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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
メナルドの街編

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トライデント3

「トッ、トライデントを拾っただとぉ!!」


 ルミナリアがトライデントを拾った。

 思いも寄らない言葉に声をあげ、反応するギン。

 彼女(ルミナリア)の肩をがっしりと掴む。


「えっ、ええ……以前海で拾いました」


 ギンの豹変ぶりに、さすがの彼女(ルミナリア)も吃驚して戸惑っている様子。

 今のギンに、相手を気遣う余裕はないらしい。


「いつっ? どこでだっ?」


「えっ、えっと……以前に海でっ」


 な、なんか会話がおかしいぞ……

 質問に答えてるようで、同じ事しか言ってない。

 ルミナリアが動揺している。

 珍しいのを見た気分だ。


 ギンが陸まで来て探し求めていた相棒(トライデント)

 有力な情報が手に入ったことで、ギンが興奮している。


「あのサハギン、ルミナリアちゃんに……」

「止めるか?」

「いや待て、ギリギリセーフだ」

「アウトだろ、肩摑むとか在り得ねえ」

「見ろよ、あのサハギンの顔を。あれはそんな邪な顔じゃねえ」

「普段の情報欲にまみれた面構えじゃねえ、何か事情があるのかも」


 ギルドの傭兵達がザワザワと騒ぎ出す。

 ただでさえ昨日の件で注目されていたのに、更に注目を浴びている。


(にしてもこいつら、ギン事を良く見てるじゃねえか、一方的な見方をしないのは評価できる)


 即座にギンを止めに入るかと思ったんだけどな。

 幸いなことに、今のところは様子見の方向で纏まっているようだ。



「それに勘違いだったら俺達のルミナリアちゃんからの好感度が下がる」

「止めるタイミングには気をつけねえと」


 いや、ただのヘタレな気もしてきた。

 外野うるせえ。

 

 彼女のファンには色んなタイプがいるようだ。

 今いるのはディフェンシブなタイプらしい。

 朝俺に突撃してきた奴とは異なるタイプだ。


 とはいえ、このままだとどう転ぶかわからん。

 ギルドの傭兵たちを刺激しないにこしたことはない。

 この状況をどうにかしなければ。

 ギンは今周りが見えていない。


「落ち着けギン」


 面倒なことになる前に、俺は二人の間に入る。

 

「ルミナリアから手を離せ。俺が困ってるのがわからないのか?」


「あ」


 ギンに冷静になるように促し、少し間を設けることにする。


「すまねえな、驚かせちまった。ごめんな」


「いえ、気にしないでください、何か事情があるみたいですし」



「とりあえず場所を変えないか?」


 人の多いこんな場所で堂々と話す事でもない。

 もう少し人の少ない場所まで移動する。


「エルザ、部屋借りてもいいか?」


 ギルドの一階には相談、商談など、人に聞かれたくない内密の話をするための部屋がある。

 部屋は受付に許可を取れば使用することができる。


「ギンさん、わかりました」


 エルザがギンに使用許可を出す。


 以前は許可を取らずに自由に部屋を使えたらしいが、某海から来た男がこっそり新人を個室に連れ込もうとしたため、悪用を防ぐ意味で許可が必要になったそうだ。

 ルミナリアを連れて個室へ、これはこれで目立つ気もするが、衆目の中で話をするよりはマシだろう。




 部屋に入り、幾分か冷静さを取り戻したギンがルミナリアに話を促す。


「じゃあ改めて、拾った時期と場所を詳しく頼む」


「はい、拾った時期は丁度この街に来たときですから三ヶ月前ですね、場所はここから約北東二百キロメートル先の海域です」


「三ヶ月前というと俺がダイダロスを失った時期と丁度重なるな、クラーケンと遭遇した海域とも近い、俺の相棒の可能性は高いな」


 ギンの言う通りだろうな。

 トライデントなんてそこらに落ちているわけがない。


 成る程、彼女は水龍だからな。

 広い海とはいえ、そういう偶然が起きることもあるのかもしれない。

 正直かなり低い確率だとは思うが。


「あの、事情を聞いてもいいんでしょうか?」


「ああ」


 ギンの口からルミナリアに、俺に話したのと同じ内容が語られる。

 ルミナリアはギンの話を真剣に聞いている。


「そんなわけで、三ヶ月前にクラーケンから逃げる途中に海中でトライデントを失くしたんだ」


「そういうことでしたか」


 理解したとルミナリア。


「そっ、それでだ! トライデントは?」


「それは、その……」


 ギンの問いかけに対して、言いよどむルミナリア。

 何か言いにくそうだな……

 彼女の顔に戸惑いのようなものが窺える。


「何だその顔? もしかして売ってしまったとか?」


 売ったとしたら、ちと面倒な事になりそうなんだが……

 トライデントの所有者を探さなければならない。


 拾った以上は基本本人のものだ。

 落とし物を拾って売ったとても誰にも文句は言えないだろう。

 決して俺の心が汚れているとかではないはず。


「街に来てから、武器屋や鍛冶屋とか可能性の高い所は優先して探し回ったが見つからなかったぞ、さすがに個人同士の取引まではわからねえが」


「いえ、売ったりしてませんよ。ちゃんと持ってますのでその点は安心してください。今は泊まっている宿の方にあります。ただその……」


 ルミナリアはトライデントの場所をご存じのようだ。

 だが何かを言い淀むルミナリア。

 今一はっきりしないな。


「いえ、見ればわかることですね。私がこれから宿に戻ってトライデントを取ってきますので、午後にまたギルドに集合でお願いします、その時に……」


「わかった、待ってる」


 俺達はルミナリアと一度別れる。


「まさかルミナリアが拾っているとはな、まだギンのかどうかはわかんねえけど」


「ああ、灯台下暗しというか。こんな身近に手がかりがあるとは思わなかった」




 そして午後、ルミナリアと合流する。

 朝の約束通り、トライデントらしき長いものを布に包んで持参したルミナリア。


 再びギルドの個室に入る。

 部屋に設置されたテーブルの上で、彼女が布を解くとトライデントが露になる。


「こちらになります」


「ダイダロスッ!!」


 お目見えと同時、ギンが相棒(ダイダロス)を両手で強く抱きしめる。


 これがギンの相棒のトライデント(ダイダロス)……

 二メートル近くあるな、ギンの背丈よりも大きい。

 三つに分かれている穂先から下の石突き部分まで青銀色に鈍く光っている。

 確かにこのトライデントからギンの魔力を感じる、だが。


(だがこのトライデント、ところどころ欠けてないか?)


 ギン曰く、クラーケンはトライデントを食べないんじゃなかったっけ?

 

「なぁギン、本当にこのトライデントで間違いないのか?」


 一応確認をしておく。


「ああ!! 永年一緒にいた相棒だ、間違えるわけがねえ!! ダイダロスッ、ダイダロスゥゥゥッ!!」


 そう言って、ダイダロスを強く抱きしめるギン。

 目には涙を浮かべており、もう離さないといったご様子だ。

 あれだけ愛されたら武器冥利に尽きるとうものだろう。


 まぁ何にせよ、トライデントが見つかってよかった。

 トライデントが傷ついているが、本人が言うなら間違いはないだろう。


 さて、一応ルミナリアに確認しておこう。 


「さっき言いづらそうにしていたのは傷があるのが理由か?」


「はい」


「傷は拾った時既に?」


「そうです、先ほどのギンさんの話を聞いて何が原因か予想はつきましたけどね」


「聞かせてくれ」


 ギンが置き去りにしてから何があったというのだろう。


「原因は多分クラーケンだと思います。アルベルトさんはクラーケンが何を食べるかご存じですか?」


「クラーケンが食べるもの? 普通に肉とかじゃないのか?」


 クラーケンが肉食だからギンは、大切なトライデントを捨てて、その身一つで場を離れたんじゃないのか?


「肉も間違いではないです。ですが、彼らが食べるのはそれ以外にもあるんです」


「それ以外?」


「はい、クラーケンは魔力も食べるんです」


「魔力も?」


 おいおい、てことはまさか。


「はい、トライデントは食べられませんが、中に含まれた魔力に反応して食べようとしたのでしょう、それで欠けたトライデントが残されていたのではないかと」


 魔槍に含まれた魔力って食べられるもんなのか?

 俺の内心の疑問を読んだようにルミナリアが答える。


「魔力だけ抽出して食べるのは無理なので、多分魔槍ごと食べようとしたんでしょう、触手で欠けたような跡もありましたしね」


「随分と大雑把な食事だな」


「正確には食べようとした(・・)でしょうか。トライデントが残っているということは少し齧って諦めたんだと思います。魔力が含まれているとはいえ、無機物ですからね、おいしくはないでしょう」


 なにそれ、食べる前に気づこうぜ、クラーケンさんよ。

 魔物に言ってもしょうがないんだろうけど。

 あまり頭は良くないようだ。


「トライデントはギンさんの魔力で強化されていて、かなり強固ですから、食べるのに苦労するでしょう。クラーケンの味覚がどうなっているかはわかりませんから絶対とは言えないですけど」


「成程」

 



 結果として、トライデントは戻ってきたが、無事とはいかなかったか。

 大切な相棒(トライデント)を傷つけられたギンの今の心境はどうなんだろう。


「どんな形であれ戻ってきてくれて嬉しい。そりゃあ欲を言えば無事に戻って来て欲しかったが、例え傷ついても相棒は相棒だぜ」


「ギン」

「ギンさん」


「それに諦めるのは早い、修復できるかもしれねえだろ?」


 俺達に「心配するな」と笑いかけるギン。

 落ち込んでいるかと思ったが。

 なかなか前向きな言葉が返ってきた。


 何はともあれ、トライデントが三カ月ぶりにギンの手に戻って来たのである。


 


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