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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
リドムドーラの街編

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魔王会談2

書籍三巻目ですが「そのガーゴイルは地上でも危険です〜半魚人と最強ガーゴイルの遺失物捜索記〜」というタイトルで、アマゾンなどで既に予約が始まっております(発売日は6月23日)。

こちらも是非よろしくお願いします。



「…………か、髪の毛?」


「ええ、そうよ」


 ベリアの声が室内で残響する。


 指先の銀髪を半ば強引にベリアに取り上げられる。

 手を動かし、様々な角度から髪を見るベリア。


「おそらくだけど、これは私の髪。髪には私の魔力が含まれている。だから先ほどの私の魔力に反応して、クライフの鞄から袋ごと引っ張り出されたと考えればこの現象は理解できる」



 落ち着いて整理しよう。


 マジックバッグの荷を取り出すには外の所有者の魔力と中の荷の目印の魔力が一致すればいい。

 ベリアは俺のマジックバッグに触れてすらいないが、髪の毛にはベリアの魔力が含まれている。

 これは髪の毛にベリアの魔力による目印が付けられているのと同義だ。

 中の髪の魔力と外のベリアの魔力が一致したからこうして反応して出てきた。


 なるほど、ベリアの話には説得力がある。


「「……」」


 ……な、などと冷静に考えている場合ではないな。

 今自分が置かれている状況を認識する。

 ジッと俺を見つめるベリア、互いの視線が交錯する。


 今の彼女はどんな感情を抱いているのか?

 自分の髪の毛が俺の荷物から出て来た。

 下手をすればストーカーと間違えられてもおかしくはない案件だ。


 普通、いい気分はしないだろうし、彼女が強い疑念を持つのは当然のことだろうが……。


「もう一度聞く。何故アナタが私の髪の毛を持っているの?」


「……し、知らない、知らないぞ俺は」


 ベリアに訴えるも訝し気な顔を浮かべたままだ。


 吸血鬼真祖の髪は魔法の優秀な補助媒体となるため価値は相当高い。

 マジックバッグ同様に欲しがるものは多いだろう……が、俺は本当に知らないわけで。

 ベリアを納得させるのはどうすればいいか考えていると……。

 どこかから振動音が聞こえて来た。


「な、何かが震えているぞ」


「……え?」


 話題を逸らすように、逃げるように俺はベリアに伝える。

 音を聞くに振動源はベリアの服の内ポケットのようだ。


 ベリアがポケットから円状の物体を取り出す。

 直径十センチメートル程度の円形の金盤。

 盤の中央に細い針が取り付けられており、針の先には赤い宝石が見える。


「う、うそ……そんな。ま、まさか……」


 一見懐中時計のように見えるが、ベリアの驚きようを見るに時計などではないはずだ。

 宝石はチカチカと点滅し光を放ち、針が振り切れんばかりに乱回転を始める。


「……そ、それは?」


「この針が急に動き出したということは? 術者の強力な魔力反応を感知した? いや……でも、針はこんな回転する動きはしないとマーレルは言っていたし、だけど、でも……」


 ベリアから冷静さが消えていく。

 俺の質問を無視して盤を凝視しながら一人で考え込んでいるベリア。


 針の回転速度は加速度的に増え、最終的に針は盤からはじけ飛んで壁に刺さる。


「……クライフ」


「な、なんだ?」


 今日一番の低い声を出すベリアに俺はおそるおそる返事をする。

 先ほどまで和やかだった空気が一瞬にして張り詰めたモノに変化している。


 鋭い視線を送るベリア。

 かなり感情が高ぶっているのか、赤い目が光っている。


「このアイテムはね……とある目的でウチの錬金術師が開発したレーダーなの」


「レーダーだと?」


「そう、犯人を捜すための……ね。まだ実験段階の試作品だけど……」


 こちらの反応を探るように、ゆっくりと説明をはじめるベリア。

 だが生憎と俺にはベリアが何を言っているのか理解できない。


「今から約一か月前、わた……私の配下のある人物に呪いが掛けられたの」


「……呪い、だと? どんな呪いだ?」


「…………話を続けるわ。呪いは回復魔法で解呪できればよかったんだけど、これが本当に物凄くやっかいで面倒で醜悪な呪いでね。今のところ解呪するには術者は探して解かせるしかない。だけど術者が誰なのか、その手掛かりはなかった……これまでは」


 一気に語り続けるベリア。


 質問をスル―されたが、ベリアの言いたい話がなんとなくわかりかけてくる。

 しかし……アルベルト然り呪い関係の話をよく聞くものだ。


「試作品とはいえ、それでもこうして今、反応したのには意味があると思える」


「ばっ、馬鹿な! つまり、こういうことか? 俺が呪いをかけた犯人だと?」


 俺は大声を出して全力で否定をする。


「そこまでは言ってないわ。本来は術者の魔力に反応して術者の方向を針が差すらしい……だからこんな激しい回転などしない」


「……」


「けど……これまでピクリともしなかったレーダーが、クライフがバッグに所持していた髪の毛に異常な反応をしたのも事実。アナタが呪いと何かしらの関係がある可能性を否定できない」


「……お、俺は犯人ではないぞ! 髪の毛など俺は知らないっ!」


「……本当に? 額から脂汗が流れているわよ」


「とっ、突然こんなことになれば焦りもするに決まってる!」


 嘘をついていないか、観察するように俺の表情を見るベリア。

 必死に訴えるもベリアは納得せず疑念は晴れない。


 な、何故、俺がこんな目に? どうすればわかって貰えるのだろうか?


「ならどうしてレーダーは動きだしたの? クライフに関係ないとすれば原因は?」


「……そ、それは」


 必死に考えるが頭が回らない。

 こんな突発的な状況で答えなどわかるわけもない。


「お、俺たちを陥れるための誰かの陰謀……とか?」


「いっ、陰毛ですってっ! 馬鹿にしているのっ!」


「な、何を言っている? 陰謀だ、陰謀! 落ち着いてくれ」


 どんな聞き間違いだ……鬼気迫る表情で迫ってくるベリア。

 普段冷静な彼女らしくない取り乱し方だ。


「俺はベリアに恨みなどない。だ、大体だ、これから仲良くやっていこうという相手にそんな馬鹿な真似をして何のメリットがあるというんだ? こうして露見して、いくらなんでも間抜け過ぎるだろう?」


「そ、それは……そうだけど」


「それに、レーダーは試作品なのだから誤作動の可能性も否定できないはずだ」


 俺はベリアに冷静になるように訴える。


「……わ、わかったわ、お互いに落ち着くべき、ね」


 どちらかといえばソチラがな……という言葉を飲み込む。

 沈黙の時間が続き、少しだけ冷静さを取り戻す。


「……ふぅ、クライフ」


「なんだ?」


「確かに腑に落ちない部分も多いし、とりあえずこの場は保留にする。だけど、この件をこのままにして傘下の話を進めるわけにはいかない。はっきりさせないと駄目だから、本国からこのレーダーを作った錬金術師を呼ぶ。そうすればおそらく何かわかるはず……いい?」


「いいだろう……望むところだ、疑いが晴れるまで好きに調べればいい」


 俺はベリアの目を真正面から見る。決して自分から逸らしたりはしない。

 後ろめたいことなど何もないのだから堂々とすればいい。


「錬金術師とやらが来るまで、俺はこの街で大人しくしていることにしよう」


「いいの? できる限り急いで来させるけどかなり時間がかかるわよ」


「やむを得ないだろう。それで無実が証明できるならな。メナルドのことは気になるが、俺がそちらの信頼と協力を得るためにも……ここを離れるわけにはいかない」


「……」


「ただ、一つ頼みたい。街で待っているだろう妹には……このことを知らせたい」


「……わかった」


 アルベルトやマリーゼルには済まないが、俺はリドムドーラに残ることに決めた。


 留守を伸ばす不安はあったが、妹とあのラザファムに勝利したというアルベルトの実力を信じて。


 その後、部屋に戻って来たコルルを交えて状況説明を行う。

 コルルは当然のように困惑、混乱していた。



 魔王会談は中断され、城の最上階で日々を過ごしながら現在の状況へと至る。






「……と、いうことがあったわけだ」


「……」


「そこで聞きたいのだが、ベリアの髪の毛にマリーゼルは心当たりがないか? マジックバッグは最近までマリーゼルが使用していたわけだからな、もしかしたら何か知っているのではないかと思ったんだ」


「……」


「……マリーゼル?」


 黙り込んだままの私を兄様が見ている。

 兄様の話を聞き終え、私は呆然としていた。


「……あ、ああっ、ああああっ」


「ど、どうした? マリーゼル?」


 床にうずくまって頭を抱える私の姿を兄様が心配そうに見ている。

 私の心は後悔と懺悔の感情で支配されていた。


「……し、だったのか」


「???」


 会談が中止となったキッカケ。

 マジックバッグから出て来たベリアの髪の毛……その記憶が蘇る。


 ゴブリンの集落でアルベルトと出会った時のこと。

 お近づきの印と言われて譲ってもらい、マジックバッグに入れたベリアの銀髪。


 そして、あの場で犯人探しレーダーが反応した理由にも思い当たる。


 渡されたベリアの髪の毛にはアルベルトの保存魔法が掛けられている。

 アルベルトの魔力が、犯人の魔力が……髪の毛には付着しているのだから。

 反応しても不思議じゃない。



 今回の騒動、原因はアルベルトだけじゃなかった。


 私は髪の毛をマジックバッグに入れた……それを兄様に伝えていなかった。

 マジックバッグの中身は当人以外には取り出せない。

 空間にも余裕はあるから、兄様の邪魔になることもない……と。

 私の旅していた時の荷物はそのまま入れっぱなしだった。



 兄様、ごめんなさい。




 わたしが原因だったあああああああああっ!

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