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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
メナルドの街編

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ルミナリア4

「アルベルトさんは……何か私に恨みでもあるんですか?」



 ルミナリアの顔面に荷物袋をぶつけてしまった俺。

 

 これは、怒っているよなぁ、間違いなく。 

 顔面に袋投げつけられて、怒らない方がおかしい。

 

「恨みなんて……ないです」


 信じてもらえないかもしれないけど、本当に恨みはない。


 つい丁寧口調になってしまう。

 しょうがない、だって恐いんだ。

 相手は年下だけど、そんなのは関係ない。


「恨みがないのに荷物袋を投げつけてきたんですか?」 


「け、結果的には……そうなりますね」


「…………結果的には?」


 ルミナリアがこっちを睨みつけてくる。


「偶然なんだ、当てるつもりはなかった」


 あそこで強風が吹かなければ……

 足下に落ちるはずだったんだよ。


 言いわけにしか聞こえるかもしれないけど。


「当てるつもりはなかった? 気になる言い方ですね?」


「いや、その、えっと」


 焦りから、つい墓穴を掘ってしまう。

 ルミナリアが俺を問い詰めてくる。


 ど、どんな対応が正解なんだろうか?

 下手に会話を取り繕うと、泥沼に嵌りそうな流れだ。

 


「…………詳細をお聞きしても?」


 「あはは」と笑って、適当にごまかせる雰囲気じゃない。

 もうこうなったら素直になった方がいい、はず。

 



 俺は正直にルミナリアに話すことにする。


 ギルドでの握手の際、勘違いから手をヒッパタいてしまった件について、謝ろうと思って接触した事。

 荷物袋を投げたのは、彼女に近づくキッカケとするためだって事。

 強風が吹いたので、誤って彼女の顔に袋をぶつけてしまったこと……


 冷静になってみると、この作戦はない。

 色々と常軌を逸してる気がしてきた。


 だが、ルミナリアは黙って俺の話を聞いてくれた。 


 そして……



「子供ですか……」


 話を聞き終わった後、彼女はそう言った。

 なんとも言えない表情のルミナリア。

 


「じ、事故だったとは言え、すまなかった」


「…………」


「その、あれだ。握手の時といい、俺はお前さんと喧嘩したいわけじゃないんだ、困らせるつもりはない」


「……とてもそうは思えなかったんですけど」


 だよな、自分でもそう思う。

 とても友好的な態度ではなかった。

 やっかいなのに絡まれたと、彼女は心の中で思っているだろう。


「以前の握手の時はちょっとまぁ、精神が不安定だったんだ」


「じゃあ先ほどは精神が安定してるのに、袋をぶん投げてきたんですか?」


 駄目だ、言い返せない……

 彼女から見たら、どう考えても頭のおかしい奴だもんよ。


 とにかくまずは謝ろう。

 簡単に許して貰えるとは思わないが……


「本当に悪かった、握手の件もすまなかった」


 もう余計な事考えずに、素直に謝った方がよかった。


 そしたら、もっとなごやかな雰囲気になったかもしれん。

 今よりは百倍マシな空気になったはず。

 仲直りもできたかもしれない。


「そんなわけでして……、今後は仲良くできればいいと思って……ます」


 今更ではあるが、一応俺の気持ちを伝えておく。

 自分でも虫のいい話だというのは理解している。



「…………」



 だが、俺の願いも虚しく……


 何も言わないまま、俺に背中を向けて立ち去ろうとするルミナリア。



 悪いのはどう考えても俺の方だ。

 しょうがないとわかってはいる。


 ライオルみたいな性格悪い奴に嫌われる分には、どうとも思わないんだけど。

 今回のはちょっと堪える。


 ギンにも申し訳ないな。 

 

 この場で直接文句を言ってくる奴はいなかったが、昼間の公園だ。

 袋をぶつけた場面の目撃者もいる。


 俺がルミナリアを傷つけたと噂が広がるかもしれない。

 例え本人が言いふらさなかったとしてもだ。


 街の人全員が彼女の味方というわけではないだろうが、味方が多いのは事実だ。

 その彼女に嫌われたとなると、依頼で俺と組んでくれる奴も見つからなくなるだろう。


 それどころか、何かしらの嫌がらせを受ける可能性だってある。

 

 せっかくギンが色々動いてくれたってのに。

 俺って奴は何をやってるんだか。


 謝んないとなあ、ギンには……

 いかん、これ、ちょっとへこむわ。


 らしくもなく、ウジウジしてしまう。

 自己嫌悪に陥いりそうだ……



 だが、そんな俺に救いの手を差し伸べる者がいた。




「待って!!」



 突如公園に響いた高い声。

 声がした方を振り向く俺とルミナリア。


「あなた達は……」


「お姉ちゃん達、喧嘩はダメだよ」



 そこに現れたのは、公園でボール遊びをしていたエルフの幼い子供達。

 本当に予想外の相手だった。


 少年の一人が代表して俺達に話しかけてきた。


 

「仲直りしようよ、誰にでも失敗はあるよ」


「それは……そうですけど」


 少年たちの登場に困惑するルミナリア。

 だがお前はわかっていない。


 一番困惑しているのは間違いなく俺だ。

 まさかこんな援軍が駆け付けるとは思わなかった。



「それに……お兄ちゃんがお姉ちゃんに袋を投げたのは、僕たちにも責任があるんだよ、お姉ちゃん」


「……どういう事かな?」


「ガーゴイルのお兄ちゃんの様子がおかしくなったのは、僕たちがボールで遊んでいるのを見た後なんだ……。お姉ちゃん……これがどういうことかわかる?」


 

 語りだす、エルフ少年……

 責任……か。

 

 確かに、この少年達がボール遊びをしなければ、俺はあんな作戦を考案することはなかっただろう。

 どうルミナリアと接触しようかと考えていた時に、丁度少年たちがボールを彼女(ルミナリア)の所に転がした事で、この作戦が脳裏に閃いたのだから。

 まぁ作戦といっても、ボールを荷物袋で代用しただけなんだけどな……



 俺は少年の言葉の続きを待つ……

 にしてもこの少年、まさか……俺の心を見透かしているのだろうか。



「お兄ちゃんは、お姉ちゃんと一緒にボール遊びがしたかったんだ」



 あ、そんなことはなかった。

 斜め上の見当違いの回答だった。


 だが本当にどういうこと??

 どうしてそんな結論に至ったんだ?

 少年の真意が測れない。



「ボール遊びはすごく面白いからね」


「それは……いくらなんでも違うかと……」


 ルミナリアが少年の誤りを指摘する。


「だって、僕たちがお姉ちゃんにボールを返して貰った後、見たんだよ僕」


「?? 何を?」


 子供達に問いかけるルミナリア。


「僕らのボール遊びを見て、ガーゴイルのお兄ちゃんが笑みを浮かべて木の影で袋を振り回し始めたのを……」


 作戦前のシミュレーションの最中の話だな。

 見られていたのか、あの時の俺の姿を。

 集中していて気づなかった。


 頭の中だけでシミュレーションしていたつもりが、体まで動いていたらしい。



 (完全に危ない奴じゃねえか……)



「僕らがボール遊びをしているのを見て、お兄ちゃんもボール遊びがやりたくなったんだよ。でも僕たちは皆と遊んでいるから、ベンチで座って暇そうなお姉ちゃんをボール遊びに誘おうとしたんだ」


 暇そうなって……

 ルミナリアは読書中だったんだが。


 まぁ子供の目から見るとそう見えるのかもしれないけど。



「そんな……馬鹿な」


「自分でも気づいてないかもしれないけどね」


 なんてことだ……

 俺の潜在意識にそんな感情が眠っていたというのか。

 考えもしなかった。


「…………」


 いやいや、そんなわけあるか。


「僕にはわかるんだ、僕らがボール遊びをしていると……外からうらやましそうな表情で見てる子がいるんだ、その子の顔とそっくりだった。あの時僕がお兄ちゃんをボール遊びに誘っていれば……」



 どんだけボール中毒なんだよ俺は……



「……あのな、それは勘違いだ。大体、俺はボールを持ってないんだぞ」


「お兄ちゃん、さっきお姉ちゃんに袋を投げたよね?」


「あ、ああ」


「ボールがないから袋をボール代わりにしようとしたんじゃない?」



「それは……まぁそうだ」


 困った事にその部分に関しては合っている。



「う、嘘でしょう?」


 何だコレ、どうしてこんな事になってんだよ。

 ルミナリアも混乱しているが、俺にだって意味がわかんねえよ。



「だからほら、喧嘩しないで一緒にあそぼう!! 皆でボールで遊べばもっと楽しいよ」


「「……」」



「ほらお姉ちゃんも、お兄ちゃんも早くっ!」


「お、おお?」

「え、ちょっとまってっ!」


 俺たちの手を引く、エルフの少年達……

 よくわかんねえが、こうなったらもうヤケクソだ。

 

 全力でボール遊びをしてやるぜ!!


「うおおおおおおっ!!」


「お兄ちゃんっ、ボール高すぎて落ちてこないよ~」


 ルミナリアも子供達の要求を拒否することは難しかったようで、夕方までボール遊びに付きあうことになった。






 


 くぁ~、くぁ~、くぁ~ 


 空を飛ぶクライムバードの鳴き声がする。

 夕方、あたりは大分暗くなってきている。


 公園のベンチの隣には、先ほど喧嘩した少女(ルミナリア)の姿があった。

 遊んでいた子供達も家に帰り、公園には俺達しかいない。


 結局子供達が去ってから、俺とルミナリアは公園のベンチでボ~ッとしていた。

 せっかくの午後の自由時間がこんなことになるとは思わなかった。

 

 子供達が去ると昼に別れた時と同じ、不機嫌そうな表情に戻る。

 それでも昼よりは、ほんの少し表情が和らいでいるようにも見えるのは気のせいだろうか?


「なんでこんなことになったんでしょうか?」


「俺にも……よくわからない」


「結局原因は何だったんですか?」


「最初に俺が話したので合ってるよ」


「そうですか……」


 だがあのまますぐ、喧嘩別れしなくて済んだのは子供達のおかげだ。

 一応感謝はするべきなのかもしれない。



「改めて……その、ごめんな」


 俺は彼女の方を向き直り、頭を下げる。

 若干の間をおいて、ルミナリアの口が開く。


「……読んでた本、駄目になってしまいました、もう読めないです」


「そうか」


「楽しみにしていた本で、シリーズモノの二巻目で、一生懸命探してようやく見つけた本だったのに……」


 ルミナリアの口から不満が零れる。

 それも当然だろう……

 

「どうしてくれるんですか?」


「…………」


「あなたのせいですよ、あなたが余計な事をしなければ、こんなことにはならなかったんですから」


 ああ、わかってるよ。

 俺があんな事をしなければ、こんなことにはならなかった。


「いい大人なんですから……」


 その後も俺へのお叱りは続く。

 今回は全面的に俺が悪い。

 黙ったまま、大人しく文句を受け入れよう。



「あんな事されたら誰だって怒りますよ、落ち込んでいるみたいですけど、被害者は私なんですからね」


「そう……だな、すまなかった」


 謝り続ける俺。


「本当に反省してるんですか?」


「本当に反省してます」


 彼女の声は途切れない。


 許して貰えるとは思わないが、せめて誠意だけは見せよう。

 彼女の気が済むまで頭を下げていよう。


 そして……


「はぁ……………………しょうがない人ですね」


 ため息を吐き、ルミナリアの手が動き出す。

 これはもしかして…………


(ギルドで不成立だった握手のやり直し?)


 本当に許してくれるのだろうか?

 こんな事をしでかした俺を。


 多分無理だと思いつつも……

 ちょっとだけ期待してしまう、自分がいる。


 俺は彼女の前におずおずと右手を差し出す。

 ルミナリアが俺の手を握る素振りを見せ……



 パチンッ



「「…………」」



 ヒッパタかれた。

 だ、だよ…………な。

 あの子供達のおかげでもしかしたら……なんて思ったけど。

 

 あんだけの事しておいて、許してくれるわけがないよな。

 甘い希望はあっけなく、打ち砕かれ……





 


「これで……おあいこです」



 彼女の口調が……一変した。


「……え? え?」


「握手を拒否されるのって、結構傷つくでしょう?」


 顔を上げるとそこには、先ほどまでの俺を責める表情はなく。

 しょうがないなぁって感じで、笑みを浮かべたルミナリアがいた。



「今回は許します、子供達に感謝してくださいね」


「え、あ?」


 そして、差し出される右の手。

 これって、一体……


 まだ現実が認識できていない。

 

「どうしました? 仲直りするんですよね? いいんですか、握手しなくて?」 


「あ、あ……」


「早くしないと、明日は気が変わるかもしれませんよ。本当は許すつもりはなかったんですから」

 

 え、笑顔がまぶしい。

 何なのこの娘、もう夜なのに後光が差して見える。


「い、いいんですか?」


 つい確認してしまう。

 だって、なぁ……。


「私が聞いているんですよ。わざとじゃないみたいだし、先ほどの件は水に流します」


 微笑むルミナリア。


 ああ、今度こそあの時のやり直しだ。

 彼女の手に、俺の手を重ねて握手の完成だ。


「本当にゴメンな、子供みたいな事をしてよ」


「今度からは普通に話しかけてくださいね、これでもかなり落ちこんだんですよ」


「噂通りいい子だったわお前、疑った自分が恥ずかしい」


 俺は彼女の手を強く握る。

 顔を赤くして照れた表情を浮かべるルミナリア。


「いい子だわ、本当にいい子だ、自分が汚い生き物に思えてくるぐらい」


「いいですから、もう、恥ずかしいのでやめてください」


 ああ、許してくれるとは思わなかったなあ。

 彼女の広い心に感謝だ。




「風俗街にいたら似た娘を指名するくらい、いい子だわ」


 行ったことねえけどな……


「…………っっ!! だから一言多いんですよっ!!」



 ルミナリアも俺の手を強く握り返してくれた。

 なんか結構、いや、かなり力が入ってる気がするけどな。

 


 無事彼女(・・)と和解することができて、

 許してくれて本当によかった。 



 エルフのガキ共!!

 今度会ったら好きなもん奢ってやるからな!!




 


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