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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
メナルドの街編

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クラーケン5

「無事か! ルミナリア!」


「……お、父さん?」


 上空には黄金の龍の姿と化した父の姿。

 父は翼をはためかせて、風を巻き起こしながら、私の隣に下降してくる。


「ど、どうしてここに?」


「少し前にギンが城に来てな、海の異常を教えてくれた」


「ギンさんが……」


 集落から戻って来たんだ。


「それで、討伐依頼を受けたお前が危険だと思ってな。単身ここまで飛んできたというわけだ」


「……そ、そうなんだ」


「ああ、今度は間に合ってよかった」


「うんっ、うん……」


 我慢していた涙が零れる。

 父が大きな腕で私を優しく抱きしめる。


「……タイミング、バッチリだったよ、ありがとう」


 周囲を見れば、傭兵たちが突然現れた父の登場に唖然としている。

 突然現れた雷龍。

 敵か味方なのかもわからずソワソワしている。


「ル、ルミナリア……そ、その雷龍は?」


「私の父です」


「ち……ち?」


「はいっ! 最強の援軍ですよ」


 質問したライオルさんが口を開いたまま、呆然としている。

 この状況で、こんなに心強い助っ人はいない。

 エルザさんが一目ぼれした時は泣きたい気持ちになったけど、今は自慢の父だと紹介できる。


 父の登場に怯むクラーケンたち。

 硬直していると言ってもいい。

 先ほど大魔法を放とうとしていた変異種も警戒している様子だ。

 数の上では圧倒的に優勢であるはずなのに、その目には怯えの感情が見える。

 魔力感知の得意な彼等は父の強さをなんとなく感じとっているのかもしれない。


「あの黒いの……まさか変異種か?」


「知ってるの、お父さん?」


「ああ、来る前に聞いた。何故ここにいるのかは知らないがな……リーゼ嬢とギンの懸念が完全に当たってしまったな。補給島にも別のクラーケンたちが襲撃をしているそうだ」


「そ、それじゃあ街も、急いで戻らないと!」


「……まぁ、そっちはアイツに任せておけばたぶん大丈夫だろう。今はこっちだ、変異種を仕留めれば、クラーケンたちの指示系統が乱れて群れは瓦解するらしい」


「……なるほど」


「なんにせよルミナリアは少し休んでいるといい、後は俺に任せておけ」


 お父さんは大きな手をソッと私の頭に乗せる。

 心配するなと微笑みかけて、上空へ羽ばたく。


「さて……貴様ら」


 父の雰囲気がこれまでのモノと一変する。

 家族に見せるものとは違う、普段は潜んでいる、敵対する者にのみ見せる最強龍としての顔。

 父の全身から辺り一面に膨大な魔力が溢れ出す。

 感知の得意でない、私ですらその魔力を感じ取ることができるほど。


「大事な大事な大事な大事な大事な大事なウチの可愛い娘に傷をつけおって!」


『ギュルルエ?』


「覚悟はできているな、死で償ってもらうぞ!」


 気のせいか、クラーケンの触手が震えているような気がする。

 クラーケンたちからすれば、父は畏怖の対象でしかないのだろう。

 しかし、あの黒いクラーケンの命令のせいかそれでも退却する様子はない。

 警戒した変異種が自身の周りにクラーケンを集める。


 数の上では絶対的に不利なこの状況。


「……関係ないな、消えろ」


 父の怒りに呼応するように、上空が光り出す。

 あまりの眩しさに上を見上げることができないが、海面に映し出された映像から、大量の光の塊が確認できる。


 クラーケンたちから、父のいる空に向かって幾本もの触手が伸ばされる。

 だが、父は少しも動じない。

 その触手が父に触れることはなかった。


 数瞬後、豪雷が轟く。


 無数の『雷雨(サンダーボルト)』が海面に向けて降り注いでいった。


 雷の行く先は当然……。


『ギュオオオオオオッ』、『ュオオオオオオッ』、『ギュイイイイオオッ』


 直撃を浴び、断末魔の声を上げるクラーケンたち。

 海面には真っ黒い煙を上げた死体がプカプカと浮かぶ。


『ギュイイイイオオッ』

『ギイイイィィィッ』


 雷は無情にもその命を刈り取っていく。

 私や他の傭兵たちが、一体倒すのにも戦略を立てて時間をかけて苦労して討伐した魔物。

 いくら弱点とはいえ、全てをたったの一撃で……数が増えても圧倒的な力の前では無意味とばかりに。

 それでもクラーケンだからこそ、消し炭にならず、まだ原形が残っているのだろう。


(やっぱりお父さんは……凄い)


 これが、これこそが真龍。

 アルベルトさんは本当にどうやってこの父に勝ったのだろう?

 『雷雨(サンダーボルト)』を受けて、生命活動をするクラーケンはいなくなった。

 

 だが……。


「お父さん!」


「ち、思ったより効果が薄いな」


 先ほどの落雷を受けても、まだ変異種は動けるらしい。

 とはいえ、変異種も無傷ではなく、身体からは煙が上がっており、ダメージが確認できる。

 『雷雨(サンダーボルト)』の防御に使用した触手が、根こそぎなくなっているのがわかる。


 それでも行動停止には至っていない。

 父を海中に引きずり込もうとしているようだ。

 海面から変異種の黒い触手が伸びて父の腕に絡みつく。


『ギルエ?』


「ふん、そっちから来てくれるとは好都合だ。貴様にはコイツをくれてやる」


 父の口にみるみる内に高密度の魔力が集中していく。

 バチバチと光り出し、真っすぐに光の線が発射される。

 変異種に向けて放たれる特大のサンダーブレス。


『ギュエエエエエエエエッ!』


 激しい痛みからか、変異種が大きな悲鳴をあげる。


 数秒ののち、雷光が消えて、視界が晴れてくる。

 だが、そこには変異種の姿はなかった。

 確認できたのは空に浮かぶ父の姿だけだ。

 父はどこか悔しそうな表情をしている。


「ど、どうなったの? ……倒したの?」


「いや、ブレスを受ける直前で触手を自分から切断して、海底へと離脱したようだ。変異種だとしたら仮にも魔王級、一撃で死にはしないはずだが……、少し探ってみる」


 父が魔力感知で海底の魔物を探る。


「……やはり生きてるな。海底に大きな魔力の反応がある。ダメージはあったみたいで、当初よりも魔力は減っている。だが……」


「……」


「ち、どんどん深いところへ移動しているな。浮上しているうちに、どうにか仕留めておきたかったんだが……」


 父の強さを知り、不利と判断して一目散に逃げたのだろう。

 父は海の中で長時間潜れないため、追撃ができない。


「ここから攻撃は……駄目、か」


 父曰く、攻撃自体はこの距離なら可能だが、変異種に有効な威力を出すとなると、相応の魔力を溜める必要もあり、あたり一帯の生物が感電して死滅することになる。

 それでも、変異種を仕留め切れる保証もないとのこと。


「あれ……?」


「どうした、ルミナリア?」


「うん、ちょっと……」


 いつの間にか、クラーケンの死体がなくなっている。

 さっきまで沢山海面に浮かんでいたのに。


「ルミナリア、一先ず街に戻るぞ」


「う、うん」


「アルベルトは実力は文句ないが、大ポカしそうな気もするからな」


 同じことをアルベルトさんも思ってそうだけど。

 変異種は逃亡したが、とりあえずの決着が着いた。

 辺りには船の木片が浮かび、無事とは言い難い状況だが、命があるだけいい。



「えっと……」


 そこで、おずおずと傭兵の一人が代表して前に出てくる。

 急展開故に置いてきぼりにされていた彼らは、話に割り込むタイミングを窺っていたようだ。


 少し怯えながらも、傭兵たちは父へと助けてもらった礼を述べる。


「そ、それで、その、わ……私たちも一緒に連れていっていただけないでしょうか?」


「……」


 父がいないと知れば変異種は戻ってくるかもしれない。

 そうなれば残された傭兵たちは確実に命を落とすことになるだろう。


「お父さん、いける?」


「一隻ならな。時間がないが仕方ないか……そこの船に全員を集めろ!」


 父の意を聞いて慌てて動き出す傭兵たち。

 急いで街に戻らなければならないが、こんな場所に彼らを置いていくわけにもいかない。



 

 私は隣に立つ父と皆が作業する様子を見つめている。

 父は作業の邪魔にならないように人化している。


「お父さん……ありがとう」


 私はもう一度父に礼を言う。


「なに、娘を助けるのは父として当然のことだ」


「……でも、これじゃ小さい時と変わらないね」


 父を心配させないように強くなったのに……。

 積み重ねてきた百年以上の時間を否定されてしまったみたい。

 少しだけ、落ち込んでしまう。


「そんな顔をするな、俺はお前の実力を評価していないわけではないぞ」


「お父さん?」


「ルミナリアが強くなったから、俺が来るまで持ちこたえることができた。だが、それとは別にな……父として娘が心配なんだ。年月を重ねてルミナリアがどれだけ強くなろうが、仮にミナリエと同じくらい強くなったとしても、それは変わらない、ずっと心配なんだ……」


「……」


「ま、万が一嫁に行って、俺以外にお前を守ってくれる男が現れようが、俺はずっと心配してしまうだろう」


「ま、万が一とか言わないでくれる?」


 でも、こういう時の父はやっぱり格好いいなぁと思う。

 普段は駄目なところのほうが目立つ人だけど、ここ一番で助けてくれる。

 私の尊敬する父だ。


「ルミナリア、すまんが少し離れる」


「お父さん、どこへ行くの?」


「……少しな」

 

 父が作業中の船の下へと歩き出す。

 見ていて気になる点があったらしい。

 ペコリと父に会釈をする傭兵の方たち。


「おい、もう少し荷を減らせないのか?」


「す、すみません……重いですもんね」


「いや、重量的には問題ないが持ちにくい、はみ出しているではないか。速度も出るから危ないぞ。高度三百メートルから落としても文句を言うなよ」


「……え」


 そもそも落ちたら死んじゃうから文句は言えない。

 でも、言っていることは正論であるので、黙って見守る。

 父の意を聞いて、再び作業に戻る傭兵たち。


「おい、もっと荷物を削れ、怪我人もいるんだぞ、人員優先だ」


「「「は、はいっ!」」」


「食料は勿体ないが捨てろ、細かいものは諦めろよ」


 相手は恩人であり、緊急事態であるため誰も文句は言わない。

 父の素性は話してないが、父が何者なのか察している者もいるかもしれない。

 先ほどの戦闘は一般的な古龍の範疇を超えている。


 父は次々と傭兵たちに指示をしている。



「おいエルフのお前……その剣は捨てていけ! 絶対にだ! それだけは持ち込むことは許さん!」


「え、いや、これはその……希少な」


「ほう、よりによって、この俺の言うことが聞けないと……いい度胸だ」


「ひいいいいっ!」


「……置いて行かれたくないだろう。ならわかるな?」


 ライオルさんに脅すように詰め寄る父。

 それを見て、溜息が零れる。

 その目的はなんというか。


「……お父さん、何を捨てさせようとしてるの?」


「い、いや、ルミナリア。これは、その……」


「もうバレてるから、証拠隠滅しても無駄だよ。あとで事情を聞かせてもらうよ」


 本当にしょうがないんだから。

 まぁそのおかげで助かったのも事実なんだけど。


 十五分ほど経過し準備が完了する。

 最小限の荷と人員が乗った船ができあがる。

 少し窮屈ではあるが、仕方ないだろう。


 父は再び龍化して、両腕で船を抱えて浮上していく。

 私は二百年振りに父の背に乗り大空を飛んだ。


「……ふふっ」


「どうしたルミナリア?」


「ううん、なんでもないよ」



 父の背中は昔と変わらず広かった。

次回からアルベルト視点に戻ります

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