第五十話 エピローグ3
どがあん、と客間の扉が蹴り開けられる。
そこにはスカイブルーのタイトワンピース、髪を大きく波打たせて目には紅蓮の炎。
そして2メーキはある斧槍を構えたユギ王女がいた。
「ゆーやああああああああ!!」
「あ、やばいよぉ」
どおん、と床を一撃する斧刃。すんでのところで背後からメイドに引き抜かれる。床板が氷のように割れた。
「おのれ逃げるでない! 天誅を加えてくれるわ! よくも我が片割れを連れ去ってくれたな!」
「お、落ち着くんだ、というか別に怒られる筋合いはないぞ、ユゼがラウ=カンに来たのは彼女の意志だ」
「黙れ! お前がユゼをたらしこんだに決まっておるわ! 我が分身たる片割れに何をした! さぞねちっこい」
そこからは自動翻訳がうまく働かなかった。あまり一般的でないスラングを喋りまくっているらしい。周りにいた女官が赤面して耳をふさぐ。
「ちょ、ちょっと待つネ双王、とにかく武器を下ろして、というかユゼ?? 来てたのはユギじゃなかったネ??」
「んよいしょお!」
王族とは思えぬ掛け声で斧槍を引っこ抜く。完全に武器に振り回されている動きだが、それでもユーヤの方に狙いを定めて倒れ込んでくる。メイドさんに引きずられるように回避し、木製の座椅子が粉々に砕ける。
「ユギ! 待つのじゃ!」
と、ユーヤの前に飛び出す影。ユギの方は斧槍を引き抜きつつよろける。
「ユゼ! 無事であったか! そこの変態に何もされなかったか!」
「変態って……」
「何もされておらぬわ。ユギよ、お前は勘違いしておるぞ」
「勘違いとは何じゃ?」
「ユーヤは世にも稀なる異世界人。我々の玩具にするのにこれ以上の存在はない。だがシュネスの金ピカやらラウ=カンの露出狂やらもその身柄を狙っておるからのう。見張っておらねばならぬ。我は率先してユーヤを迎えに来たまでのこと」
「露出狂って私のことネ」
睡蝶が目を釣り上げるが、それは空気のように無視する。
「それならば二人で行けばよかろう! なぜ教えてくれなかった! 我がどれほど身を案じたことか! やっとラウ=カンにいるという情報を手に入れて……」
「政務もあったからのう。二人が同時に国を離れるわけにはいかなんだ。許せユギよ。我はどうしてもユーヤを手元に置いておきたかった。だから一人で動いた。速きを重んじたからじゃ」
「政務などいつでも切り上げる! 我は何よりお前と……」
と、そこで。
ぴたりとユギ王女の動きが止まる。
その瞳孔が開き、血を分けた双子の片割れと、その向こうにいる異世界人を何度か見比べる。
わずかな混乱と困惑。遅れてやってくる理解。逡巡と葛藤、複雑な感情が綯い交ぜになり。
そしてユギ王女は、斧槍を脇に置く。
「……う、うむ、ま、茶番はこのぐらいにするかのう」
髪をかきあげて腰に手をあてる。そして脂汗を流しつつ流し目でユーヤを見た。
「さ、パルパシアへ帰るぞユーヤよ。我ら二人でしっぽりと歓待してやろうぞ」
「……」
ユーヤは、その習性とも言うべき観察眼でユギ王女を見る。
平静を装っているが声が上ずっている。重心が安定してない。動悸は早まって体温も上がっていそうだ。必死に何かを取り繕うような態度だが、何故そうなってるのかは掴めない。
一つ言えるとするなら、ユギ王女はユゼとの対立を嫌ったのか。
ユゼがユーヤを求めてラウ=カンまで来たなら、自分もそれに合わせようと考えたのか。そのように理解する。
(よく分からないが、いろいろ大変なんだな……)
「ユギよ、武器を下ろしてくれて感謝するぞ」
「ユゼよ、忘れるでないぞ。我らパルパシアの双王は二人で一人。お前が何をしようと、どこへ行こうと、我も必ず一緒に行く。お前の考えは我の考え。たまには同時ではないこともあろう。だが最後には必ず同じになる。だから自由に動いてもよい。我が必ずお前に合わせるぞ」
それに、と胸元から羽扇子を取り出し、ユーヤの方を示す。
「ユーヤの体は一つでも、玩具としてなら二人で遊べるからのう」
「うむ、二人で遊び倒してやろうぞ」
「壊した床と椅子の代金は請求するネ……」
「ちょっと待ってくれるか」
ユーヤが多少げっそりした様子で手を上げる。
その周囲では女官たちが壊されたものを片付け、斧槍も三人がかりで運んでいた。
「パルパシアへ招かれる約束はあったけど、それは一ヶ月だけのはずだぞ、そろそろ期限だ」
「む、そうか、セレノウへ帰るのじゃったの」
かつて、ユーヤは奇妙な流れから、セレノウ胡蝶国のエイルマイル第二王女と婚姻を結んでいた。
ハイアード獅子王国の一件のあとエイルマイルは帰国したが、ユーヤは一ヶ月ほど遅れて入国するように指示されていたのだ。そのため、見聞を深める意味もあってパルパシアに招かれていた次第である。
その後、各国の要請によってシュネス赤蛇国、ラウ=カン伏虎国と移動していた。移動に日数がかかることもあり、一ヶ月はそろそろ過ぎようとしている。
「じゃが別に日付が決まってる訳でもなかろう。一度パルパシアへ戻るがよい」
「前は色々あって慌ただしかったからのう。飛行船なら大して時間もかからぬ」
この双子の、一つのセリフを分割するような話し方は久しぶりだなと感じつつユーヤは答える。
「いや、セレノウには戻らない。行きたいところがあるんだ」
「スケス」「違う」
食い気味に言って、睡蝶の方を向く。
「今日の夕方には出発したい。飛行船か、船を借り受けたいんだが、可能だろうか」
「それはいいけど……急にどうしたネ?」
「ええい! ユーヤの都合など知らぬ!」
「いいからパルパシアに来るのじゃ!」
「……分かった、じゃあまたクイズで決めるか。いいクイズがあるんだ」
「ほほう」
と、羽扇子で口元を押さえる二人。
「そう何度も我らに勝てると思ってはいかんぞ。ユーヤが戦えるクイズとなれば知識よりもゲームの要素が強くなるはず」
「本来そういうものは我らの領分じゃからのう」
「……そうだね」
双子が合流したことで、何だか活力が湧いてると感じる。生まれ落ちてから享楽のみに過ごしてきた人間の持つ熱量、次は負けぬと構えるプライド。
あるいは、この二人もまた変化と成長を続けているのか。
「……よし、では睡蝶に勝負の仕切りを任せたい。メイドさんたちは準備を手伝って」
「分かったネ」
「分かりましたわあ」
※
ややあって。
会場となるのは朱角典の会食の間。すでに王宮の使用人や文官、武官などが詰めかけ、外周はぎっしりと人で埋まっている。
場の中央には膝の高さの四角いテーブル。一片は1.5メーキほどである。
先に入室していたのは双王。ユゼ王女もいつものタイトワンピースに着替えており、蒼と翠の眺めである。
「ずいぶん集まっとるのう」
「うむ、しかしこんなローテーブル一つなのか。いったいどんな勝負をする気じゃ?」
観客はというと生で見る双王に熱視線を飛ばしている。その様子にユギが軽くうなずく。
「ユゼよ、ここは一つ歌でも披露してやろうぞ。心を一つにするためにも」
「良かろう。誰ぞマイクと曲を用意せよ! 「ラビリンス・ラビット」じゃ!」
※
回廊を歩くのはユーヤと睡蝶。向かう先から響いてくるのは明るい音楽。
ユーヤはといえばタキシードに着替えていた。セレノウ風の仕立てらしいが、細かな特徴などは分からない。背後からは二人のメイドがついてくる。
「準備は万全かな」
「はい、ご用命のものはすべて用意しましたわあ」
「ちゃんと……も調達したよお」
睡蝶は少し眉をしかめつつ、ユーヤに問いかける。
「言われた通りの用意はしたネ。でもこんな勝負、本当に勝てるネ? 言っておくけど司会を務める以上は私も中立ネ。ヒントなんか送らないし、そもそも私も答えを知らないネ」
「このクイズは割と回数を重ねてて、類似のものも多い。経験はあるよ……それなりに戦術もね。でも未来のことは誰にも分からない。あとは運を天に任せよう」
その言葉に、睡蝶は少し視線を落とす。
「未来……」
「……」
それは学園封鎖が解かれてからこちら、ずっと働き詰めだった疲労のゆえか。
それとも事態がようやく一区切りを越えようとしている安堵のためか。
様々に思い悩むことが一気にのしかかったような、そんな一瞬。
「それを思うと少し悲しくなるネ。ゼンオウ様はなぜ絶望してしまったのか。過去は恥ずべきもので、未来は自分を否定するもの。なぜそんな考えに至ってしまったのか……」
「……そうだね」
作られた存在。旧支配者。
それが王の心すら歪めてしまったのか。
――大丈夫よ
「……」
――いつか分かってくれる。考え方が変わる日も来る
――だって、変わり続けることが人生だから。
その声はどこから響くのか。
ずっと何年も、変わることなく響く声。
何も変わらないのは自分ではないのかと、ユーヤは諦念を込めて声の方を。
「……」
そこにいたのは、褐色に焼けた快活な女性。白い歯を見せて笑い、清々しい南国の風を吹かすような。
見えたのは一秒の何分の一という時間。回廊を流れる空気に溶け、どこかへと消えてしまう。
だが確かに、その姿は変わったあとの彼女だった。
「大丈夫だ」
熱を込めて睡蝶へと振り向く。
「少なくとも僕とユゼはゼンオウ氏の心に触れた。君の声だって届いたはずだ。時間はかかるかも知れないが、いつか分かってくれる。考えが変わる日も来る。なぜなら未来が無限の可能性で満ちるように、過去の可能性もまた無限だからだ」
「過去の……」
「そうだ、君も言っていたはず、立ち向かうことこそが人生。過去の憂いも、未来の不安も、生きていれば立ち向かえる。やがては未来が変わり、過去の意味すらも変わるかも知れない。身勝手なようでもあるが、それが人の強さだ。変わり続ける事こそが人生。理不尽なこの世界と手を結ぶための、前向きな生き方なんだ」
「……うん、そうネ、その通りネ」
人は変わり続ける。
青虫が蝶になるように。
未来が変わり、過去も変わり、変わり続ける今を生きるのか。
「きっと、いつかまた、ゼンオウ様に会える日も来るネ」
「ああ、きっとだ」
あるいは自分もまた変わりたいのか。
変わるために世界の壁を超えたのか。
ユーヤと睡蝶は一旦別れて、別々の入り口から入室する。
そして睡蝶は司会者として、居並ぶ観客を前に声を張った。
「みんなよく集まってくれたネ。今回、かの双王と戦うのはセレノウのユーヤ。大学封鎖では八面六臂の活躍を見せたセレノウの秘密兵器ネ! そんな両者が争うのはこの勝負!」
小姓たちが走り回り、テーブルに並べられるのは十六の皿。
そのどれにも、ほかほかと湯気を上げる肉饅が。
「これぞ前代未聞、求められるのは運否天賦か駆け引きか、それとも知力で活路を開くか、その名を肉饅ルーレットクイズというネ!」
「ほう」
双王は早くも動いている。肉饅に目を近づけたり匂いを嗅いだりという塩梅だ。
「この中に通常の肉餡が入ってるのはたった一つ! それを当てた方の勝ちネ! なお、ちゃんと中央までかぶりつくこと! 具まで到達してれば完食はしなくていいネ!」
「うーむ匂いでは分からぬ……透けてもおらぬな」
「具材は豚の網脂で包んでから湯通しして、それを饅頭の皮で包んでるネ。ちなみに私にもどれが肉餡かは分からないネ」
「ふふん、要するに運の勝負じゃろ、運で我ら双王に挑むとは豪胆なることよ」
「えー、なお具材はユーヤが指定したもので、近いものを揃えたネ、青カビのチーズ、トウガラシ、ハチミツ、青菜の漬物、タガメなどね」
「よし、ではさっそく先攻後攻を決めっタガメ!!!?」
双子がのけぞり、ユーヤはテーブルを挟んでどかりと座る。
「さ、じゃあ先攻を決めるか、こちらのジャンケンはたしか兎拳とか言うんだよな、いっせーの」
「ちょちょちょっと待たぬか! タガメは聞いておらんぞ!」
「ちゃんとした食べ物だろ、なあモンティーナ」
水を向けられた赤いリボンのメイドは、ふくよかに笑いながら説明する。
「うふふ、苦労しましたわあ。タガメは池のものを捕まえても、丸一日水につけて泥を吐かせないと食べられない。ラウ=カンでは南西のごく一部で食べる風習がありますが、紅都ハイフウに一軒だけそれを出すお店があったのです。走っていって調達してきましたわあ」
「ちなみに軽くゆでただけだよお」
「ユギよ動じるでない。要するに妙なものを引かなければ良い話。ユーヤに小細工はさせぬ。先手を取って肉餡を引く、それで勝てるはずじゃ」
「う、うむ、そうじゃな、では兎拳を」
互いに拳を出す。
ユーヤは「壁」、ユギ王女は「兎」。兎は壁を飛び越える。ユギ王女の勝ちである。観客から早くも歓声が上がっているのは、さすがの人気と言うべきか。
「おお……まさかのユギ王女の先手ネ。これは大丈夫か。双王なら一撃必殺はあり得るネ」
「ふ、ふふ、ふふふ、残念じゃったのうユーヤよ。生まれ持っての強運の星に生まれし我ら、その我らに先手を渡すことの意味が分からぬでもあるまい」
「もちろん分かってるとも。双王はまさに天に愛されたクイズ戦士だ」
ユーヤはにやりと笑い、やや声を潜めて続ける。
「だが……分かってるか双王」
「な、何じゃ」
「タガメを当てたら、おいしいぞ」
…………
……
「なっ!? 何を言うとるんじゃお前!?」
「僕には分かる。双王は持ってる。こういうときにタガメを引けるのが真の芸人」
「芸人ちがうわ!」
「さあさあ、ギャラリーもお待ちかねネ。まずユギ王女からどうぞ!」
「う、うぐぐ、で、ではこの真ん中のやつを……重っ!?」
「さあガブっと行くネ」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! これめっちゃ重い! なんかおかしい! 別のにさせてくれ!」
「ユギよ、リアクションの時は観客に顔を向けるんじゃぞ」
「ゆぜえええええ!」
楽しげな空気と沸き立つ観客。クイズと妖精に支配された世界で、王族すらもクイズに興じる平和な場面。
その中で、睡蝶は。
このラウ=カンの王ともなろう彼女は、ふとユーヤのことを考えた。
(……言われた通り、移動の手段は手配したけど)
(なぜ、あの国に……)
※
数時間前。
それは、ユーヤが朱角典で手持ちぶさたにしていた時のこと。
「手伝えることはあると思うんだけど……」
力仕事からは追い出され、書類仕事からも締め出される。とにかく休め、眠れ、按摩でも受けろとばかり言われる。自分はそんなに疲れて見えるのだろうかと情けない気分になる。
やることもないので中庭を散策。広大な庭であり、池があり川があり、植木や花で別世界のような景観が作られている。地下の城ではあの仙虎が寝そべっていた場所であった。
「じっくり見ると凄いな。日本庭園でもないし、中華風とも違う、一つ一つの造作に深い文化的背景が……」
「そなた」
声に立ち止まる。周りを見るがメイドはいないし、他の女官などもいない。
というよりも中庭に誰一人いない。いくら忙しい時期とはいえ、昼日中には使用人の姿が見られたのに。
「こちらを見よ」
「!」
声の方を向く。
そこにいたのは虎だ。しなやかな背筋と、筋肉に覆われた手足を持つ虎。大人数人分もの大きさがある。
しかし、その目は荒縄のようなもので縫われている。その姿には見覚えがあった。
「華彩虎……その分身か何かか……?」
「用件を伝える、しばし聞きやれ」
「待て」
手を突き出す。虎は止められたからというより、ユーヤの行動の意味が分からぬために動きを止める。
「あなたが束ねた人間、魂を撚り合わせた人間を元に戻せるか」
「なぜにそのようなことを尋ぬるや」
「答えてくれなければ話はしない、何にも応じない」
「撚り合わせた魂はすでに個である、個を戻すはあり得ざるや」
「……自然に元に戻る可能性はないのか」
「……」
虎は押し黙る。
ユーヤはそこに分かりやすい感情を見た気がした。悔しさだ。
何かを認めたくない態度、己の不利になることを言及したくない気配、そのように思えた。いっそ言ってしまえば、ユーヤと会話することすら嫌々やっている、という印象だ。
「……あるんだな? 例えば時間だ。撚り合わされた魂はまだ完全なる個ではない。時間を置けば糸がほぐれるように、元の存在に戻る……?」
「わらわは細っておる。悲しや、恨めしや」
忌々しそうに、そのように言う。
「何もかも思うにまかせぬ。わらわの権能たる撚り合わせ、今は完全ではないやも知れぬ、それだけよ」
「……」
「わらわの用件を聞け」
「……分かった、聞こう」
これ以上追い詰めれば、自分の前から姿を消すかもしれない、そのように感じて妥協する。
撚り合わされた人々がいつか戻る可能性が示された。可能性だけではとても足りないが、今はそれが精一杯なのか。
「用件とは何だ」
「わらわが正気でいられる時間は短く、この目も耳も遠くを見通せぬ。写し身にあっては言葉を操ることも易からぬ、万事は確かならぬこと重々に置きやれ」
「分かった」
それは神としてのプライドの高さのためか、華彩虎は常に予防線を張ってるように思える。今の自分は完全ではないと念押しし、それでいて弱みを見せたくない、二律背反の構えだ。
「妖精の王は我らの力を封じ、鏡によって力を吸い上げている」
「……うん」
「我は幽寂なる時間を人の蹂躙に耐えつつ、このように折にふれて正気を取り戻す。だがそうならぬ者もいる。我らとは関わりの薄い土着の神なれど、かつて我らを招いた水先案内人。その義理を重んじるはわらわの高徳なるがゆえ」
「……つまり?」
「か細い危難の声なれど、わらわは混濁する夢の中でそれを聞いた。かの太陽を背負いし狼。それと結ばれし鏡の浅ましき歴史。人の傲慢、おぞましき暴虐を見た。禁忌を恐れぬ愚鈍の将よ。口惜しや、妖精の王もさりながら、か弱き人間どもにここまでの勝手を許すは腸を九断せし思い」
「……端的に言ってくれないか」
うずくまる虎は、開かぬ目でユーヤを見た。その姿はもはや背景が透けて見えるほど薄くなっており、意識は混濁に落ちようとしている。
何よりも虎自体がこの場にいたくない、人間と話もしたくないという気配をありありと示す。
「……おお、異世界からの来訪者よ。妖精の王が築きし知の世界を壊す毒虫よ。わらわの同士を救うておくれ」
「同士……?」
「ヤオガミにありき妖精の鏡。ヒクラノオオカミと結ばれた器物」
「あれは、あと一度使えば砕ける」
(完)
今回のお話はここで一区切りとなります。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
ユーヤの旅はまだまだ続くようです、百万字を超える旅となりましたが、そう遠くないうちに続編を書きたいと思っていますので、どうぞ気長にお待ち下さい。
最後になりましたが感想、評価などいただけると大変嬉しく思います、今後ともよろしくお願いいたします。




