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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
リドムドーラの街編

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諜報員と会う

 翌日、リーゼのノックの音で目が覚める。


 起きた時にはお昼を少し過ぎていた。

 今日から本格的に動くことになる。

 これだけ寝れば、夜中の活動中に眠くなって支障が出ることもないだろう。


 さ、出かける準備をしようか。


 昨日の今日でまだ少し慣れないフルプレートメイルを苦戦しながら身につけていく。

 また装備するのが面倒なので脱がずに寝ようとしたのだが、ベッドが重量でミシミシ音がしていたので諦めた。

 大剣を背負って、リーゼの待つ部屋の外へ。宿を出て移動を開始する。

 これから向かうのは昨日巨人たちと一悶着あった酒場だ。


 酒場のオーナーはクライフの諜報員の一人である。

 リーゼが頼んだ超細かいサラダの注文を合言葉に、面会の場をセットしてくれるようだ。

 ちなみに、オーナーはエルフ族だが店の従業員全員がクライフの間諜というわけではない。

 間諜だと極力怪しまれないために、フェアリーなどの他種族も雇っている。

 さすがに従業員全員がエルフだと怪しまれるしな。



 昨夜通った道をリーゼと歩く。


 夜と昼、同じ道でも雰囲気がかなり違う。

 通行人が昼は夜の半分くらいか?

 深夜よりも昼のほうが静かっていうのも少し妙な感じがするな。


 街は観光客の割合が多いため、夜中遊んだ彼らは日中は疲れて眠っているのだろう。

 風俗店は日中も営業している店はあるのだが、基本的に街が賑わうのは夜だ。

 夜間のほうが出勤している嬢の数も多くサービスも充実している。

 ちなみに、ここまでの説明だと歓楽街以外何もない街のように聞こえるかもしれないが、そんなことはない。

 歓楽街が街一番の収入源というだけだ。


 山脈地帯であるリドムドーラ周辺では良質な鉱石を採取できる。

 この街にも傭兵ギルドがあり、鉱山付近の安全確保のために周辺の魔物の討伐依頼が頻繁にあるとか。


 ま、この街でギルドの依頼を受けるつもりはないけどな。




 十五分程歩き、昨日の酒場に着いた。


 店内席に案内される俺たち。

 予定時間より早く来たので、目的の人物はまだここに来ていない。

 空いた待ち時間を使い食事をする。

 朝から何も食べていないからな、腹が減っては満足に動けない。


 食べ終えて、リーゼと適当に話をしていると黒いローブを纏った女性が現れた。


「申し訳ありません。お待たせしてしまいました」


「大丈夫よ。早く来て食事していただけだから」


 諜報員の女性はリーゼに一礼して、メーテルと名乗った。

 なおこの街にいる諜報員は全員女性だ。

 理由は単純で、女性ならサキュバスの誘惑で魅了されないためだ。

 軽い紹介を終えたのち、彼女が自分の住居に移動したいと提案したので俺たちは頷く。

 内密の話をするのにはその方が都合がいい。


 会計を終えて、彼女の住む街の北東区画へと移動する。

 酒場から三十分くらい歩き、彼女の家に辿り着いた。

 眼前には少し古ぼけた石造りの平屋の家。


 メーテルさんが施錠された扉の鍵を開け、建物内部へと移動する。

 六メートル四方の室内に、二列に置かれた木台。

 台上の籠には様々な形状の小瓶があった。


 奥の部屋でメーテルさんが飲み物を用意している間、俺は観察するように歩いてみる。

 瓶の中には赤や青の液体が詰められ、ポーション、マジックポーションなどと記載されている。

 他の籠には解毒薬やら浄化魔法の込められた止血用の白い布なんかも入っている。

 隅っこの作業スペースらしき空いた場所には乳鉢やら、すりこぎやらが置かれていた。


 メーテルさんが紅茶が入ったと呼びにきたので、見るのを中断して奥の部屋のテーブルにつく。


「ここって薬屋さんだよな?」


「そうです。私の表向きの仕事ですね。それとウチの店では魔法屋も兼ねてます」


 魔法屋はその名の通り、自身の魔法を商売道具にして客に提供する店だ。

 魔法の得意でない人のためのサポートサービスである。


「軽度の傷や病なら魔法でも十分癒せますしね。私の魔法で対応できない怪我や病気などは薬で処置をする、といったところです」


「なるほど」


 要は状況に応じて使い分けるってことか。

 魔法は便利だか万能ではない。

 魔力ありきなので、緊急のアクシデントで患者が多数発生し、術者が魔力切れを起こせば回復魔法や治癒魔法が使えなくなる。

 また、魔法レベルは術者の力量に完全に依存するため、術者によっては重度の状態異常に対応できない。そういう時は薬を併用して処置をするってことだな。

 リーゼのように魔力量も多く、高レベルの回復魔法、治癒魔法が使えれば問題ないが、それを一般の基準にしてはいけない。


 余談だが、魔法屋は回復魔法の他にも傭兵たちが討伐依頼に出かける前に付与魔法を装備品などにかけることで、一時的なチームの戦力向上の貢献したりする。

 そういった安全対策の積み重ねが生き残りに繋がるものだ。

 付与魔法はゴブリンの集落で出会ったドライアドのメアが得意だったな。


「でもなんで薬屋さんを選んだんだ?」


「この街で情報を集めるのに都合が良いんですよ」


 メーテルさんが理由を説明してくれる。

 人の賑わう所には情報が集まる、この街でいえば風俗店などの歓楽街だ。

 お酒などで口が軽くなり、客の気が緩みやすく色んな話が聞けるそうだ。

 その手の関係者と繋がりを作るのに薬屋はうってつけとのこと。


 性サービスを行う店で問題になるのは性病である。

 性病は本人の気づかない間に進行していることも多く、そのまま放っておけば感染し蔓延していく。

 対策として優良店では働く女の子たちに健康診断が義務付けられているそうだ。

 性病は状態治癒魔法で治すことができるが、サキュバスは使えない。

 そのため、魔法が使えるメーテルさんは結構な頻度で店に出張しているらしい。


 薬の面でも避妊薬、媚薬など有用な薬を定期的に店に卸しているそうだ。

 その伝手でサキュバスの女の子や店の従業員たちと繋がりがあるらしい。


 グビリと紅茶を喉に流しこみ、俺たちは本題に移ることにする。


「さて、それじゃ聞かせてくれる? 兄様の現況とか、わかっていることを全部」


「はい、クライフ様の状況ですが今も城に幽閉されていると考えます。城で大きな戦闘行為などは発生しておりませんし、最上階のどこかの部屋にいらっしゃるのではないかと……」


 イモータルフォーのベリアでも、クライフと交戦したら相応の被害は城に生じるはずだ。


「兄様は無事の可能性が高い。まだ最悪のパターンにはなっていない……か」


「おそらくですが、ただ……」


「何?」


「これもあまり想定したくないケースですが、直接的な戦闘にならずとも魔王コルルの誘惑にクライフ様が抵抗できなかった場合は、既に魅了されている可能性もあります」


 ああ、そうなると非常に面倒だな。


 サキュバスの保有する固有能力『誘惑(テンプテーション)』。

 対象の性欲を倍増させ、心を性欲で支配し、他のことを考えられないようになってできる心の隙を狙い、自身の支配下に置く。


「つっても、『誘惑(テンプテーション)』は同レベルの相手だと効果が薄いはずだよな」


「ええ、相手がコルルでも兄様なら十分抵抗できると思うんだけど」


 まぁ可能性は低いと思うが、それでも絶対に大丈夫とは言えない。

 普通に考えてクライフなら抵抗できるだろうが、相手も同じ魔王の一人である。

 元来の性欲が強い場合は魅了にかかる恐れがある。


「つまりあれだな、もしクライフが人並み以上のムッツリスケベだった場合は既に魅了されているかもしれないってことだな? メーテルさん」


「え、ええと、その、いえ」


 俺の発言に戸惑うメーテルさん。

 確かに自身の主人に対して答えにくい問いだったな。

 だけど、はっきり言えばそういうことだ。


「に、兄様に限ってそんなことはないわよ。そんな素振りを見たことないわ」


「俺だってそう思いてえよ、だけど……」


「な、なによ?」


「そういうのを隠すからムッツリなんだ。大体、そんな生々しい場面を妹に見せるわけないだろ」


「や、やめなさいよっ! なんか不安になってきたじゃないのっ!」


 不安がるリーゼさん、脅かすつもりはなかったんだけどな。

 まぁアイツがどスケベかどうかって、ここで議論しても答えはでないが。


 でも真面目な話、クライフが魅了されていたらガチでまずいんだよな。

 クライフのイメージダウンとかそういう問題じゃなくてさ。

 魅了状態だとすると相手側に魔王が三人いることになる。

 クライフの魅了を解くにも簡単にはいかない。


誘惑(テンプテーション)』は対象の魔力を通して魅了しているため、内部魔力を一気に搔きまわすことで魅了は解ける。

 クライフなら俺が手助けして一時的にでも自分の意識を取り戻せばどうにかできるだろう。

 ただ、なんにせよクライフに直接接触することが不可欠だ。

 術者のコルルが自発的に解くことはないからな。


 一応、コルルを殺して魅了を解くという手もある。

 ランヌが死んだ時に俺の精神支配が解けたようにな。

 そうなったら間違いなくベリアと最後まで戦うことになるだろうが。


 と、あまり悪く考え過ぎてもよくないな……可能性としては低いはずだし。


 大体、もしクライフがコルルの魅了にかかるなら無防備に一人で会談に向かうはずはない。

 魅了されない自信があるか、なんらかの対策をしていると思う。


「とはいえ、真偽くらいは調べておきたいところだな」


「ええ、メーテル、兄様の姿を直接確認することは無理かしら?」


 魅了状態なら見ればわかる。

 顔が赤かったり、目が少し虚ろだったりな。

 一目だけでも姿を確認できればいいんだけど。


「申し訳ありません。城の最上階に入り込むのは私たちでは不可能です。最上階に出入りできるのはコルルに信頼が置かれている者だけです。そこまで侵び込もうにも城の内部にはコルルナイトと呼ばれる者たちが多数徘徊しております」


「コルルナイト?」


「コルル直属の近衛兵で、元は凶悪な犯罪者だった男たちですね。実力はあっても人格に問題がある彼らをコルルが誘惑能力で魅了して支配下に置き、忠誠を誓わせているのです」


 なるほど城の警備は厳重らしい。

 コルルナイト、間諜では無理でも俺ならそんなの問題にしないだろうが。

 いっそ、俺が直接城に忍び込みたいところなんだけど……。

 城にはコルルにベリアがいて、本当に最悪の場合はクライフも敵になる。


「せめてベリアが城にいなければ強引な手段も取れるんだけどな。侵入して遭遇しても対処できるはず」


「……ベリアだけならチャンスはあるかもしれません」


「何?」


「魔王ベリアですが、どうも夜中の決まった時間に城を留守にしているとの話があります。東の方角にある最近発見された温泉がお気に入りで、毎夜出かけているとか」


 東の温泉? そういや俺たちが通ってきたのも東側だったな。

 もしかしてあの場所のことか?


「その話の信頼性は?」


「断言はできかねます。ですが城の厨房で働く者もここ最近、夜食の開始時間が遅くなったと話していますし、可能性は低くないかと」


「そうか……うん?」


 隣を見ればリーゼが口元に手を当てて考え込んでいた。


「リーゼどうした?」


「まさか、まさか……あれってやっぱり」


「何か今の話で気になる点でもあったか?」


「うん……アルベルト、もしかしたら私たち魔王ベリアに会っていたかもしれない」


「……な、に?」


 リーゼから予想外の言葉が出てきた。

 おいおい、突然何を言い出すんだ?


「一昨日夜、温泉にはもう一人いたって話したわよね。一緒に話した女性はリアさんて名乗ったんだけど」


「リア……ベリアか。だけど待て、お前は昔ベリアに会ったことあるんだから偽名でも見れば気づくだろ?」


 偽名ったって結構安直だし、姿を見れば連想しそうなもんだけど。


「当時の姿のままならわかると思う。だけどもし、認識阻害魔法でベリアが私に幻影を見せていたなら、わたしじゃ見破れないわ」


「……なるほど」


「ベリアの髪は銀色だけど、彼女の髪は黒髪だったの……だから違うと思ったんだけど」


「事情はわかった。だがどうして俺を呼ばなかったんだ? 俺なら幻影を間違いなく見破れるぞ」


「だ、だって全裸だったし」


「おう……」


「それに、まさかあり得ないだろうと思ったし」


 それでもちょっと申し訳なさそうに話すリーゼ。

 まじかよ、見知らぬ人じゃなかったのか。

 俺、雑草の生き様とかアホな歌を考えている場合じゃなかったよ。


「ま、おかげでベリアが夜中に城を留守にしているって情報の信頼性は高くなったな」


「そうね」


「よし! 少し状況を見てだが、今夜にでも城に行ってみるか」


「慎重にと言いたいところだけど、あまり時間をかけないほうがいいかもしれないわね」


 クライフが来て今日で十日くらい。


 メーテルさん曰く、街の人々の間では会談が長引いていると思われており、騒ぎになっていない……けど、ボチボチ怪しまれていい頃だ。勘のいい者は妙だと考えているだろう。

 いつまでもメナルドを留守にするわけにもいかないし、クライフを助けるなら早いほうがいい。

 ベリアやコルルが動く前に、チャンスがあるなら迷わず行ったほうがいい。


「言っとくけど、城の潜入は俺一人でいくぞ」


「え? わ、わたしも一緒に行くわよ!」


「駄目だ、万が一魔王と交戦した場合のケースを考えるとお前を連れてはいけない。庇いながら戦うのは無理だ。城で二人別行動ってわけにもいかないだろう」


 俺の反論に悔しそうな顔をするリーゼだが、今回は譲れない。

 俺一人ならそうなっても逃げ切れる可能性は高い。


 数秒の沈黙のあと。


「……わかったわよ」


「すまねえな」


「ううん、アンタの足を引っ張りたくはないしね」


 無念そうにため息を吐くリーゼさん。

 潜入にはミラージュリングを装備するつもりだが、魔王連中は当然として、コルルナイトの中には認識阻害を見破れる奴もいるかもしれない。

 そうなると隠密行動できない可能性もある。

 リーゼには悪いが俺一人のほうが気楽に動ける。


「だからリーゼは少しでも潜入成功率を上げるために、城への侵入ルートとか、内部の見取り図とか、とにかくできる限り詳しい情報をメーテルさんと調べて欲しい」


「……ええ、任せなさい!」


「おう、頼りにしてるぜ」

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