第28話 エスタンゴロ砦へ
エスタンゴロ砦へ行く件について、昨夜は激しい攻防戦が繰り広げられたが、最終的にはお兄様が勝利した。
トブーンの安全性はお父様が身をもって証明しているだの、プリマヴェーラ辺境伯領の後継者としてエスタンゴロ砦の見学は避けて通れないだの、それはそれは熱心に説得していたけど、決定打になったのはあれだったね。
必殺・上目遣い。
「お父様、お願いです。僕も連れて行ってください」
うるうるうる~。
「うっ」
まあ、お母様にそっくりな顔で、うるうるの目でお願いされたらね?
お父様、何も言えなくなって呻いてたよね。
かくして、お父様と私とお兄様、クリス様と護衛騎士2人の計6人でエスタンゴロ砦に向かうことになりました。
クリス様の同行については反対していたけど、お兄様と私が同行するってばれてる状況だったから、クリス様に強引に押し切られてしまった。
お父様、心労続きで大丈夫かな?
お父様の胃に穴が開かないことを祈るよ。
そして今日、今まさにエスタンゴロ砦に向かおうとしている時に、またもや一悶着起こっている。
「どうしてダメなんだ!」
「は。クリスティアーノ殿下には、護衛騎士と一緒に乗っていただかなくてはなりません。操縦は護衛騎士にお任せください」
「俺が操縦してチェリーナを乗せてもいいだろう!」
クリス様が、どうしても私と一緒に乗りたいようです。
うん、普通に考えて無理だってわかるよね?
なんで許してもらえると思ったのか分からない。
「クリス様、子どもどうしではきけんです。大人といっしょにのりましょう。大きくなったらチェリーナをのせてください」
四の五の言わずにさっさとトブーンに乗りたまえ!
ぐずぐずしてたら帰りが遅くなっちゃうよ。
「……わかったよ」
ふう、わがまま王子がなんとか納得してくれました。
では皆さん、早速出発いたしましょう!
「おとうさま、エスタンゴロとりではどれくらいでつきますか?」
「距離はフィオーレ伯爵家に行くくらいはあるぞ。トブーンならばおそらく1時間程度で着くだろうが、クリスティアーノ殿下が途中で休憩を取られるようならもっとかかるかもしれないな」
えー、さすがに1時間くらい我慢できるでしょ。
飛行中のわがままは禁止にしとけばよかったかな。
今後は安全なフライトのために、ルールを作った方がいいかもね。
いくらクリス様でも、飛んでる最中に無理やりリモコンを奪うようなことはしないとは思うけど。
……しないよね?
「1時間ですか。きょうはエスタのまちにも行きますか?」
「……いや。エスタの街は冒険者の街だからな。子どもが遊びに行くような街ではない。行っても面白くないぞ」
私たちを行かせたくないみたいな口ぶりじゃないですか?
何かあるのかな。
「おみやげは?」
「お土産ならフィオーレ伯爵家に行く時に買った方が、ずっといいものが買えるぞ。うちの領は名産品なんかないからな」
そうだよね。
フィオーレ伯爵家と違って、うちには副収入となる事業がない。
そんなプリマヴェーラ辺境伯領がどうやって領地を経営しているかというと、領民から徴収する税金と、国から支給される防衛費で賄われている。
もしエスタンゴロ砦を突破された場合、魔物がどんどんフォルトゥーナ王国に侵入してしまう。
それをプリマヴェーラ辺境伯領で押しとどめるため、国から防衛費が支給されるのだ。
自分でお金を儲けることを考えてなくていい代わりに、体を張って国に貢献しているのがプリマヴェーラ辺境伯領なのだ。
それにしても、うまいこと適材適所になるよね?
もしお父様とジェルソミーノおじさまが逆の家に生まれていたら、きっとものすごく大変だっただろうと思うよ。
「わかりました。じゃあ、こんどカレンのところに遊びに行くときは何かかってください」
「ははは、好きなものを買うといい。おお、チェリーナ、遠くにエスタンゴロ砦が見えるぞ」
お父様に言われて、前方に目を凝らすと、確かに遠くに障壁が見える。
なんだか、テレビで見た万里の長城みたい!
「あー、ほんとうだ! かべが見えるー! わあー、すごく長いですね、おとうさま!」
「ああ、とても長いぞ。あの壁は魔の森とプリマヴェーラ辺境伯領が陸続きになっている部分を、端から端まで遮っているからな。両端は崖になっているから、あの壁さえ守り切れれば魔物はこちら側に侵入できないんだ」
あの壁さえって言っても、両端が目視できないくらい長いけど……。
「あんなに長いのに、まいにち見回りをしているのですか?」
「そうだぞ。あの壁にところどころ高くなっている部分があるだろう? 一番大きいのがエスタンゴロ砦で、その他は見張り台だ。毎日馬で見張り台まで行って、上に登って安全を確認して、次の見張り台に行く。それから、一日おきにエスタンゴロ砦を出て魔の森へ入り、異変がないか歩いて見て回るんだ。
大変な仕事だが、そのおかげでフォルトゥーナ王国の平和が守られている。これからはトブーンで見回りが大幅に楽になるから、きっとみんな大喜びするぞ」
そうかあ!
みんなが喜んでくれたら私も嬉しい!
他にも何かあげられるものないかな?
「そうだ、けがした時のためにラップと、きんきゅうれんらく用のハヤメールもあったほうがいいですね!」
「おお、それはいいな」
お父様とあれこれ話している間にエスタンゴロ砦に到着した。
クリス様もわがまま言わなかったみたいで、予定通り1時間程の飛行だった。
「クリス様ー、おにいさまー! トブーンはどうでしたか?」
「うん、すごくいいね! 空を飛べるなんて感激したよ。上から見ると遠くまでよく見えるんだなあ。鳥になったみたいな気分だった。もっと速く飛んでみたいな!」
うんうん、お兄様は大興奮だね!
クリス様は?
「……」
「クリス様、どうかしましたか? おかおの色がよくありませんけど……」
「……」
返事がない。
私はクリス様と一緒に来た護衛騎士に尋ねた。
「何かあったのですか?」
「いえ、何もありませんが、殿下は出発してから一言もお話にならず、私も心配していたのです」
もしかして乗り物酔いするタイプだったのかな?
ゲンキーナが効くかもしれないから、出してあげようっと。
「ポチッとな! クリス様、きもちわるいですか? こののみものをのむと元気になりますよ」
私はそう言って、紙パックの口を開けてクリス様に手渡してあげた。
クリス様は素直に受け取ると、味を確かめるように一口飲んだ。
どうやらお気に召したらしく、ごくごくと喉を鳴らし、紙パックから口を離す頃にはすっかり顔色がよくなっていた。
「うまい。それに気分もよくなった」
「よかった! さあ、行きましょう!」
私は少し離れたところにいたお父様と、出迎えの騎士たちのところへクリス様の手を引いていった。
「みんなー! 遊びにきたよー!」
「これはこれは。クリスティアーノ殿下、チェレスティーノ様、マルチェリーナ様、遠いところをお越しいただきありがとうございます。よくいらしてくださいました。私はエスタンゴロ砦の責任者を務めるユリウスと申します」
エスタンゴロ砦の責任者と名乗る騎士がうやうやしく挨拶をする。
え、今日はそんな感じでいくの?
クリス様がいるから余所行きバージョンなのかな。
ユリウスって、前にうちで見かけたときはもっと雑な感じだったと思うんだけど。
私の頭をなでくり回して鳥の巣にしていったし。
そんなすまし顔しても、私はちゃんと覚えてるんだからね!




