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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
リドムドーラの街編

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閑話 リドムドーラ

お待たせしました

更新再開します


二話同時更新一話目です

ご注意を

 アルベルトが変異種を討伐する前に時は遡る。


 クライフ、ベリア、コルルによる三名の魔王による会談が行われた二日後。

 リドムドーラ城最上階、魔王クライフが幽閉されている部屋に一人のメイドが入室する。


「クライフ様、昼食をお持ちしました」


 食事を届けにきたメイドは魔王ベリアの参謀も務める女性で名はキヌレ。

 ベリアと同じ吸血鬼であり、肩で切り揃えた銀色の髪が紺色のメイド服によく映える。

 部屋に入ってすぐ、キヌレの目に映るのは窓際の椅子に座った美青年。

 金の髪が陽光を浴びて煌めいている。

 一見優男見える……が、見た目通りの存在ではないことをキヌレは知っている。

 エルフたちを統べるハイエルフの魔王であり圧倒的な強者だ。


「……クライフ様?」


 キヌレの呼びかけに魔王クライフがゆっくりと振り向く。


「申し訳ありません。邪魔をしてしまいましたか?」


「いや、そんなことはない。考えごとをしていたら少しボ~ッとしていたようだ。すまないな」


 そう言い、食事の置かれたテーブルにつくクライフ。


「しかし、ここは随分と暖かいな、もう冬だというのに……」


「メナルドと比べると暖かいでしょう。冬はわざわざこちらに来る旅人もおります。リドムドーラの周辺は火山帯ですし、温泉も湧いていますからね。それを楽しみにくる観光客は多いです」


「温泉か……風呂好きとしては是非一度入りたいところだな」


「……お風呂、好きなのですか?」


「ああ、メナルド城にも専用の風呂を作らせているくらいだ。温泉ではないが、城の最上階から見る景色は絶景だぞ。機会があれば案内しよう」


「はい……そのときはよろしくお願いします」


 クライフの話にキヌレは当たり障りのない返事をする。


「それでは、後で片付けに参りますので……」


「ああ」


 クライフに一礼してキヌレは部屋を退出する。

 クライフの部屋を出たキヌレが廊下を歩いていると、一人の少女が近づいてくる。


「おつかれ~、キヌレ」


「……コルル様」


 ベリアの配下であり、自身も魔王と呼ばれるコルル。

 ツインテールの赤い髪が歩くたびに元気良く揺れている。

 清楚な雰囲気の漂うキヌレとは正反対に露出の多い服を着ているコルル。

 V字型の黒い服で、胸と股間といった大事な部分しか隠れていない。


「キヌレ、クライフはどんな感じ?」


「先ほども部屋に食事を届けに行きましたが、静かなものです」


「ふ~ん、そっか……」


 キヌレの話を聞いて、コルルが何かを考える仕草を見せる。


「コルル様は……その、今回の呪いの件についてどうお考えでしょうか?」


 いい機会だと思い、キヌレはコルルにクライフのことを尋ねることにする。


「どうって?」


「魔王クライフが本当に犯人だと思いますか?」


「……」


「ベリア様は今回の呪いの件について一刻も早く解明しようとお考えです」


 会談のあと、急ぎで本国のアスタニアに使者が送られた。

 呪いに詳しい錬金術師のマーレルをリドムドーラに呼び寄せるためだ。


「彼女がここに来れば呪いについて何か判明するかもしれない。クライフが呪いの術者であれば焦りのようなものが感じられるはずなのですが、会談から二日が経過した今もそういった反応が見られません。本人の主張通り、無実であることに絶対の自信を持っているように思えます」


「いや~内心は一杯一杯なのに余裕を演じてるのかもよ……隙を見て城を脱出するつもりかもしれないよ? 今も私がこうして近くにいることはクライフも気づいているでしょ」


「はい……それは重々承知しています。ですが、ベリア様が城を出かけて留守のときも、動く気配すらないものですから」


「あ~ベリア様、ここに来てハマってるみたいだからね。私も一緒に連れて行って欲しいのに、魔王が二人同時に留守にするのはさすがに駄目ってことで断られたんだよね……おっと、話が逸れちゃったね、ごめんごめん」


 ゴホン、と軽く咳払いをするコルル。


「本題に戻るね。まぁキヌレの言う通り本当にクライフは犯人ではなく、だからこそ私たちの信頼を得るために自身の意志で大人しく幽閉されているって考え方も理解できるよ。拘束、幽閉といっても言葉だけで、魔王クライフを強引に閉じ込める牢屋なんてここにはないしね。逃げようと思えば逃げられるはずだから」


「……確かに」


 今回の件、幽閉の提案はクライフ自身の要望もあった。

 周囲に味方のいない彼としてはここで確かな関係を築いておきたいのだろう。

 そんな男がベリア様に敵対するような真似を本当にするだろうかとキヌレは考える。


「ベリア様も半信半疑なんだと思う。強引な手段になるけどベリア様なら呪魔法を使えばクライフを弱体化させることもできる。でも、そこまではしていないからね~」


「……」


「まぁ仮にクライフがメナルドに戻っても、領地を見捨てて逃げるわけにはいかない。最終的に戦うことになったとして、クライフの実力じゃ私には勝ててもイモータルフォーのベリア様には絶対に勝てない……そんな計算もあるんだろうけど」


「ベリア様は望んでいないでしょうけどね」


「そうだね……」


 コルルが頷く。


「ならコルル様も魔王クライフが無実である可能性は高い、と?」


「うん……ただね。クライフから違和感も感じるんだよね」


「……なんでしょう?」


「ちょっとクライフの判断が思い切りが良すぎるというかね……残してきた妹のことも大事なはずなのに」


「留守中のメナルドの様子はさすがに気になっているようですが……」


「それでも、だよ……」


 主力の魔王が留守となるメナルドを狙って、他の魔王が動くかもしれない。

 だからせめて、自分がリドムドーラから動けないという情報だけでも、代わりに街を治めている妹に伝えたいとクライフはベリアに訴えた。

 ベリアはそれに応じたわけだが……。


「情報を伝達するだけでいいの? 戦力が増えるわけでもないし、妹さん一人で魔王と渡り合えるわけがないよ。まぁそれだけのリスクを負ってでも、ベリア様との関係を修復したいとも考えられるけど……」


 訝し気な顔を浮かべるコルル。

 実際、メナルドでは既にアークデーモンの襲撃事件が起きており、アルベルトとラザファムにより阻止されたのだが、この時点では情報がリドムドーラまで入ってきておらず、彼女たちはそのことを知らない。


「つまり、魔王クライフが余裕を持てるだけの何かが向こうにあると?」


「わかんないけどね、全部推測だよ。ま、とにかく……呪いについては私たちが論議しても水掛け論になるし、専門家に任せて確たる証拠を見つけてもらったほうがいいよ。本当は『誘惑(テンプテーション)』を一時的にクライフに使えば嘘つけないし、手っ取り早いんだけれども……」


 サキュバスクイーンであるコルルは異性の性欲をコントロールして、相手を精神支配する固有能力『誘惑(テンプテーション)』を持つ。

誘惑(テンプテーション)』は相手の性欲が高まるほどより強い効果を発揮する。

 コルルが露出の激しい煽情的な恰好をしているのもそういった理由だ。

 服装に加えて、幼い顔と不釣り合いな出るところは出たボディも相まって男の性欲を刺激する。


「自分と同格の相手には『誘惑(テンプテーション)』は効き目が悪いしね。クライフは女性に対するそういった感情が薄いみたいだから余計にね」


「わかるんですか?」


「そりゃあサキュバスだもん。種族柄そういうのは一発でわかるって。隠してもなんかこう……男の周りから独特の臭いが漂ってくるの。クライフはその臭いが薄い、ないわけじゃないから同性愛者ってことはないと思うんだけどね」


 思案顔を浮かべるコルル。


「と……まぁ色々言ったけど、でも正直私としてはどっちに転んでもいいんだよね。クライフが参入しないならしないでいい」


「コルル様……サキュバスですけど、あまり男性が好きではありませんものね」


「そんなことないよ~、男って言うこと聞いてくれるから可愛いよ。粗野で野蛮で女性をいやらしい目でしか見ない男も『誘惑(テンプテーション)』を使えばイチコロだもん」


「コルル様の思い通りにいかない男なんて一握りでしょう」


「あはは……まぁそうだね。でもね、『誘惑(テンプテーション)』が通じなくても、クライフは紳士っていうのかな、下卑た感じはしないし、あ~いうタイプは嫌いじゃないよ」


「そうなんですか」


「うん、ま、その手のタイプは敵対するとその分やっかいなんだけど……ね」







「……呪い、ね」


 話を終えて、キヌレと別れて一人になったコルルはポツリと呟く。

 ベリア様の配下の誰かにかけられたという呪い。

 会談後……ベリア様はそう仰っていたが一体誰のことだろうか? 

 呪いの具体的なことをベリア様は私にも話してくださらなかった。


 今回の件、考えると色々とおかしいな点が多い。

 普段は報告、連絡、相談をキッチリするように言う方なのに……。

 主を不審に思うのは配下としてよくないとわかってはいるけど。

 ベリア様はおそらく大事なことを隠している、もしくは嘘をついている。

 思い返せば温泉で再会したときから少し様子がおかしかった気がする。


 妙な事態が起きなければいいけど……。


 ベリア様は王たる風格を持つお方。

 普段はとても美しく、お優しい……私たちを大切にしてくれているのがわかる。

 とはいえ、甘いわけではない、戦いとなれば敵の命を奪うことに容赦はない。


 でも……なんていうのかな。


 敵と判断すれば容赦ないんだけど、その線引きがキッチリするまではなかなか動かないというか、受け身というか。

 少し前に終結したランヌとの戦争でも相手に仕掛けられたから応戦したわけだし。

 戦いを始める前に事前勧告を何度も重ねていた。

 これまではそれでも無事に事を運んでこれたけど、優しさから生じる判断の遅れが致命的な事態を引き起こさないとは言えない。


 私はあの方には返しきれないほどの恩がある。

 過去、私が能力を制御できずに、男たちに乱暴されかけていたところを助けてくれた。

 持て余していた能力のコントロールの仕方を教えてくれた。


 今、私がこうやって生きていられるのはベリア様のおかげだ。

 だから、もしその迷いがベリア様を傷つけることになるのならば……。

 手遅れになる事態を起こすのであれば。


 あとで叱られるとしても、忠誠を誓う主のために……その時は。



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