた作業を止めた。
「どうしたのかな?」
「率直に言います。今のテーマである六次元探索を変えたいんです。」
「えっ?何を言ってるんだね。悪い冗談はよしたまえ。」
教授は少し笑いながらこの話を流そうとした。
だが、レイは続けた。
「冗談ではありません。やっと本当にやりたいことを見つけたんです。」
教授が笑みを消して話した。
「では聞くが、柊くんのやりたいことっていうのは何かね?」
レイは内容を言うのをためらったが、言わなければテーマとして認定もしてもらえないと思い、話を切り出した。
「デジタル空間にこの世界と同じ法則で動く宇宙を創ることです。」
教授はその言葉を聞いて少し落胆した顔をした。
「何かと思えば、そういった試みはすでにいろんな国で実施されているじゃないか。
しかも、私に言わせれば、全て失敗だ。
狭い空間だけを再現したところで意味はないし、スパコンを使ったところで、このとてつもない広さの宇宙を再現なんてできるはずもない。
なんの成果も出ない実験は実験じゃない。浪費というんだよ。
国の機関ならなおさらだ。税金の無駄遣いだよ。
私は断固として反対だ。君にはそんなことはさせたくない。」
そう言って教授は再びキーボードを打ち始め、そして話を続けた。
「六次元探索は今や世界が注目する一大テーマだよ。
高エネルギー衝突実験でそれを突き止めれば間違いなくノーベル賞ものだ。
我が研究室でそれを実現できるかもしれない。
君の理論が正しいことも証明できるしね。」
「ぼくは、ぼくの理論を全て数式化しています。
いまやぼくでなくても高エネルギー衝突実験は可能です。
ぼくは、それではなく、自分の思ったことをやりたいんです。」
教授は再び手を止めて話し始めた。
「君はまだ分かってないようだね。まあ、若いから無理もないな。
これはね、君が提唱していることが重要なんだよ。
今現在、君が作ったレイ理論は世界の最先端理論だ。
その提唱者である君が名を連ねているプロジェクトは誰がなんと言おうが、最優先でお金が降りる。
もし仮にだ、今君がこのプロジェクトから抜けると発表してみろ。どうなると思う?
みながこのプロジェクトに懐疑的になるだろう。投資もなくなるかもしれない。
計画が潰れてしまったら、何万人もの人が失業することだってあり得る。
その責任が君にとれるのかね?」
しばらくの間、レイは言葉を失ってしまった。
教授のキータッチの音だけが教授室に響きわたっていた。
「少し、、、考えさせてください。」
そう言ってレイは部屋を出た。
レイが講義室に入ると生徒の何名かがレイに挨拶をしてくれた。
「おはよう。」
レイもそれに答えた。
波多野がすでに講義室にいて、レイを見つけてレイを呼んだ。
「レイ!ここだよ。」
レイは波多野に向けて手を上げて答えて、波多野の方に歩いていった。
「おはよう。」
「おはよう。」
「レイ、こないだの二日酔、大丈夫だったか?」
「うん。もう何ともないよ。」
「それはそうと、この前さ、『それだ!』って叫んで出ていったけど、なんかいいことあった?」
「うん。実はさ。自分の中でやりたいことが見つかったんだ。」
嬉しそうな表情のレイを見て、波多野も嬉しい気持ちになった。
「やっぱりそっか。そんな気がした。」
「でも、まだ教授にはテーマとして認めてもらえてなくて。。。」
言葉を詰まらせたレイに波多野が言った。
「そっか、まあレイの考えることだし、きっといつか認めてもらえるって。
それに本当にやりたいことが見つかったんならよかったじゃん!
前進してるんだし、前進してりゃさ、そりゃ山だって谷だってあるだろ?
でも、お前ならできると思うぜ。なんたって柊レイだもん。」
教授に反対された時の重たい気持ちが少し溶けた気がした。
授業を受け持つ教授が講義室に入ってきた。
「はい。出席をとります。画面のVisibleONにしてください。」
波多野とレイは授業が終わって食堂に向かって歩いていた。
「レイ、今日なに食べる?」
「カレーにするよ。」
「またかよ。お前、カレーばっかり食べてっと身体黄色くなるぞ。」
ふふふと二人して笑って、それぞれ別の列に並んだ。
列に並んでいる間、BCDにメッセージが入った。
(いつ始める?)
ミライからだった。
アプリをオンにして、返事をした。
(今日って放課後時間空いてるかな?)
(うん。大丈夫だけど。そう言えば、あんた、教授に相談したの?)
(うん。した。けど。)
(どうせ、ダメだったんでしょ?)
(うん。)
(まあ、容易に想像がつくわね。六次元探索が何よりも重要だって言いそうだもん。あの教授。)
(そう。そんな感じだった。)
(二つともやるとか言えば良かったんじゃないの?)
(それが、この内容はいろんな国がすでにやってて成果の出ない研究だって。)
(そりゃ計算省略をめちゃくちゃしてたり、条件が全然違う状態でやってるからじゃない。)
(その辺りはまだちゃんと話せてないんだ。)
(ちゃんと話せばできそうなの?)
(うーん、どうかな?)
(一度作戦でも練る?)
(そうだね。)
(じゃあ、授業終わった後、図書館でどお?)
(分かった。図書館行くよ。)
カレーの列の最前に来た。レイはカレーを受け取って、席に移動し始めた。
ほぼ同時に波多野もしょうが焼き定食を取って出てきた。
<次回予告>
宇宙創成プロジェクトに反対する教授。
ますます深まる教授との確執。
レイは図書館で夏目ミライにそのことを相談する。
そして、取るべき選択を行う。
それはまるで必然の選択であるかのようだった。
次話サブタイトル「Secret base」。
次回もサービス、サービスぅ!!
<あとがき>
柊レイがカレー好きなのは実は私がカレー好きというところから来ています。
私の持論も、柊レイの父親と同じく、『カレーは完全栄養食』です。(笑)
肉も野菜もお米も入っていて、最高の食べ物だと思っていて、大学時代は良く学食でカレーばかり食べてました。身体が黄色くなるというのは本当なのでしょうか。元々黄色い人種なので、一度どこかの教授が白人で試してみてくれないかなと思います。(笑)
さて、本編ですが、やはり当然のことながら教授にテーマ進行を断られたということで、やはり奥の手を使う方向で行くのでしょうか。それは次回の内容で。
では、次回、「Secret base」。乞うご期待!!




