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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
メナルドの街編

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水中適正

 クライフから手紙の話を聞いたのち、俺は出かける準備をする。


(ギンにこの状況を説明に行かないとな)

 

 あいつ(ギン)のことだ。

 さぞかし心配してる……かどうかわからんけど、早く説明したほうがいいだろう。


「なぁルミナリア」


「なんですか?」


「今からギンのとこに行くが、お前どうする?」


 一応、関係者であるルミナリアもいたほうがいい。

 俺一人でも昨日の件を説明するだけなら問題ないけど。

 特に用事がないようならご一緒にと、声を掛けておく。


 ルミナリアからの返事を待つ。


「そうですね、私も行きます。すぐに支度を済ませますので」


「あいよ」


 そんなわけで二人、城を出てギンの家へと向かう。

 ギンには昨日別れる前に、家にいくと伝えてある。


 あいつ、結構酔ってたけど覚えてるよな?

 これで家にいなかったら困るんだけど。

 



「おう、待ってたぞ。あがんな」


 家に到着する。


 少し不安に思っていたが、ギンは中で待っていた。

 どうやら余計な心配だったようだ。

 

 用意された椅子に座り、昨日飲んで別れたあとのことを話せる範囲で説明する。

 

 ルミナリアを城まで連れて行って寝かせたこと。

 両親が真龍で魔王クライフの友人であること。

 彼女(ルミナリア)がこれから城で暮らすことになったなど。



「……とまぁそんなわけだ」


 俺の話を興味深げにジッと座って聞いているギン。


「あの、本当にご迷惑をおけしました」


 一通りの説明が終わり、ルミナリアがギンに謝罪する。


「気にすんな……不幸な事故だ。紛らわしい酒を頼んだ俺にも原因がなくもない」


「……ギンさん」


「いや、なくもないじゃねえだろ」


 お前、迷惑かけた側だからな。


 そして主に迷惑を被ったのは俺だ。

 あとリーゼさん。


 あまり言うとルミナリアが気にするから言わんけどよ。


「しっかし、姉ちゃんが真龍の娘さんねぇ……」


「……そのことはあまり周りには言わないで貰えませんか、色々と面倒なことになりますから」


「わかってる。嫌いな奴の情報ならともかくな……これでも分別はつくつもりだからよ」


 ギンがルミナリアの肩にポンと手を置く。

 

 さりげないセクハラだ。

 本人にそんな意図はないかもしれんが。

 


「兄ちゃん、本当に魔王様と一緒に住んでたんだな」


「ああ、やっぱ信じてなかったのか?」


「いや、そんなことはない。兄ちゃんからは特別な気配がしたからな……俺の勘はこういう時外れねえんだ」


「ほう」


 なかなかに鋭い。

 第六感というやつか。


 さすがは俺の相方だ。


 だが……そうなると少し解せない部分もある。


「気づいているなら、もっとグイグイ探ってくると思ったんだが……お前の趣味を考えるに」


「勿論興味はあるさ……が、分別がつくって言ったろ。友人の内情を探るのは好きじゃねえんだ」


 ギンがトライデントの件を打ち明けた時も似たようなことを言っていたな。

 

 にしても友人……か。

 そういう言葉がすんなり出てくるのはなんつうか、悪くねえな。


「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」


「ま、まぁそれに、相棒(ダイダロス)探しで忙しかったしな」


 少し照れた表情を浮かべるギン。

 ごまかすように話を続ける。


「あと、最初の頃はあんま関わりたくないと思ったってのもあるが……好奇心で話しかけたことを後悔したぜ」


「最後のは少し余計だぞ」


 まぁ強引に依頼に巻き込んだからな。

 俺を騙そうとしたこいつにも問題はあるが。


「えと……なんだ、そのうち城を案内してやるよ」


 とはいえ、ギンには大分お世話になった。

 一人寂しく依頼を受けずに済んだのはこいつのおかげだからな。


 少しは喜ぶことをしてやりたい。

 


「おお、本当か?」


「……魔王さまがオーケーだしたらの話だけどな」


 今日の朝、ルミナリアの件で怒られたばかりだ。

 また無断で勝手に連れ込んだら怒られちまう。


 一応魔王さまの城ですからね。

 そうポンポンと誰でも連れてくるわけにもいくまい。


「まぁなんだ……だから依頼を受けずとも俺が生活に困ることはない。海にいる間も心配しなくていいぞ」


「ああ、安心して故郷に戻れるぜ、でもよ……」


「なんだ?」


「それなら俺、依頼を手伝わなくてもよかったんじゃねえのか? いや、文句があるってわけじゃねえんだがな」


 ギンの言いたいことはわかる。

 生活に困っていない俺がなぜ? と思ったのだろう。


「働くのは金だけが理由じゃないだろ? 仕事をして人との繋がりを作るのも大事だと思うぜ、充足感も得られるしな、何もしないでいると駄目になる」


「まぁな」


「それに、だから俺たちは出会うことができた……そうだろう?」


「ああ、間違いねえ。繋がりは大事だ。この出会いのおかげでダイダロスが戻ってきたわけだしな」


 ギンが強く頷く。




「んで、ギンはいつ頃故郷に戻るんだ?」


「ああ、明日朝には戻るつもりだ、できるだけ早く故郷の奴らを安心させてやりてえからな。街に来る時にも随分世話になったしよ」


「そうか、んじゃあ」


「見送りはいらねえぞ。どうせまた戻ってくんだからよ。相棒(ダイダロス)もいる今、旅の危険はそれほどないはずだ」


「……まぁ、お前がそう言うならいいがな」


「……道中お気をつけて」


「おう」


 そう言って俺たちはギンと別れた。

 割とあっさりしたお別れだ。

 どうせそう遠くないうちにまた会うのだしこんなものだろう。




 家を出て、ルミナリアと歩く。


「にしても海旅か……想像もつかんな。船上の旅ならまだしもよ」


 空はわかる、陸もまぁ……わかるよ。

 でも海は想像しにくいな。

 ほとんど未知の領域だ。


「私は陸旅のほうが好きですね」


「そうなのか?」


「はい、正直言って、海旅はあまり楽しくないです」


「そうか? お魚さんと一緒に泳ぐだけで楽しそうだが」


「あ~それよく言われますけどね、私たちにとっては見飽きた生物ですから」


「…………」

 

「それに、どこも大体同じ景色ですからね、刺激がないというか、水深などで生息している生き物に変化はありますけど」


「なるほどな」


 そういう意味ではまだ陸旅のほうがいいか。

 森、山、河、砂漠とバリエーションは多い。


「それだけ聞くとなんだかな~って思うが、少しは良いところもあるんじゃないのか? 観光スポットでもなんでもいいからよ」


「そうですね、陸と比べると少ないですが、海中には街もありますよ。限られた種族しか住めませんけども」


「へぇ、それは興味あるな……ってあれ? ルミナリアの実家も海中なのか?」


 だとしたら、ラザファムは奥さんに会えないんじゃないのか?

 雷龍は海の中に長時間潜れないだろ。


「いえ、私の実家は島です。同じ種族が集まってのんびり仲良く暮らしています」


 心配は杞憂だったようだ。




「話は戻りますが、アルベルトさんの場合、周到に準備しないと海旅は厳しいかもしれませんね」


「おいおい、俺が海の魔物に劣るとでもいいたいのか? 一応水中でも生きられるぞ」


 深海の水圧だってなんのそのだ。

 このミラクルボディはどこでだって生きていける。


「いえ、魔物が危険とかの問題ではなく。一番の問題は移動ですね」


「移動?」


「たぶん進んですぐ、方向がわからなくなりますよ。陸と違ってほとんど目印がないので、私やギンさんは感覚でわかりますけど」


 そりゃお前たちは水中適正が高い種族だからな。

 慣れてるだろうしよ。


「このあたりですと、比較的海旅も楽なんですけどね」


「そうなのか?」


「はい、クライフさまが整備した、休憩できて補給も可能な孤島がいくつかあるんですよ。グリフォン便などの中継地としても利用されていますね」


「なるほど」


「海も広いですからね、陸と一緒ですよ……適度に休息をとらないと体が持ちません。集団での旅ならまだしも、一人旅だと周囲を警戒する必要もありますしね」


 あいつ(クライフ)、いろいろやってんだなあ。


「まぁ興味あるそぶり見せておいてなんだけど……、俺の場合、ルミナリアが言った理由以外にも海旅が厳しい理由があるんだけどな」


 さっきルミナリアが言った移動に関係する問題だ。


「泳げないとかですか?」


「似たようなもんだな」


「私でよければ教えますけど?」


「ほう、それは魅力的な提案だな。だが、ルミナリアじゃ俺に泳ぎを教えるのは無理だ」


「む、これでも人に教えるの得意なんですが」


 俺の言葉に、少し頬をふくらますルミナリアさん。

 だがこれは、彼女のことを馬鹿にしているわけじゃないのだ。


「俺浮かないんだよ、それでも大丈夫か?」


「そ、それは……」


 残念ながら、努力でどうにかなるモノじゃない。

 それ以前の問題なんだ


 生体部分多めの俺は、他のガッチガチに鉱石多めで組まれたガーゴイルより比重は軽いが、それでもエルフなんかよりは重い。


 水中に落ちても死ぬことはないんだけどよ。

 ただ海の底まで沈んでいくだけ。

 

 とはいえ、魔法の力を借りれば、水中移動もどうにかならなくもないんだがな。


 翼があれば簡単に推進力を得られたんだけど。



 時間がある時にでも水中移動については練習しておいたほうがいいかもしれない。






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